~第二話~
GHI-EK4は今から約40年程前に惑星開発が開始された。
その最中に或る遺跡が発掘され、この惑星にはかつて“高度な文明”が存在していた事が明らかとなる。
それを調査・研究する為に連邦から派遣されたのが考古学の権威スラファト・アル・ハサム博士だった。
しかし、周期的に激しい天変地異に見舞われるこの惑星は、幾たびかの開発計画の見直しの末、計画は無期延期となり、廃墟のまま取り残される事となった。
それに伴い、遺跡の発掘調査も中止となり博士の研究成果は全て連邦に徴収され、今では閲覧禁止の最重要機密事項扱いとなっている。
既に故人であるアル・ハサム博士がこの惑星を、かつて存在した文明の中心を担った大国“サザン”に因んで“エターナル・サザン”と呼んだ事から、惑星GHI-EK4はその異名を持つようになった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「アマラントの青い石?」
「ああ。“青い石”と呼ばれるだけあって確かに色は青いらしいが、“石”と言っても純粋な“鉱石”ではないらしい」
「鉱石じゃ、ない?」
「ああ。アマラントの青い石は一見、青く輝く結晶体だが、かつて栄えた文明が滅びる直前に失われた。今はその結晶体が飛散した時に残された欠片が幾つか存在するのみ、なんだそうだ」
「…………」
「連邦が撤退した直後、GHI-EK4はSDAに占拠された。多分、目的は“アマラントの青い石”の欠片だ。そして、そのSDAの勢力を盾にGHI-E星系は連邦から独立を宣言したんだ。連邦はあくまでも、彼等の独立を認めてはいないが、な」
「…………」
(SDAがアマラントの青い石の欠片を手に入れる為にサザンを手に入れたんだとすると、それがウォルフの言ってた"ESPを増幅させる為の何か"だという事なのか?)
そこまで話すとソールは封筒の中に入っている書類を取り出した。
「今話した事は、“ある物”を見た後で俺が独自に調べた事だ。その書類は、その“ある物”から俺が必要だと思う部分を転記した」
「ある物?」
「“日記”だ。アル・ハサム博士の書いたな。博士が日記を書くようになったのは晩年になってからだったそうだし、家族も日記だと信じて疑わなかったから、連邦にも気づかれなかったんだ。博士にとっても覚え書き程度の事だったんだろう。一見、物語か単なる伝説の類にしか見えない」
「お前、どうやってこんな物を?」
ノアールの疑問は、至極当然な事だった。
「お前がGHI-EK4に向かった事は知ってたがな。日記を見たのは偶然だ。チンピラに絡まれてた美女を助けたら、それが博士の孫娘だった……的な」
「…………」
(おいおい! お前らしいと言えばそうかもしれないが……)
ノアールは思わず頭を抱えた。
「……で、お礼にって家に食事に招待されて色々話してたら、『祖父は凄い人だったんだけど、意外にロマンチストで日記に物語を書いててね』なんて事になってな。見せてくれたのがそれだったんだ」
「お前の任務がどういうものかは知らないし、知ろうとも思わないが、“SILVER・WOLF”の事もSDAの事も、連邦に所属してるお前が探るのは至難の業だぞ」
「……?」
「これだけは忠告しといてやる。お前“SILVER・WOLF”の情報が得られないのはSDAの所為だと思ってるだろ?」
「あ、ああ。連邦と“SILVER・WOLF”の接触を恐れるSDAが、意図的に情報の改竄をしてるのかと思っていたが……違うのか?」
予想通りのノアールの反応に、ソールは首を横に振りながら
「それは不可能だ。SDAと連邦、どちらにもその意志がなければな。俺は未だに“SILVER・WOLF”の実在は信じられないが……気をつけろ、ノアール! SDAが連邦の上層部に入り込んでるっていう噂は、強ちデタラメではないかもしれないぞ」