~プロローグ~
「お~い、ロト! 何処まで行くんだ~? 俺はもうへとへとだ。それに此処は“特区”だろう? こんな処に勝手に入って大丈夫なのか?」
「用が済めば出て行く。お前が会いたいって言うから連れて来てやったんだぞ。文句を言うな」
「それはそうだが、ほんとにこんな処に居るのか?」
「ああ、この先だ」
そう言って、ロトは森の向こうを指差した。
「納得したら、約束だぞ。もう俺に付き纏うな」
「綺麗な顔して、相変わらず冷たいなあ~“SILVER・WOLF”様は。はいはい、分かってるって。俺は約束は守る男だ」
男は本気とも冗談ともつかぬ口調でそう答えた。
「…………」
(一見いい加減そうに見える男だが、こいつは約束を違える様な事はしない)
短い付き合いだが、ロトはそう確信していた。
男はロトのよく見知った男に、その風貌も持っている雰囲気も、そして口調までもが酷似していた。
だからこそ“此処”に連れて来る気になったのだ。
ロトと共に居る男は40代前半。
顎鬚が印象的な、がっちりした体格の男だった。
特区(特別指定区域)――それは立ち入り禁止区域という訳ではない。
しかし、この場所は特区に指定された広大な土地全体がバリケードで囲まれている為、ロトは男を連れて特区の中に瞬間移動した。
(どう考えてもヤバいよなあ~。こんな何もない場所が特区になってるのも変だと思ったが、周りをバリケードで囲んでるって……此処の何処かに、特区に指定した輩が秘密にしたい“何か”があるって事なんじゃないのか?)
男があれやこれやと考えていると
「もう直ぐだぞ」
と言って、ロトは歩を緩めた。
前方に(森を抜けた先に)何かの建造物が見える。
近づいてみると、それは何十年(ひょっとすると何百年?)も放置されたままの荒れ果てた屋敷だった。
建物の一部がまるで爆破されたように崩れている。
「此処は?」
「パステブロー家の別荘跡だ」
「パステブロー家?」
「ああ。“北欧貴族の流れを組む名門”なんだそうだ」
前を歩くロトの表情は男には見えなかったが、その声には何処か自虐的な響きが含まれていた。
「おいおい……勝手に入っていいのか?」
男の戸惑いを他所に、ロトは建物の中へと入って行く。
そして、まるで見知った場所であるかのように(多分知っているのだろうが)一直線にある部屋を目指した。
「これは、あんたの肖像画なのか?」
目的の部屋に入って、正面の壁に立て掛けられていた一枚の肖像画を見た途端、男はロトにそう訊ねた。
ロトは首を横に振る。
「じゃあ……兄弟か何か、か? 確かに髪と瞳の色が違うな。否しかし……かなり古い肖像画だぞ、これは」
男の疑問に
「これは、マール……」
(こんな顔も出来るのか)
男はそう思った。
(何時も無表情で、ほとんど感情を表に出さない“SILVER・WOLF”にこんな顔をさせるとは……)
男は肖像画の人物に少なからず嫉妬を覚えた。
∗∗∗
俺とロトが出会った時、俺はロトが伝説のエスパー“SILVER・WOLF”だとは知らなかった。
“接触テレパス”としての力を右に出る者はいないと自負していた俺は、ロトの心を読もうと躍起になった。
……が、遂にそれは出来なかった。
ロトは言った。
「その程度で自惚れてたら何時か痛い目に遭う。上には上が居るんだ。昔、そうとは意識しなくても俺の心が手に取るように分かる人が居た」
それが“彼”だった――
「邂逅」は“番外”と銘打っていますが「SILVER・WOLF篇」の原点ともいうべきエピソードです。
時系列で言うと「SILVER・WOLF篇」の一番最初の話ですね。
ノアールと出逢う、ずっと以前のエピソードという事になります。
このプロローグも勿論ノアールとの出逢いより前の話になりますが、次回の第一話からは過去(約200年前)の話に遡ります。
因みにこの特区のある場所は“地球”ですよ。




