~第六話~
俺の戦いは、決して自ら望んだものではなかった。
何の自覚もないままに……
ただ運命に翻弄され、巻き込まれただけの哀れな“被害者”に過ぎないのだと、何時も自分を慰めていた。
けれど、だからと言って逃げ出す事も出来なかった。
そして戦うには……
人を傷つけるには理由が要る。
最初は祖父の仇討ちが理由だった。
しかし、やがて理由は"虐げられた人々を救いたい"という願いに変わっていく。
それを支えているのは"己は正しいのだ"という想い。
戦うには大義名分が必要だった。
だが……
立場が変われば“善悪”は変わる。
それぞれの戦う理由、それぞれの正義。
この世が人の世である以上、絶対的な正義も悪も存在しない。
異能の能力を持つ一族の族長ブラッドの娘テラとの出会いと別れが、そんな俺の戦いの結末を微かに予感させた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
テラは最初、記憶喪失のフリをして俺たちに近づいて来た。
俺たちの動向を探るのが目的だったが、あわよくば俺の暗殺を実行するつもりだったのだろう。
けれど俺たちと一緒に旅をし、サザンの圧政に苦しむ人々を目の当たりにして、彼女は自らの一族の過ちに気づいた。
それからの旅は多分、彼女にとっても苦悩の連続だったに違いない。
彼女自身に一族を正したいという想いはあっても、裏切る気など毛頭なかった筈だ。
しかし、実の姉イサドラが俺たちを襲った時(多分イサドラは俺たちと一緒に、一族を裏切ったテラを粛清するつもりだったのだろう)彼女は咄嗟に俺を庇った。
「ロト、危ない……っ!」
その光景は、故郷の村で祖父を失った刹那の記憶と交錯する。
テラ……どうして? 何で、俺なんかを庇って……?
何も出来ない。
ただ見ている事しか出来ない、無力な自分への怒りがこみ上げてくる。
嫌だっ! もうこれ以上、大切な人を失うのは!
そう思った瞬間……
俺の超能力は突如、覚醒した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「くそ……っ、なんて力だ! まさか、王子の力がこれ程とは……」
イサドラは脇腹と腕に傷を負っていた。
俺の力が発動した瞬間、彼女は咄嗟に防御壁を張ったが、俺の放った力は防御壁を易々と貫いた。
全ての力が彼女に集中していれば、当然命は無かっただろう。
怒りと哀しみに任せて突如爆発した俺の力は制御不能で、それが彼女には幸いしたのだ。
だが、その場を逃れる為に瞬間移動した事で、彼女の傷は更に悪化していた。
テラのエピソードはカットするつもりだったのでキャラクター紹介をしたのですが、やっぱり後悔したくなかったので少しだけ記述させて頂きました。
これを書かないと、この後の戦いもカットする事になりますし。
今回はテラの姉イサドラの登場です。
イサドラとテラは実の姉妹ですが容姿も性格も全く違います。
イサドラは父親似、テラは母親似という設定なんですよね。
因みに二人の母親は故人です。




