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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「続・サザンの嵐篇」~落日の彼方へ~第二部
130/236

〜第三話~

 ★印以降もストーリーとしては続いておりますが、ロト視点ではありませんので別枠と致しました。

「オリオニスお兄ちゃん!」

「ロト様!」


 クドリアビー砦で四輪馬車(コーチ)を降りた俺たちを迎えてくれたのは、またしても懐かしい顔ぶれだった。


「ハマル! タラゼドさん!」


 ハマルは俺の顔を見るなり、満面の笑みで俺に飛びついて来る。


「ハマル、元気だったか?」

「うん!」


  挿絵(By みてみん)



「こらっ、ハマル! ロト様は長旅でお疲れなんだぞ」

「あっ、ごめんなさい。ぼく……」

「大丈夫だよ、ハマル」


 俺はハマルの頭を撫でながら


「タラゼドさん、お久しぶりです。トゥバンさんや皆さんはお変わりありませんか?」

「はい。お蔭様で皆、息災でございます」


 とタラゼドは笑顔で答え、用意していた馬車に俺たちを案内しながら


「早速ですが、ロト様。シュトルーフェ領主トゥバン・クリューゲルからの言伝でございます。『ロト王子殿下、長旅でお疲れの事でございましょう。今日は既に日も高いですし、直接封印の場所に向かわれず、どうか屋敷の方にお越し下さるように』と」


 砦に辿り着いた時にはもう時刻は昼を過ぎていた。

 封印場所は早朝に出発したとしても日が暮れてしまう処に在る。

 今から向かえば着くのは早くても夜半過ぎになるだろう。

 本当は一刻も早くアマラントの青い石を手に入れたいが、暗い夜道を歩くのは危険だし、馬車に揺られての長旅で皆疲れている。


「皆さま長旅の疲れもあるかと思いますし、今日は屋敷でゆっくりされて明日の朝、出発されるのが宜しいかと思います」


 というタラゼドの言葉に甘える事にした。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「お久しぶりでございますわね、ロト王子」


 トゥバンの屋敷で俺を迎えてくれたのは、予期せぬ意外な人物だった。


「リン! 何で、君が此処にっ!?」


 正直、今までで一番驚いた。



  挿絵(By みてみん)



「いや、だって……こんな時に」

「こんな時だから、ですわ!」

「えっ?」

「魔獣復活ですわよ。この世界の危機にじっとしてる訳には参りませんでしょう? お父様が来ると言い張るのを何とか説得して代わりに私が参りましたのよ。感謝して頂きたいくらいですわ」

「叔父上が? そ、それは……確かに」


 アドラ王(おじうえ)が来るなんて、考えただけでも気が重い。


 此処に来ると主張する叔父上をリンが宥め賺して思い留まらせた(さま)が手に取るように想像出来た。



…───…───…───…───…───…───…───…



『これは一大事。世界の危機だ! 私もシュトルーフェに赴いて、ロト殿の加勢を!』

『何を仰ってますの? 世界の危機だからこそ、お父様は城に居らして皆に指示を与えて下さらないと! シュトルーフェにはお父様の名代として私が参りますわ』

『えぇえっ!? そんなぁ~。私も行く。絶対に行く!』



  挿絵(By みてみん)



…───…───…───…───…───…───…───…



「ありがとう、リン。それは助かった……かもしれない」

「ですわよね。もっと感謝なさいませ」

「…………」


 鼻高々に踏ん反り返るリンに呆れていると――


「ロト王子殿下、ようこそいらっしゃいました」

「ロト!」


 トゥバンと共に姿を現したのは、更に予期せぬ人物だった。


「トゥバンさん……って、えっ、セ……セレナ!?」


 何で君まで此処に……と続く筈の言葉を告げるより前に、セレナは俺の胸に飛び込んで来た。



  挿絵(By みてみん)



「でもツイホォンが復活したっていう報せを聞いて、居ても立っても居られなくて」



  挿絵(By みてみん)



「サザンの事はアルギエバたちに任せて来たから大丈夫だよ。私が居ても何の役にも立てない事は分かってるけど、でもきっと私にしか出来ない事もあると思うから」

「でもセレナ、君に何かあったら……」

「大丈夫だよ。私はもう二度と貴方を哀しませないって、自分の身も護るんだって誓ったから」

「…………」


 それでも尚、渋る俺に


「ロト王子殿下、こんな処で立ち話も何ですし……どうぞ奥の方へ。皆様方もお疲れだと思いますし、細やかではありますが宴の準備が整っております。どうぞ、そちらにてごゆるりと」

「…………」

 

 そのトゥバンの配慮に抗える筈もなく、俺は仕方なく皆と共に宴の間へと足を運ぶ。



  挿絵(By みてみん)



