~第二話~
ノアールの金髪と青い瞳は両親ゆずり。
まるで一枚の絵画を見ているような、美しい父母と愛くるしい幼子。
それは、誰もが目を留める理想的な家族の肖像だった。
……が、それが仇となった。
人身売買が横行していた当時のオルフィーでは、ノアールのような眉目秀麗な子どもは格好の標的。
誘拐されそうになったノアールを助けようとして両親はノアールの目の前で惨殺され、僅か五歳でノアールは天涯孤独の身となった。
幼い子どもが生きていくには過酷過ぎる環境の中で、それでもノアールは父母を奪った犯人に復讐する事だけを糧に、死に物狂いで生きていた。
生き残る為には何でもやった。
それが違法な事だとは分かってはいても、そうしなければ生きてはいけなかった。
だが――
十歳の頃、既に数人の孤児たちのリーダー的な存在になっていたノアールは、ドジを踏んだ仲間を助けようとして当局に捕まり、仲間と共に“養護施設”に収容される事となった。
しかし、其処で待っていたものは“養護施設”とは名ばかりの、外の世界と大差ない――否、それ以上の“地獄”だった。
私服を肥やす事にしか興味のない施設長は過酷な労働を子どもたちに強要し、しかも満足な食事も与えない。
少しでも逆らうと容赦ない体罰が待っていた。
極度の栄養失調と過酷な労働から来る過労で、次々と命を落とす子どもたち。
仲間の一人の命が失われた時、ノアールは覚悟を決めた。
――こんなところで野垂れ死になんて真っ平だ!――
ノアールは仲間と共に施設からの脱走を敢行した。
貴重な労働力確保の為に、最初は子どもたちを連れ戻そうとしていた施設長だったが、彼らの口から施設の実情が外部に漏れる事を懼れた施設長は一転、彼らの口封じを謀った。
「見つかったら殺される!」
執拗で容赦ない追っ手に仲間たちは次々と命を落とし、僅かに残った仲間とも散り散りになってしまった。
そしてノアール自身も
(もう……ダメだ!)
追っ手に囲まれて死を覚悟した時――
彼の前に一人の少女が現れた。
(何かの武術でも会得してるのか?)
そう思うほどその少女の動きは素早く、そして大の大人を一撃で倒していった。
(凄い……こいつ一体、何者だ?)
ノアールがそう感心している間もなく、追っ手を全て昏倒させた少女がノアールの許に歩み寄る。
そして……
「大丈夫?」
「よ、余計なお世話だ! 助けてくれなんて頼んだ覚えはない!」
思わず悪態をついてしまう。
自分とさほど歳も変わらない、しかも女に助けられるなどノアールにとっては屈辱以外の何物でもなかった。
だが、気持ちはそうでも身体は正直だ。
少女に手を差し伸べられると、思わず膝の力が抜け落ちた。
「…………」
少女は何も言わず、ノアールを或る場所へと誘った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝、ノアールは質素なベッドの上で目を覚ました。
それでも あの養護施設よりは遙かにマシだ。
久しぶりによく眠れたような気がした。
しかし――
「……こ、此処はっ?」
状況が掴めず、思わず飛び起きたノアールに
「おはよう! よく眠れた?」
「お前は……っ?」
昨日のあの少女だった。
少女は“テラ”と名乗った。
下町のごろつき共相手の飲み屋で、住み込みで働いている少女だった。
その飲み屋の二階の片隅にある、まるで物置のような粗末な一室で少女はノアールを匿ってくれていた。
ライト・ブラウンの髪を無造作に束ねた少女はお洒落っ気などまるでなく、この年頃の女の子なら悩んでいそうな頬のそばかすにも無頓着な様子だった。
彼女はノアールの素性を詮索したりはしない。
必要な事以外は喋らない。
けれど真っ直ぐにノアールを見つめる黒曜石の瞳と飾らない淡々とした口調が、傷ついた今のノアールには心地良かった。
父母の仇も討てず、仲間さえも失って自暴自棄になっていたノアールの心の傷を少女はゆっくりと癒してくれた。
だが仮令、他の人間が同じ事を言ったとしても、それはノアールの心に響く事はなかったに違いない。
少女は自分自身の事は何も語らなかったが、その少女の持つ独特の空気が――研ぎ澄まされた剣のような、何者も寄せ付けない凛とした清浄感と、そしてノアールの持つそれ以上の、絶望的なまでに深い孤独をその少女から感じ取ったからかもしれなかった。
ノアールは自分の容姿が嫌いだった。
……と言うよりはむしろ憎んでいた。
それは両親を失った原因でもあったし、孤児となった時も施設に収容された時も初対面の人間は皆一様にノアールをその外見で判断した。
――女みたいな軟弱な奴――
しかし少女は……
「そうかなあ~? 凄く綺麗だと思うけど。私は黄金の髪と青い瞳が一番好きだよ。それに……」




