~第二話~
大国“サザン”は平和で美しい国だった。
だが、今から約13年前――
待ちに待った世継ぎの御子の誕生を国中で祝っていた最中、信じられぬ事態が起こった。
それは王に心酔していた臣下の反乱。
“乳兄弟”として育ち、“腹心の友”と王が信じて疑わなかった右大臣の裏切り。
王は后と産まれたばかりの御子を逃がす為にその命を散らした。
しかしその甲斐もなく、二人の生死は不明。
サザンの実権を握った右大臣サンダーは、その反乱に加担した或る一族を率いて次々と周囲の国々を侵略。
強大な武力と異能を用い、逆らう者には容赦なく、悪魔のようなその所業に“世界”は暗黒の時代を迎えた。
幾らスィーが辺境の国で世界の情勢には疎いと言っても、それくらいの情報は伝わる。
何時か、この国にもサザンの脅威が及ぶかもしれない。
口にこそ出さなかったが、そんな不安を大人たちは抱えていたのかもしれない。
俺は13歳の誕生日の朝、唐突に祖父からその話を聞かされた。
「その御子様が生きていてくれたらいいね。悪い大臣から国を取り戻して、虐げられた人々を幸せにしてくれたらいいなあ~」
俺は率直にそう答えた。
誰もが憧れる“英雄譚”。
世界を平和に導く“救世主伝説”。
当然、自身が行動しようとは思わない。
何処までも無責任で他力本願な願い。
しかも、それは飽くまでも自分には関係のない遠い世界の“出来事”だと思っていた。
けれど、そんな俺の想いとは裏腹に運命は動き始める。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お迎えに上がりました、ロト様」
白髪に白い髭を蓄えた厳格そうな初老の男が、俺の前に跪いてそう言った。
その男の背後に控えていた右目に眼帯をした、がっちりした体格の男もそれに倣う。
村人以外に、誰かが家に訪ねて来た事など一度もなかった。
じっちゃんに客? 珍しい事もあるなあ~。
そう思った矢先の、思いがけない出来事だった。
「おお……っ、何とご立派になられて。グロディア様譲りのアル・サドクリクの青銀の髪と翠玉の瞳。そして、亡き陛下に生き写しのその麗しきご尊顔。正に思い描いていた通りの……」
跪いたまま俺の手を握り締め、涙で頬を濡らす男の声が遠くに聞こえる。
ついさっき、祖父から聞かされたばかりの“物語”。
遠い国の……
自分には無縁の……
ほとんど現実味のなかった“物語”の当事者が“己”なのだ――とその男は暗に語っている。
俺は縋るように祖父を見た。
"全て嘘だ"と……
"そんな見知らぬ男の言葉を信じるな"と……
そう言ってほしかった。
だが祖父は済まなそうに俺から視線を逸らすと、深々と頭を垂れた。
「じっ、ちゃん……」
その瞬間――
この男の語った言葉は全て“真実”なのだと、俺は直感した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
気がつくと、俺は家を飛び出していた。
頭の中が真っ白で何も考えられない。
ただ足は、“占い師のお婆”の家へと向かっていた。
――旅に出る事になる――
というお婆の占いはこの事だったのか?
そう思ったからかもしれない。
しかし、その途中……
川の近くを通りかかった時、微かな声が聞こえた。
「未だ、傷は痛みますか?」
真っ白だった俺の心に、不意に響いた“声”。
「誰か居る? 怪我をしてるのか?」
俺はその声に導かれるように川辺に向かった。
俺と“彼女”の出逢いだった。




