~第五話~
アル・サドマリクへの道程は決して平穏なものではなかった。
追っ手からの命がけの逃避行。
しかもそれは、アル・サドマリクに近づけば近づくほど激しくなる事は容易に想像出来る。
それでも俺たちは“其処”に辿り着かなければならないのだ。
俺たち一行は旅路を急ぎながら、その間に俺はフリーから剣を、セレナから眠っている(筈の)力を目覚めさせる為の訓練を。
そして母グロディアとハーリスから“帝王学”を学んだ。
“王子”としての自覚は持てずとも、行く先々でサザンの圧政に苦しむ人々を見るにつけ"この現状をどうにかしたい"という思いは否応なしに湧いてくる。
だが――
「俺は未だに信じられないんだ。……この現状が」
「えっ?」
「今になってもまだ、こんな事を言うのはおかしいんだ。それは嫌と言うほど分かってる。でも口にこそ出さないが、グロディア様もハーリス様もそう思われてる筈なんだ。もう、あの男は昔の“奴”じゃないって何度もそう思い知らされてるのに、な」
懐古の想いさえ含んだ……絞り出すように語られたフリーの言葉。
「それって、サンダー大臣の事?」
「ああ、俺は奴をよく知っている。否、少なくとも知っていると思ってた」
それは彼を止められたなかった己に対する自責の念さえも含まれているように、俺には感じられた。
「サンダーは確かに野心家だった。それは否定しない。だがあいつは曲がった事は嫌いだったし、奴の野心は自らの覇権では、決してなかった。あの男は子供の頃からレグルス陛下に心酔してた。陛下の為なら喜んで自らの命さえ捨てられる……そういう男だったんだ」
「…………」
「ブラッドにしてもそうだ。あの一族は異能の力を持つが故に『悪魔だ! 化物だ!』と罵られ蔑まれ、各地を転々としていた“流浪の民”だった。それをお知りになった陛下が彼らを不憫に思われ、手厚く保護されたんだ。ブラッドとその一族はサザンで初めて安住の地を得た。感謝こそすれ、陛下に弓を引くなんて事があってはならないんだ!」
裏切りの理由。
それは俺には分からない。
けれど仮令どんな理由があったにせよ、今のこの現状を許しておく訳にはいかない――そう思った。
この時の俺には、彼らの心情を慮る余裕など到底持てなかったのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
故郷の村を出てから、一つ気になっている事があった。
それはある“男”の存在。
付かず離れず、まるで影のように俺たちを尾行している男。
だが……それに気づいているのは多分、俺だけだ。
母やフリー、そしてセレナでさえ気づかない。
それほど見事に気配を絶っているにも係わらず、俺にだけその存在を気づかせる事の出来る男。
敵なのか味方なのか?
それすらも定かではなかったが、俺は"敵じゃない"と確信していた。
もし彼が敵だったら、もう疾うに俺たちの命はない。
俺はただ、その男の目的が知りたかった。
今にして思えば、それは恐れを知らない無謀な行動だったのかもしれない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「まさか、自ら一人になるとは思わなかった」
宿泊していた宿から夜中にこっそり抜け出した俺に、男は案の定、声を掛けてきた。
はっきりと顔を見たのはその時が初めてだった。
漆黒の髪と青い瞳を持つ端整な顔立ちの男。
歳は俺より七つ八つ上、か?
「あんたと話がしたかったんだ。あんただってそうだろう? だから俺にだけ自分の存在を知らせてたんじゃないのか?」
「ほぉ〜。普通の子供と変わらないと思っていたが、やはりレグルス・ナスルの血を継いでいるのは間違いないようだな」
俺の言葉を聞いて男はニヤリと笑った。
「それはどうかな? だが、確かに現在の私は敵として此処に居る訳じゃない。ロト王子、お前たちの一行はシュンガの港から船に乗るつもりなんだろう? キアヴェンナ大陸に辿り着けば其処からはもうサザンまで陸続きだ。いいか、それまでに必ず能力を目覚めさせろ! そうしなければ、お前たちに生き延びる術はない!」
「…………」
「そして、もう一つだけ忠告しておく。敵に情けを掛けるな! 躊躇えば自らが命を落とす事になる。相手の息の根を止める事が、その相手を“救う”事もあるのだ……という事を覚えておけ!」
「……死なせる事が救いになる? それは、どういう……?」
そう言うと、男は踵を返した。
やっとこのキャラを登場させる事が出来ました。
中学生の時に描いてた漫画には割と最初の頃(ロトが故郷の村に居た時)
から登場するキャラなんですけどね。
「サザンの嵐篇」=「時の道標(みちしるべ)」~の主要キャラの一人です。




