~第一話~
サザン王国は広大な領土を有する世界に比類なき大国。
そして王家は、英雄王伝説を誇る北のアル・サドマリクと並び称され、世界創世より続くと伝えられし名門。
その栄華を象徴するかのような、雄大にして壮麗な白亜の王城。
アガスティーア・エルゲバルから続く一本道を、その王城を目指して進んでいた俺は……
城が近づくにつれ、その大きさと美しさに圧倒されて暫し歩を緩めた。
アガスティーア・エルゲバルが落ちた今(それは連合軍が自ら勝ち取った勝利ではなかったが)既に勝敗は決しているに等しかった。
でも、だからと言って俺たちは決して油断している訳ではない。
王城には未だサンダーとブラッドが居る。
けれど俺は“敵”を殲滅する為に王城を目指しているのではない。
“全軍で臨むべき”という連合軍の将たちの意見は尤もだと思うが、このまま大軍を率いて王城に向かう必要はないと判断した俺は彼等を説き伏せ、反サザン連合軍の大半をアガスティーアに残して、タラゼドが組織した少数精鋭軍と共に王城の正門へと歩を進めていた。
「ロト……」
背後で俺を呼ぶ意外な声。
振り向くと、其処には遥か後方に居た筈のセレナの姿がある。
「セレナっ!? ダメじゃないか! 君は最後尾の一番安全な場所に居ろって言っただろう?」
出来るなら、セレナはアル・サドマリクに残ってほしかった。
彼女を危険な目に遭わせたくはない。
…───…───…───…───…───…───…───…
『此処で待っててほしい』
という俺の言葉に
『ずっと一緒に戦ってきたんだよ。力を無くした私が傍に居たって、何の役にも立てない事は解ってる。でも、決して足手纏いにはならないから。自分の身は自分で護れるからっ!』
彼女はそう答えた。
『…………』
俺が彼女の立場だったら、おそらく同じ事を言っただろう。
訊ねるまでもなく彼女がそう答える事は解っていたが、それでも尚、彼女の同行を承諾しかねている俺に
『それに、私も早くサザンに帰りたい』
『……っ!!』
その彼女の言葉に、俺は否やを唱える事が出来なくなってしまった。
サザンに内乱が起こった時、セレナは未だ生後三ヶ月だった。
それ以降をアル・サドマリクで過ごした彼女にサザンの記憶はない。
自分が生まれた場所。
今は亡き父母が、そして祖父ハーリスが暮らした場所。
内乱など起こらなければ、其処で愛する者たちと共に平和に、幸福に暮らせる筈だった……
一日も早く帰りたい!
その場所を見てみたい!
……と願うのは至極当たり前の感情だと思う。
俺だってそうだ!
だからこそ……
『解った。でも、約束だ! 決して無茶な事はしないと!』
俺は彼女とそう約束した。
王城に向かう少数精鋭軍の中にセレナの姿を見つけた時は、流石に“アガスティーアに残れ!”と言いたかったが、俺とセレナ――双方の気持ちを察しているであろうタラゼドが、セレナを精鋭軍に加えた苦悩を慮って、俺は敢えてその言葉を口にはしなかった。
…───…───…───…───…───…───…───…
「大丈夫、直ぐに戻るから!」
そう言いながら、セレナは真っ直ぐに王城を見つめた。
薄っすらと彼女の瞳が潤んでいる。
俺がそう答えた時、それまで固く閉ざされていた王城の正門がゆっくりと開き始めた――
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【補足】
サザンに内乱が起こり、グロディアやハーリスたちは一反アル・サドマリクに逃げ延びて後、態勢を立て直し、アル・サドマリク王(グロディアの実父)の支援を得て(実質的に支援していたのは、この時既に老いた父王に代わって政務を代行していたアドラ・ジャウザ)サザン奪還の為に戦いを挑みますが、ブラッド一族の能力者と恐怖で統制されたサザン軍の前に敢え無く敗北を喫します。
この戦いの犠牲は甚大で、この時ハーリスは一族の大半を失いました。
現時点でサザン奪還は不可能と判断したグロディア・アドラ姉弟はその後、世界征服に向けて動き出したサザンの脅威に対抗する為に、近隣諸国を支援するという形を採りながら、時が来るのを待っていました(二人はロトが生きていると信じて消息を追っておりましたので)
立場上、アドラ・ジャウザはアル・サドマリク軍を援軍に送る事は出来ないので(それをするとサザンとアル・サドマリクの全面戦争は必至なので)物資などの支援に留まっておりましたが、戦士として成長したセレナやフリーはアル・サドマリク軍とは無関係……という事で、各地でのゲリラ戦などに参加していたのです。
……という訳で、セレナは物心ついてから一度もサザンに足を踏み入れた事はありません。
サザンで生まれながら、ロト同様サザンの記憶は全くないのです。




