~最終話~
もし俺が俺のままで居られたら、俺はお前を恨んだだろうか?
それとも、お前の傍でお前の命尽きるまで共に過ごしただろうか?
今となっては分からない。
でも、現在の俺は知っているから。
愛すれば愛するほど、焦がれれば焦がれるほど……募る憎しみを!
その負の連鎖の行き着く先の哀しみを!
だから俺は誰を恨む事も出来ないんだ。
けれど、どちらにしても俺はもう誰の傍にも居られない――その事実だけは変わらない。
15歳の誕生日のあの日。
“力”が目覚めたと同時に、俺は"俺を監視する何者か"の存在に気づいた。
だから俺は、俺を育ててくれた両親の許を去った。
大切だと思えば思うほど、幸せになってほしいと願えば願うほど……
俺はその人の傍には居られないんだ。
マール、唯一血の繋がった俺の従兄弟。
ずっと俺を見守っていてくれた存在。
でもそれだけじゃない。
束の間の出会いだったけれど、俺はずっと前からお前を知っている。
多分お前は……
マール、もう俺を呼ぶな! 俺の事を想うな!
接触テレパスとしての能力しか目覚めていないお前の無防備な思念波は、お前の命を縮めると同時に、奴ら(ロトを監視する者)の絶好の標的になってしまう。
短い命なら尚の事、俺の事は忘れて……残された時間を穏やかに自分の為に生きてほしい。
だから俺は行く。
俺の“宿命”からお前を護る為、俺は独りで行くよ――
∗∗∗
分かってるよ、ロト。
でも僕は……それでも僕は、君と共に在りたかった!
父の日記で真実を知った時、僕の中に君の存在を疎ましく想う気持ちが全くなかったと言えば嘘になる。
日記など見なければ良かったと後悔もした。
けれど、ただ死を待つだけの時間の中で、君の存在は僕の生きる希望になった。
仮令、贖罪の為の人生でも、それは僕の“生きる力”だったんだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ロト様は行ってしまわれましたね。本当にこれで良かったのですか、マール様?」
ロトの去った方角を二階の窓から見つめていたマールに、そうマーサが訊ねた刹那……
「お前たちは何者だ!?」
階下で執事の叫び声が聞こえた。
その切羽詰った様子から、マールはそれが徒ならぬ事態である事を覚った。
――ロトっ!――
「マールの思念波が消えた?」
ほんの一瞬感じたマールの思念波。
接触テレパスとしての力しか持たぬ筈の、マールの魂の絶叫!
「マール、何があった!?」
ロトはマールの許へ跳んだ。
しかし、其処でロトを待っていたものは、建物の一部がまるで爆発でもあったかのように崩れ、あちこちで噴煙が上がる別宅の変わり果てた姿だった。
「マールっ!」
ロトはマールの姿を捜した。
だが屋敷の何処にも居ない。
《マール、何処だ? 何処に、居る!?》
彼は心を拡げてマールの思念を追った。
《ダメだ、感じない……何処にも、マールの存在を!》
それとほぼ時を同じくして、ロトを監視していた者の影も消え失せていた。
「俺は何の為にパステブロー家を出た? 傍に居れば良かった……ずっと、お前の傍に!」
こうしてマールは消えた。
何も言わなくとも、誰よりもロトを解ってくれた……たった一人の血の繋がった従兄弟をロトは失った。
けれど、これより遥か後――再び彼と相見える事になろうとは……
しかも“最大の敵”としてロトの前に立ち塞がる事になろうとは――!
この時のロトには想像する事さえ出来なかった。




