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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「SILVER・WOLF篇」~指令№Z.30432~
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~第一話~

          挿絵(By みてみん)



 ――殺られるっ!――


 私はその瞬間、死を覚悟した。


 だが、敵の攻撃は私の身体には届かなかった。

 目には見えない何かが攻撃(それ)を無効化したのだ。


「SDAの特AランクのESPを甘く見るな! 連邦の対ESP用の装備は奴らには通用しない!」


 無駄な行為だとは思いながら、敵の攻撃を避けようと思わずしゃがみ込んだ私の頭上から"声"が聞こえた。

 驚いて見上げると、其処には戦場(そのば)には恐ろしく不似合いな青銀(ぎん)の髪の少年が立っている。


 だが……その少年こそ、私の捜していた人物。

 私の任務の“対象”そのものだったのだ。


 

  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 長官室へと続く長い廊下をノアールは緊張した面持ちで歩いていた。


 銀河連邦情報部の秘密捜査官であるノアール・F(フリース)・ウェルナー大尉は、とある任務から地球(銀河連邦本部)に帰還した直後、連邦軍最高司令長官サンダー将軍の呼び出しを受けた。


(連邦軍のお偉いさんが俺なんかに何の用があるんだ? それともアクロマで何かへマをやらかした、か?)


 ノアールは怪訝に思いながら長官室の(ドア)をノックする。


「入り給え」


 という室内(なか)からの指示に従って


「失礼します」


 とノアールが長官室の扉を開けると


「地球に戻った早々、呼び出して済まなかったな。ウェルナー大尉」


 サンダーは部屋の窓から外の景色を眺めていたが、振り向き様にそう言った。

 低音の落ち着いた声だった。


「いえ……」


 ――任務ですから、お気遣いは無用です――


 そう続けるつもりでいたノアールだったが、サンダーの顔を直視した途端、彼は二の句を告げなくなってしまう。

 噂には聞いていた。……が、それでも驚きを隠せなかったのだ。


 サンダー長官は50代前半。

 容貌は声の印象とさほど変わらない。どちらかと言うと、端整で渋い中年男性という風情だったが、ノアールを驚かせたのは、彼の額の中央に見える直径2㎝ほどの円い透明な孔だった。

 其処から何かの装置が見える。

 サンダーのスキンヘッドはその孔をより強調して見せた。


 若い頃、任務中の事故で全身の三分の一を機械化した――所謂サイボーグなのだという事は知っていた。

 だが現在の医療技術があれば、少なくとも外見的には事故の後遺症など感じさせない状態に戻す事は不可能ではない。

 事実、額の円い孔から装置(脳細胞も半分以上機械だと聞いた)が見えなければサイボーグだと気づかれる事はないだろう。


 ――では何故、わざわざ自身の欠点(デメリット)を際立たせるような事をしたのか?―― 


 という問いに


『自分への戒め。そして、若い頃の失態を忘れない為だ』


 とあっけらかんと答えた、一風変わった人物ではあった。


 しかし、その事故後――目覚しい功績を挙げ、40代半ばという若さで最高司令長官にまで上り詰めた立志伝中の人物でもある。



「早速だが、君にわざわざ此処に来てもらったのは外でもない。これは今までの任務とは訳が違う」

「…………」


 強張った表情でじっと自分を見つめているノアールを後目に、サンダーは言葉を続ける。


「連邦の命運すら左右する、Zナンバーの任務だからだ」

「Zナンバー!?」


 そのナンバーが意味するものは“超極秘指令”。

 軍でも最重要機密事項(トップ・シークレット)に分類されるものだった。



 サンダーが徐に卓上(デスク)のスイッチを押すと、彼の背後の壁に映写幕(スクリーン)が現れた。

 そして其処に一人の少年の姿が映し出される。


 歳は14、5歳。

 青みがかった銀色の髪に翠玉(エメラルド・グリーン)の瞳。

 少年と言うよりは少女のような、繊細で儚げな印象さえ受ける。

 だが一目見ると忘れられない、そう……“印象的”という形容詞がよく似合う、そんな少年だった。



    挿絵(By みてみん)



 ――覚えて(・・・)いないのかね(・・・・・)?――


 それはどういう意味だ? ……と言わんばかりに訝し気に己を見つめるノアールを置き去りに


「ウェルナー大尉、君は“SILVER・WOLF”という言葉を知っているかね?」


 サンダーは唐突に話題を変える。


「“SILVER・WOLF”? たった一人で銀河を滅ぼせる力を持った超能力者(エスパー)異名(コード・ネーム)の事ですか? しかし、あれはただの伝説に過ぎないと聞いていますが……」

「確かに、な。だが伝説の超能力者(エスパー)“SILVER・WOLF”は実在するのだよ」

「まさか、この少年がっ!?」


 ノアールは驚きを隠せない。


「そう……そのまさか、だ。私は彼に命を救われた事があるのだよ、27年前にな。彼は私の命の恩人でもある」

「27年前? いや、しかし彼はどう見ても……」

「ウェルナー大尉。“SILVER・WOLF”の外見に惑わされない事だ。彼は私が初めて会った時から少しも変わらない」

「…………」


 永遠の命と無限の能力を持った伝説のエスパーの話は聞いていた。

 だがそれは単なる噂話だと信じて疑わなかった。


「ウェルナー大尉。君の任務はこの少年の所在を突き止め、彼を監視する事だ」

「私が、ですか?」

「そうだ。この任務の適任者は君しかいない。彼の力は連邦にとって脅威なのだ。そして――」


 これが、始まりだった。

 トトが学生時代にライフワークで描いていた漫画『サザンの嵐・シリーズ』は「サザンの嵐篇」「続・サザンの嵐篇~落日の彼方へ~」「SILVER・WOLF篇」の三篇で構成されていましたが、今回の連載は「SILVER・WOLF篇」をベースに前二篇は主人公の回想という形で紹介させて頂こうと思っています。

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