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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「SILVER・WOLF篇」~黄金の光・青銀の星~第一部
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〜第四話〜

 ESPジャマーはAランクのESPまでなら完全に無効化出来る。

 現在(いま)のところ、特AランクのESPを無効化するには至らないが、Bランクレベルまで軽減する事は難事ではない。

 故にそれは、対エスパー戦に措いて実に有用な装置であった。


 ESPは、ランクが一つ変われば、その発現する能力(ちから)は格段に違う。

 仮令、特Aランクのエスパーであったとしても、BランクのESPレベルまで抑えられれば、ノアールのような超能力(ちから)を持たぬ者でも、相手を戦闘不能にする事は不可能ではないのだ。

 対エスパー戦の訓練並びに、その技術の習得は連邦の必須項目ではあったが、ノアールはその中でも特に優秀で、Bランクの精神(サイコ)攻撃をいなす術も身につけていた。


 だがSDAの特Aランクのエスパーに、その連邦の常識は通用しない。

 アマラントの青い石の欠片を体内に持つ彼らのESPは、その欠片の数だけ増幅され、ジャマー作動下であってもAランク以上のESP発動が可能なのだ。


 ノアールの腕時計に内蔵されている障壁(シールド)発生装置は高性能だが、小型であるが故にAランク以上のESP攻撃(しかも五人のエスパーからの同時攻撃)を受けて耐えられる時間はそう長くはない。

 受ける力が強ければ強い程、エネルギーの消耗は激しく、障壁(シールド)の持続時間が短縮されるのだ。


 障壁(シールド)が消滅すれば、ノアールに勝ち目はない。


「一か八か……」


 五方向から浴びせられる容赦ないESP攻撃。

 ノアールは障壁(シールド)を張ったまま、一点突破の為に前方に居る小柄な男に向かって突進して行った。

 

障壁(シールド)が持続している間に、この場を離脱するしか生き延びる道は無い!」


 もし彼らに捕らえられるくらいなら、その前に潔く死を選ぼう――そう決意する。

 連邦の情報は渡せない。

 いや、それよりもロトの足枷にだけは絶対になりたくはなかった。

 だが……


「生きる事を決して諦めたりはしない。最期の最期まで足掻いてやる!」


 浴びせられるESP攻撃の衝撃に耐えながら、迫って来るノアールの勢いに、小柄な男は一瞬気圧され、我が身を護る為に攻撃を中止して防御壁(シールド)を張る。

 シールド同士がぶつかった衝撃は凄まじかったが、ノアールは衝撃(それ)に耐え、男を弾き飛ばして突破した一点を駆け抜けた。


「へぇ〜連邦の諜報員にしてはやるじゃないか」

「愚図で鈍間なヤツばかりだと思ってたよ」


 口々にそう言いながら四人のエスパーは、攻撃の手を緩める事無くノアールの後を追った。

 そして、そのうちの二人がノアールの前方へと瞬間移動(テレポート)する。


「っ!」


 ノアールが弾き飛ばした小柄な男は昏倒しているようで追いかけては来ない。

 敵の人数は一人減った訳だが、地道にこの戦法を繰り返すだけの時間は無かった。


 障壁(シールド)のエネルギー残量が残り少ない事を示す警告音(アラーム)が鳴り響く――


「シールドが……ちっ!」


 ノアールは舌打ちをしながら前方の道を塞いでいる大男目掛けて、更に突進する速度を上げた。

 男は先ほどの小柄な男とは違い、攻撃は最大の防御と言わんばかりにESPを両手に収束させ、ノアールの障壁(シールド)を破ろうと待ち構える。

 そして両者が激突した瞬間、ノアールを包んでいた障壁(シールド)が一際輝き、ピシピシと軋む音が聞こえたと思ったその直後、障壁(シールド)は跡形もなく消滅する。

 刹那、ノアールはベルトに内蔵されているESPジャマーのメーターが振り切れるのを目の当たりにした。


「オーバーフロー、だと?」


 障壁(シールド)が失われた今、ESPジャマーのオーバーフローは“死”を意味する。

 Aランクに抑えられていた彼らのESPが本来の力に戻るのだ!


「ここまで、か……」


 ノアールは死を覚悟する。


 だが次の瞬間――

 夕暮れが迫り、仄かに薄暗くなっていた空間に突如走った強烈な青銀の閃光(ひかり)に、ノアールは思わず目が眩んだ。


 それは僅か数秒の間だっただろうか?

 ノアールがゆっくりと目を開けると、其処には信じられない光景が広がっていた。

 意識を失い、地面に倒れ伏すSDAのエスパーたち。


(一体、何が……?)


