~第一話~
少年はベランダの手すりにもたれて空を眺めていた。
肩に掛かる柔らかな栗色の髪が春風を受けて緩やかに靡いている。
澄んだセピア色の瞳に映る、大空を自由に羽ばたく鳥の姿。
――もし僕に翼があったなら、今直ぐにでも君の許へ飛んで行けるのに――
しかし、その想いとは裏腹に、彼は自由を奪われた“籠の中の鳥”。
病弱な身体と、彼を監視する一族の目。
それは彼の肉体を地上に繋ぎ止める足枷。
だから彼は心を飛ばす!
少年の心は目に見えぬ鳥の姿となって“大切な人”の許へと飛翔する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「マール様、お薬の時間ですよ。……まあ~春とはいえ、まだ風が冷とうございます。さあ、お部屋にお戻りを」
「ああ、ありがとう。そうだね、今戻ろうとしてたところだよ」
マールと呼ばれた少年は穏やかに微笑みながらそう答えた。
マキュール・フォン・パステブロー。
彼は二ヶ月前に15歳の誕生日を迎えたばかり。
北欧貴族の流れを組む名門、パステブロー家の若き当主だが、二十歳まで生きられないと宣告された病弱な身体ゆえに、本宅ではなく都会の喧騒から離れたこの静かな別宅で病気療養の日々を送っていた。
それは親族の勧めでもあったが、パステブロー家唯一の直系である彼が身罷れば、その莫大な財産を手に入れられる傍系たちの画策でもあった。
「もう直ぐ、ロト様も15の誕生日を迎えられますね。早くお二人がこのお屋敷で一緒にいらっしゃるお姿を見とうございます」
乳母のマーサの言葉に
「そうだね」
(出来る事ならそうしたい。でも、僕のもう一方の心がそれを懼れてる。父の罪――決して償う事の出来ない罪を、君は許してくれるだろうか? それに、もし今……君の存在を一族に知られれば、きっと君は殺される。彼らが僕を生かしておいてくれるのは、僕が二十歳まで生きられない身体だからだ)
“接触テレパス”――相手の身体の一部に触れるだけで、その相手の心が手にとる様に分かる。
彼の持つその能力は、そんな環境の中で目覚めた、我が身を護る唯一の術だったのかもしれない。
自らの死を願う一族の中で生きる孤独な少年の心の支えは、祖父の代からパステブロー家に仕える実直な執事と、彼を産んで直ぐに他界した亡き母に代わって彼を我が子のように育ててくれた乳母。
そして 従兄弟の存在。
そう……彼の残りの人生はロトの為に在った。
伝える為に、許しを請う為に。
そして、償う為に!
短い命をロトへの贖罪の為に使おうと彼は決意していた。
彼の想いは 無意識のうちに“自由の象徴”の姿を借りて大空を駆け“大切な人”の許へ舞い降りる。
けれど……
――僕の思念波は弱すぎて……ロト、君には届かない――
“真実”を知ったあの日から、僕はずっと君を見ていた。
君は僕の命。
僕の全ては君の為にある。
それなのに……。




