~第三話~
惑星ロウヴは、人口一千万人足らず。
人口のほとんどが農業に従事している、所謂“農業惑星”だった。
長閑な田園風景が果てしなく続く惑星――
ノアールはソールからの情報を基に“SILVER・WOLF”を見たという人物を訪ねた。
惑星リースを発つ前に面談の約束は取っていたが、その人物は何時まで経っても約束の場所に現れない。
再度連絡を取ろうと試みたが、無駄足だった。
ノアールがロウヴに到着する前に、その人物の消息は既に途絶えていたのだ。
やはり何者かが“SILVER・WOLF”の情報を意図的に抹消しているとしか思えない。
それとも“SILVER・WOLF”と銀河連邦の接触を阻止したいのか?
(俺の動きはその何者か――個人か、或いは組織か?――にリークされていると考えた方が無難だろうな)
そう思った瞬間――
(まさか……っ!?)
嫌な予感が脳裏を過ぎる。
「ソール! 聞こえるか、ソールっ!?」
ノアールは腕時計に内蔵されている通信機を作動させた。
「…………」
繋がってはいるようだが応答はない。
「返事をしろ、ソール!?」
数瞬の後……
「……何だ? 騒々しい。怒鳴らなくても聞こえてるよ」
何時もと変わらぬソールの声が聞こえた。
(取り越し苦労だった、か?)
「いや、変わった事はないか……と思ってな」
「変わった事? 別に何もな、い……ああっ! 足許で見知らぬ男が二人ほどお寝んねしてるくらいだぜ」
「っ!?」
ソールの返事を聞いて、思わずノアールは絶句する。
(そんな事を、事もなげに言うな!)
「やっぱり襲われたのか!? 大丈夫か、怪我はっ!? 済まない、俺の所為だ! 俺が……」
(迂闊だった。まさかソールを巻き込む事になろうとはっ!)
「な~に、気にするな。俺も仕事柄こんな事は日常茶飯事だ。それより、お前の方こそ気をつけろよ。俺を襲った奴ら、身許を証明するものは何も持ってなかったが、こいつら多分……SDAだぞ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SDA――それは"SPACE=DUKE=ARMY"と呼ばれる謎の組織の略称。
“D”はSDA総帥のファースト・ネームだという話もあるが、真偽の程は分からない。
何時、結成された組織なのか?
総帥とは何者なのか?
本拠地は何処にあるのか?
そして、その目的は――?
それすらも定かではない。しかし連邦に匹敵する勢力を誇る一大組織。
連邦内部に――否、上層部にもさえSDAのメンバーが紛れて居るという噂まであった。
ソールが狙われたのなら、自分が狙われるのは必定。
ノアールは殊更に居住区を避けて行動していた。
相手を誘き出すには自らが囮になるのが一番だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「連邦の情報部にもこんなイイ男が居たんだね~。厳ついオッサンばかりかと思ってたよ」
その声がする直前から、腕時計の警告音が鳴り響いていた。
「ESP反応……SDAの超能力者か!?」
相手は三人――
赤い髪の女エスパーだった。
ノアールは勿論、対エスパー戦の訓練を受けているし、それなりの装備も携帯している。
“ESPジャマー”――それはある一定レベルのESPを無効化出来る装置。
ESPが使えなければエスパーと言ってもただの人間。
銃撃戦や格闘において、余程の相手でもない限り、ノアールが遅れを取るとは考えられない。
しかし……
ジャマーは確かに作動していた。……が、それは何の効力も発揮しなかった。
(どういう事だ? このジャマーはAランクのESPを無効化出来る筈だぞ!)
――まさかっ!?――
ノアールは敵のESPを躱しながら障壁を張った。
けれど、まるで三位一体のような息の合った凄まじいESP攻撃に、シールドを維持するエネルギーが著しく消耗する。
シールドが消滅すれば命はない。
「殺られるっ!」
ノアールはその瞬間、死を覚悟した。
だが……
ノアールは対ESP用の装備を全て身につけてます。
ジャマーはベルト、シールドは腕時計(通信、探知機能も付加)に内蔵されてます。
ご大層なお荷物を持って自由には動けませんしね。
これらは小型で高性能ですが、小型であるが故に長時間使えないという欠点もありますけどね。
因みにノアールが普段(任務によって臨機応変に変更しますが)所持している銃は“麻酔銃”です。
これは相手を麻痺させて傷つけずに確保する為ですが……勿論、出力を上げれば殺傷能力は充分にありますよ。