 状況が掴めず、呆然しているノアールの背後から


「何で、あんたが此処に居る?」


 と言う“声”が聞こえた。

 努めて感情を押し殺そうとしているかのような声。

 だがその声には、抑えきれない怒気が含まれている。

 思わずノアールが振り向くと、其処には半眼でノアールを睨めつけるロトの姿が在った。


「ロト……くん」


 そのあまりの迫力にノアールは思わず息を飲んで後ずさる。

 ロトは溜息を尽きながら


「兎に角、話は後だ。此処から離れる。俺に掴まれ!」


 そう言うと、ロトはノアール連れて跳躍(ジャンプ)した。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 エル・ナト――宇宙ステーション内部――

 

「フォーマルハウトは俺との約束を違えたのか?」


 大勢が行き交う待合室(ゲートラウンジ)の片隅にノアールを誘ったロトは、開口一番にそう言った。


「い、いや……そんな事はっ! 私が此処に居るのは私用(プライベート)で……」


 サンダーに濡れ衣を着せる訳にはいかないと、ノアールは懸命に弁明の言葉を模索する(正確に言うと、濡れ衣とは言えないのだが)


私用(プライベート)? SDAの勢力圏であるこのスペース・コロニーでどんな用があるんだ?」


 だがロトは、言い訳は聞かないと言わんばかりに畳み掛ける。


「君は信じないかもしれないが、此処へは旅行で来たんだ。私は今、休暇中だからな。君に私のプライベートをとやかく言われる筋合いはない。私が何処へ行って何をしようが君には関係ない話だ」


 些か逆切れなのは否めないが、ノアールはそう反論した。


「はぁあ? じゃあ、放っておけば良かったか? あんた、もう少しで死ぬところだったんだぞ」

「あ、ああ……助けてもらった事には感謝する。ありがとう、ロトくん」


 それとこれとは話が別だと言わんばかりに、素直に感謝の言葉を述べるノアールに


「……礼はいい。だがこれに懲りたら、もうSDAの勢力圏には近づくな! 何の為に俺が……」

「えっ?」

「いや……そんな事より、一刻も早くエル・ナト(ここ)から離れろ!」


 いっその事、ノアールを連れて惑星シュアト(SDAの勢力圏外)まで惑星間大跳躍(ジャンプ)しようかとも思ったが、惑星間という長距離の瞬間移動(テレポート)はノアールの身体への負荷が大きいであろう事を考慮して、ロトはそれを断念した。


「シュアト行きの旅客船(ふね)は定期的に出てる筈だから、それで……」

「嫌だ」

「はっ?」


 予想外なノアールの反応に、電光掲示板でシュアト行きの旅客船(ふね)を確認していたロトは、思わずノアールを顧みた。


「私は此処に残る」

「何を馬鹿な事を……」

「馬鹿な事なんかじゃない。此処には君が居る!」 

「……?」

「そうだ、君の言う通り、私は此処に旅行で来た訳じゃない。私は君を探してたんだ」

「っ!」

「此処に来れば、エターナル・サザンを目指せば……きっと君に逢えると信じてた」


 ロトに嘘をつきたくはない。言葉を飾る必要もない。

 ただ己の“真実”を伝えればいい。ノアールはそう思った。


「何を言って、る?」

「今の私は連邦の秘密捜査官じゃない。ましてやZナンバーの任務で君を監視する為に探していた訳でもない」



    挿絵(By みてみん)



 そう答えながら真っ直ぐにロトを見つめるノアールの純粋で真摯な瞳に、ロトは暫し言葉を失った。

 13歳のノアールを想い起させるその姿に、ロトの胸に去来したものが何であるのかはその表情からは読み取れない。

 しかし、その言葉がロトの心の奥の何かを揺り動かしたのは紛れもない事実――けれどそれは、僅か数秒の“刹那”に過ぎなかった。


「そんな必要はない。俺はあんたに恩を売る為に助けた訳じゃない。人として当然な事をしたまでだ。それに俺は誰の助けも必要としない。あんたに周りをウロチョロされたら、迷惑だ!」


 容赦ないロトの拒絶の言葉。

 だがノアールには、ロトがそう答えるであろう事は織り込み済みだった。

 己がロトにとって足手纏いにしかならない事は百も承知している。


 12年前――

 惑星オルフィーで彼に命を救われた、その恩は返したくても返しきれない。

 けれど、ノアールがロトに対して一番恩を感じているのはその(あと)なのだ。


 全てを失って自暴自棄になっていたノアールの心を救ってくれた黒曜石の瞳の少女。


 ――それは仮の姿に過ぎなかったけれど――


 研ぎ澄まされた(つるぎ)のような凛とした清浄感と、飾らない淡々とした言葉は、傷ついたノアールの心に沁み渡った。

 現在(いま)ノアールが此処に立って居られるのは、その時ロトが与えてくれた未来への希望に他ならない。

 だからこそ――


「私は君の心に寄り添いたい」


 他人(ひと)を排して永遠の(とき)を生きる――

 そんな哀しい生き方を、彼にしてほしくはなかった。

 次回、最終話です。

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