~第六話~
記憶が戻った?
もしそうだとしても、俺の正体は知らない筈だ。
いや、まさか……あの時、まだ意識があったのか?
元の姿に戻るのを見られた?
∗∗∗
「そんな事を、今更聞いてどうする?」
ロトは自分の動揺をノアールに覚られない様に、殊更に素っ気無い態度でそう答えた。
「否定しないって事は“そうだ”と受け取っていいんだな?」
「…………」
(だから、か! エル・ナトで俺が名乗ってから、君の態度が変化した。おかしいと思ってたんだ。あれは俺だと気づいたから、だったんだな)
「どうして何も言ってくれなかったんだ? 私はずっと君に逢いたいと思ってた。君は私の命を救ってくれた、そして生きる希望を与えてくれた恩人だ! 私は君に……」
「別に感謝されるような事はしてない! 当然の事をしたまでだ。兎に角……話がそれだけなら、俺は行く」
逃げるようにその場を去ろうとしたロトに
「待ってくれ、ロト……痛っ!」
彼を追おうと立ち上がりかけたノアールの頭部と背中に激痛が走る。
思わず駆け寄ったロトの両手首をノアールは握り締めた。
離せば逃げられる――そう思った。
――そうだ! どうして気づかなかったんだろう?――
研ぎ澄まされた剣のような、何者も寄せ付けない凛とした清浄感と、絶望的なまでに深い孤独。
これは正に“テラ”の持っていた“それ”に他ならない。
「君は姿を変える事も出来るのか? 何故、少女の姿をしてたんだ?」
「……あの頃はSDAの干渉が特に酷くて、俺はこの姿じゃない方が都合が良かったんだ。力も極力使わない様にしてた。ほんとは誰とも、あんたとも係わり合いにはなりたくなかったんだ!」
(でも俺は彼女によく似た、その黄金の髪と青い瞳に心魅かれた。そして何よりも、あんたの絶望と孤独が自分の姿を見ているようで、放っておけなかったんだ。だから、俺は……)
「それでも、君が私の恩人である事に変わりはない! いや、また恩が増えたんだな。もう何回も君に助けられてる。ロウヴとエル・ナトは偶然だったのかもしれないが、このオルフィーには私が来ると予測して、わざわざ来てくれたんだろう?」
「…………」
「ありがとう、ロトくん。私は……」
「違う! こんな事になったのは俺の所為なんだ。もし俺があんたに係わらなければ、こんな事には……。あんたがSDAに付け狙われるような事にはならなかった筈なんだ!」
(フォーマルハウトがどういうつもりであんたを巻き込んだのかは分からないが、俺はあんたに普通に生きて、そして幸せになってもらいたかった)
「だから、俺には責任がある!」
「責任? 責任って、それはどういう意味なんだ?」
「…………」
「私は私の人生を自らの意志で選んだ。連邦の秘密捜査官になったのも私の意志だ! 君に責任を取ってもらう謂れなどない!」
「それは……」
その時、こちらに走り寄る複数の足音が聞こえた。
「大尉……。ウェルナー大尉! どちらにいらっしゃるんですか?」
その声に
「どうやら、助けが来たみたいだな」
そう言いながらロトは立ち上がった。
「俺はもう行く」
「…………」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「大尉、此処にいらっしゃったんですか!」
「ああ」
「お怪我をされている? 担架だ。誰か、担架を持って来い!」
「いや、大した怪我じゃない。肩を貸してくれれば自分で歩ける」
そう言いながらノアールはゆっくりと立ち上がった。
(そうだ、俺は一人でも歩ける。誰にも頼ったりしない。今までも……そして、これからも。俺はそうやって生きてきたんだ)
その想いが意固地な想いだとノアールは自覚していた。
人は決して一人では生きられない。
そんな事は分かっている。
けれど、ロトの言った"俺には責任がある!"という言葉がノアールの心を掻き乱す。
(責任って何なんだ? 彼は俺に係わった事を後悔してるのか?)
――俺は!――




