~第四話~
辛くも追っ手から逃れた俺たちは一路、アル・サドマリクを目指していた。
アル・サドマリクは北方の国。
彼の国はサザンと国境を接するにも係わらず、唯一サザンの脅威を寄せつけない国であり、サザンの圧政に喘ぐ人々の心の支えとなっていた。
俺の実母であり、今は亡きサザン王レグルス・ナスルの后グロディアはアル・サドマリクの第一王女であり、現国王アドラ・ジャウザは母の弟に当たる。
旅の一行は五人。
俺と俺の母グロディア、左大臣ハーリス(白髪に髭を蓄えた初老の男)とその孫娘セレナ。
そして父の側近だったフリー(右目に眼帯をした男)
フリーは気さくで豪快で、旅の道中、何も知らない俺に色んな話をしてくれた。
今の世界の情勢や亡き父の事。
サンダーにはブラッドという族長が率いる人外の能力を持った一族が付いている事。
その一族に対抗し得る能力を持っているのはセレナしか居ない事、云々……。
けれどそれは、祖父を亡くし"さよなら"も言えずに故郷の村を去らねばならなかった俺の心には届かなかった。
13年前、父が身を挺して俺と母を城から逃がした後、母は左大臣ハーリス配下の兵に護られながらサザンからの脱出を計った。
……が、執拗な敵の追撃に仲間は散り散りになり、アル・サドマリクの王城で落ち合った時、俺と俺を連れて逃げた臣下の姿はなかった。
後にその臣下が変わり果てた姿で発見され、俺の生存は絶望視されたが母は諦めず、俺の消息を掴むのに13年の時を要した。
俺がどういう経緯で祖父マイク・フライハイトの手に渡ったのかは定かではない。
「じっちゃんはどうして、俺に本当の事を教えてくれなかったのかな?」
「さあ、なあ~。俺は当人じゃないから本当のところは分からないが、王子を大切に思ってた事だけは間違いないと思うぞ」
フリーたちが俺を迎えに来たのが俺の誕生日だったのは偶然にすぎない。
けれど、その日の朝に祖父が俺にサザンの話をしてくれたのは虫の知らせだったのか、それとも……?
もし祖父が俺に全てを話してくれていたら、俺はどうだったんだろう?
サザンの王子として人々の幸せの為にサンダーと闘う。
そんな自覚を持てたのだろうか?
――それは分からない。
でも俺には……少なくとも、現在の俺には到底無理だ。
俺は、俺を護る為に死んだ祖父の仇が討てればそれでいい!
それが精一杯の想いだった。
出来得るならば、戦いたくなどない!
「王子にもセレナ姫と同じ能力がある筈なんだが、な」
「えっ?」
「俺は亡きレグルス陛下の側近だったからな。産まれたばかりの貴方に御目通りを許されたブラッドが"御子様に偉大な力を感じます"と陛下に言上してたのを聞いた事があるんだ」
「…………」
俺に力がある?
そんな事知らない。
そんな力……自覚した事も、ましてや使った事など一度もない!
でも、もし俺にそんな力があるのなら……
もし、あの時使う事が出来ていたなら――俺は祖父を死なせずに済んだのか?
何を聞いても俺の想いは其処へと帰着する。
俺にあるのは祖父を死なせてしまった事への後悔だけだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
セレナは、そんな俺をどう思っていたのだろう?
ずっと戦ってきた彼女は?
彼女は何も言わなかったし不甲斐ない俺を責めたりはしなかったが
「戦士に長い髪の毛は要らない!」
そう言って彼女は、俺の目の前で美しい黄金の髪を切った。
――セレナ、俺は――
何時までも祖父の死を引き摺っていた俺への、それが彼女の無言の意思表示だった。
世界に比類なき大国の左大臣の孫娘として生を受けたセレナは、世が世なれば“お姫様”として何不自由なく暮らしていた筈なんですが、物心ついた時から“戦士”として生きてきたんですよね。
長い髪はセレナが唯一“女の子”として大切にしてたんですが、それをロトの為にばっさり切って……ロトもそれを分かってるので、これはかなりショックだったと言うか、セレナにこんな想いをさせてしまった~と発奮するきっかけになったのです。
「時の道標(みちしるべ)」はロトの回想という形で書いてるので、あくまでロト視点の物語になります。
なので漫画を知ってる方は受ける印象が若干違うかもです。
漫画はその時によってそれぞれの視点で描いてますしね。
話は変わりますが、フリーはすっかりロトに対してタメ口になってますよね。
まあ、ロトが全然普通の子で王子らしくないのもあるんですが、フリーはフリーなりに気を遣ってます。
勿論きちんと時と場合を弁えてますけどね。




