~第二話~
“惑星リース――エカナイト・シティ E-12ストリート35 R=3-7”
エカナイト・シティは惑星リース一のメトロポリスだったが、メールに記されたアドレスはその郊外――
開発途上のこの惑星は、都市部を少し離れると治安は著しく悪くなる。
下町と言うよりは貧民窟に近い状態だった。
寂れたアパートメントの一室に入るや否や
「転々とするのはいいが、今度はこんな処で何をしてるんだ?」
ノアールは溜息まじりにそう言った。
「勿論、仕事だ。本業の方だけどな」
本や書類が雑然と置かれた机に軽く腰掛けて、何やら書類に目を通していた男は、ノアールの方に視線を移しながらそう答えた。
「久しぶりだな、ノアール。ところでお前、惑星ガイロスから帰って来たばかりじゃないのか? 休暇で俺に会いに来た、なんて訳じゃないよな?」
「っ!」
「アクロマ基地はSDAに乗っ取られてたって話じゃないか。爆発事故は証拠隠滅の為だったらしいな」
やれやれ、つくづくこの男の情報網には驚かされる。
流石“情報屋”と言うべきか?
それとも連邦のセキュリティが杜撰なのか?
「もう、そんな事まで知ってるのか?」
「ああ。その気になれば俺が知らない情報なんてないぜ。その気になれば、だが……」
そう言って男はにやりと笑った。
男の名はソール・ウォリングス。
ライト・グレイの髪と紫の瞳の、一見こんな場所には不似合いな優男だった。
表向きは“何でも屋”だが、本業は“情報屋”。
士官学校時代からのノアールの友人でもあるが、"こいつは絶対に職の選択を誤った"と、ノアールは常々思っていた。
『歌手か男優に転向すればどうだ? きっと人気者になれるぞ!』
と忠告してやりたいが、それを言うと
『その言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ!』
と言われるのがオチなので、敢えて口にした事はなかった。
「お前“SILVER・WOLF”の噂を聞いた事があるか?」
士官学校時代からの友で信頼出来る男だとは言っても、“任務”の内容を話した事は一度もない。
しかし"SILVER・WOLFの所在を探れ!"と言われても何の手がかりもなしでは埒が明かない。
この広い銀河で人ひとりを捜すなど、大海の一滴を捜すようなものだ。
しかも“SILVER・WOLF”に関する公式の記録は連邦にはほとんど存在しない。
何処で生まれ育ったのかも定かではない。
何者かが意図的に抹消したとしか思えなかった。
ソールの持つ情報網を頼みの綱に、ノアールはこの惑星リースに彼を訪ねたのだ。
単なる噂話の中にこそ“真実”は潜んでいる。
「SILVER・WOLF? 伝説のエスパーの異名の事か?」
「ああ!」
「そのエスパーが銀の髪だから……とか、力を使う時に銀の霊衣が見えるとか。あっ、そうそう! 一時、白銀の狼を連れてた事があるからついた異名だとか。実しやかな噂は聞いた事があるぜ」
ソールは暫くノアールの顔を眺めていたが、矢庭にデスクのCPのキーボードを操作し始めた。
「惑星ロウヴに行け、ノアール! それが“SILVER・WOLF”に関する一番新しい目撃情報だ。真偽の程は確かではないが、な」
この二人の会話は、あくまで“噂話”です。
この時点でソールが“SILVER・WOLF”の実在を信じているかどうかは疑問ですが、ノアールの任務に踏み込むような事はしないので。
ノアール自身もまだ半信半疑ですしね。そこら辺はきちんと心得てます。