 だがその時、ミーナの刺す様な冷たい視線がセレナに注がれていた事に俺は気付かなかった。


 ミーナはキュムリの港で俺がサザンの王子だという事を否定出来ない事実として認識した筈だ。

 薄々気付いていたとは言え、ミーナはアレクやセイリオスとは訳が違う。

 ずっと幼馴染として兄妹のように育ってきた者が、一国の王子だったと知った衝撃は生半可ではないだろう。

 だが彼女はその事には全く触れない。

 否、敢えて意識から外しているという表現の方が正しいかもしれない。

 その違和感を感じてはいたが、それを追求すれば現在(いま)の二人の微妙な関係を壊してしまうような気がして、俺はその事に触れようとはしなかった。

 それが後に、彼女の魂を彷徨わせる事になるとも知らずに……。



  ★     ★     ★     ★     ★



 宴の後、アレクはこっそりミーナをトゥバンの屋敷の中庭に呼び出した。


「どうしたの? 明日は早朝に出発だし早く休まないと」


 ミーナが瞼をこすりながらそう言った。


「ああ、ごめん。明日が大切な日だって事は分かってる。だからこそ、今日中に君に話しておこうと思ったんだ」

「なぁに? もう眠いし、手短に済ませてよね」

「…………」


 ミーナは明らかに不機嫌だった。

 でもそれは決して眠気の為だけではない。

 宴の席から……否、この屋敷を訪れた時から(正確に言えば、セレナに会った瞬間から)彼女の機嫌は急激に悪くなったのだ。


「君さぁ~。ロトがサザンの王子様だって分かってるよね? ……てか、大分前から知ってるよね?」

「……だから、何?」


 ミーナの顔色が変わる。


「俺はね。君とロトの事を密かに応援してたんだ。君がロトの事を本当に好きだって事は分かってたし、ロトも君を凄く大切にしてる」

「…………」

「ロトに許嫁が居る事も知ってたけど……でもロトはその手の感情には疎そうだから、その許嫁の事を本当に好きなのかなって疑問に思ってたんだ。周囲に押し切られて結婚に同意しただけなんじゃないのかなって」

「…………」

「もし、そうならロトが可哀想だろう? 俺はロトには幸せになってもらいたいんだ。サザンの王子としてじゃなく一人の人間として、ね」


 ミーナのような一介の村娘がサザンの王妃になれるかどうか、そんな事はアレクにも分からない。

 当然、周囲は反対するだろう。

 けれど、もしロトが本気でミーナを好きならば、ロトは周りを説得して、きっと彼女を不幸にはしないだろう……そう思った。

 そして、ミーナ自身の気持ちも大切にしてやりたかった。

 あのままシャウラの港で別れてしまったら、きっと想いは宙ぶらりんのままだ。

 だから、アレクはミーナに「一緒に行こう」と声を掛けたのだ。


 だが、それが裏目に出てしまった事をアレクは後悔していた。

 アルクト村で見聞きした、ある事実が鮮明に蘇る――


『ミーナはとっても良い()だよ。でもロトくんの事になると人が変わるんだ』

『何て言ったらいいのかなあ〜? ああ、そうそう! 悪い意味で“女”になっちゃうんだよね』

『ロトは私のものよ。誰にも渡さない。私から盗らないで〜みたいな』

『だから村の女の子たちは皆、ミーナに遠慮してた。ロトくん自身が綺麗すぎて近寄りがたいっていうのもあったけど、でも性格は気さくで優しいしね。密かに想ってた()も多かったけど……』


 それが村の女の子たちとアレクが世間話していた中で、偶然に聞いたミーナの意外な一面だった。


 アレクはその言葉と普段のミーナのイメージがあまりにもかけ離れていて俄かには信じられず、話半分に聞いていたのだが……

 宴の席でのミーナのセレナに対する態度が明らかに敵意に満ちているのにアレクは気付いてしまったのだ。


 幸い、セレナは気にしていないようだったし、ロトも気付いてはいない。

 だから今のうちに(ミーナの態度がエスカレートする前に)ミーナと話して、これから魔獣封印へと向かうロトに余計な憂いを与える事がないようにしたかったのだ。


「でも、君も分かっただろう? ロトは本当にセレナ姫が好きなんだ。許嫁だから……とかじゃなく。サザンを取り戻す命懸けの闘いを乗り越えて来た二人なんだ! あの二人の間に君が入る隙間なんてないって……君も分かってるよね?」


 きつい言葉だという自覚はあった。

 今は辛いかもしれない。

 けれど、報われない想いを何時までも抱えるよりはずっと良い。

 それがミーナの為、そしてひいてはロトの為だとアレクは信じた。

 しかし……


「だから、何? そんな事、なんで貴方に分かるの? ロトの気持ちも、私の気持ちも、貴方なんかに分かる訳ないじゃない! ロトはずっと私が守って来たんだよ。小さい頃からずっと、ずぅ〜っと……。ロトは誰にも渡さない! あの従兄妹姫にも、セレナ姫にも、絶対に渡さないから!!」


 そう叫んだミーナの瞳には嫉妬に狂った女の情念が宿っていた。 

 リンのロトへの想いは今のところ淡い恋心――リン自身も意識してはいない仄かな想いですが、ミーナは女の直感で気づいてます。

 でもロトはセレナしか見てないので、彼女の敵意は今のところセレナに集中しております。

 まあセレナは兎も角、もしミーナがリンに敵意をむき出しにしても、リンに返り討ちにされる事は火を見るよりも明らかですが(苦笑

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