~最終話~
「だが、全てはこれからだ。その前に、もう一度だけ確認しておく。君はこれでいいのか? 本当に後悔はしないかね?」
「…………」
一瞬の間。
通信相手の躊躇いが否応なしに伝わって来る。
「はい。私はあの時から、何があろうと貴方について行くと心に誓いましたから」
「そうか……なら、いい。では彼が復帰次第、私の許に来るように伝えてくれ……ウェルナー大佐」
「了解致しました」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
三週間後――
オルフィーで負った傷が癒え任務に復帰したノアールは、サンダーの呼出を受けて長官室を訪れていた。
サンダーに聞きたい事は山ほどある。
だが――
「怪我はもう大丈夫かね、ウェルナー大尉?」
「はい。ご心配をお掛けしました。それよりも長官、貴方にお聞きしたい事があります」
「ほぉ~、何かね? だが、君の聞きたい事がケースの中身に関してなら、答える必要を認めない。君が知る必要はないと最初に言った筈だからね」
「っ!」
「君の任務はケースをカノープス司令に手渡す事。それ以上でも、それ以下でもない。君はそれを全うした。それで良いのだよ」
「し、しかし……っ」
ノアールが自らの想いを口にする間もなく、その言葉でノアールの疑念は一蹴された。
サンダーは一筋縄ではいかない。
流石、この若さで最高司令長官に上り詰めただけはある。
彼の真意を探るには、現在のノアールには荷が勝ち過ぎた。
「それより今日、此処に来てもらったのは外でもない。ウェルナー大尉、君に見てもらいたい物がある」
そう言ってサンダーはノアールにメモリーチップを手渡した。
「これは?」
「君が見たがっていた物だ」
「私が?」
「スラファト・アル・ハサム博士の研究報告書だよ。GHI-EK4に関するね」
「アル・ハサム博士の?」
「ああ。連邦のデータバンクで検索しても項目すらなかっただろう? これは既に抹消されたデータだ」
「…………」
(どうして長官がそんな事を知っている? 俺の行動は長官に筒抜けなのか? それに何故、抹消された筈のデータが存在するんだ?)
「これを閲覧する為のパスワードは後で教えるが、これには特殊な仕掛けが施してあってね。一度見るとデータは失われる。勿論コピーしようとしても同様だ。使用した機器に入っているデータも失われるから、くれぐれも気をつけ給え」
「コンピューター・ウイルスですか?」
「そうだ。本来は閲覧禁止の最重要機密事項。君を信用していない訳ではないが、万全を期すのは当然だろう? 君の任務には必要だと判断したから特別に閲覧を許可するのだよ」
「やはり、GHI-EK4と“SILVER・WOLF”には深い繋がりがあるという事ですか?」
「それは、それを見た後で君自身が判断すればいい」
考古学の権威、スラファト・アル・ハサム博士の惑星GHI-EK4に関する研究報告書。
既に抹消された筈の最重要機密事項。
“エターナル・サザン”と呼ばれるあの惑星がロトとどういう関係があるのか?
これを見れば分かるのだろうか?
――俺は彼を……。
“SILVER・WOLF”と呼ばれるあの少年の事を少しは理解出来るだろうか?――
それが、“監視する者とされる者”という枠を逸脱した想いだと。
秘密捜査官として任務を遂行する上に置いて、決して持ってはいけない感情なのだと――ノアールは未だ気づいてはいなかった。
~風のオルフィー~ 完
12年前の真相、そして今回のサンダーの意図が明らかになるのは未だ先になります。
ロトとサンダー、お互いがそれぞれに異なった思惑で動いてたので、それぞれの視点で書かないと解り辛いですしね。




