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09.はじめて人を召喚した女性は

 学園長室に設けられた客人用のソファーで紅茶を優雅に啜るウドさん。隣に座っているフラットは緊張した面持ちで背筋をまっすぐ伸ばしていた。

 幼い子供がウドさんに近づいて「ママー」と縋りつく。そうか、この子はウドさんの子供か。

 え、子供……? ウドさんが結婚していたのなら噂にならないはずがない。俺が生まれる前に結婚した可能性もあるが。

 そういえばウドさんの使い魔、いや相棒(?)の方はどこだろう。相棒の方の名前は知らないなーと思いつつ娘さんを目で追う。

 娘さんの後ろで先生が困ったように笑っていた。ウドさんは優しく娘に声を掛ける。

「ごめんね。お母さんは今からそこのお兄ちゃん達とお話があるから……」

 母親の言葉に納得いかなかったのか娘は泣き出してしまった。先生はすぐさま抱き上げあやす。

「この人に色々教えてもらえ」

 そう俺達に言うとウドさんの娘を連れて廊下に出て行ってしまった。

 ウドさんが先生を信頼しているのかは知らないが、娘を連れ出されたというのにまったく焦っていなかった。

 娘に縋りつかれた際に机置いた紅茶を再び手に取り、また一口。

「お二人も、お飲みになったら?」

「は、はい、頂きます!」

 反射的に紅茶を手に伸ばすフラット。作法も何もないその飲み方は雑だが汚くはない。市井の生まれとはそういうものだろうか。

 そう考えながら俺も紅茶に手を伸ばし、貴族らしく、しかし目上の人が居るのを心に留めながら飲む。

「さて、本題に入ろうかしら」

 ごくりとひとつ、唾をのむ。それを待っていた。先生は先程いろいろ教えてもらえと言っていたが……。

「あ、大したことじゃないのよ? 何か困ったら、頼ってほしいの。同じ立場の人として、ね。ただそれだけ」

 ただそれだけで、わざわざ来てくださったのか。これは、感謝しなければ。

「ありがとう、ございます」

「ふふっ、いいのよ。わたしが頼ってほしいってお願いしてるだけだしね」

 なんて優しい人だろうか。隣を見ると、フラットが目を輝かせて、というかメガネを輝かせて?ウドさんを見つめている。

「私達のような一介の子供にそこまでしてくれてありがとうございますっ!」

 あ、初対面の目上の人にはしっかり一人称を正すのか。

「いいのいいの。わたしがしたくてしてるだけなんだから。じゃ、ちょっと用事があるのでこれでお暇させていただきますわ。先生、紅茶おいしかったです。ありがとうございました。」

 流れるような動作で立ち上がり、学園長に一礼。忙しい中、わざわざ俺達のために……。いや、他に目的があってそのついでに来たのかもしれないけど、そういう考えであっているだろう。この部屋に入る前に先生が、ウドさんは会いたいと直々に思ってくれたと言っていたし。

「ワシからは特に何かあるわけではないが……」

 部屋から出ていくウドさんを横目に見ながら、机の引き出しの中から何かを取りだす学園長。俺達はその間にソファー立ち上がり、机の方に近付く。机の上に出されたのは……灰色の、バンダナ?

「お主らにはまだバンダナを配っていなかっただろう? アイツに何色にしたらいいか相談されてな」

 顎をしゃくって後ろを見るよう促される。そこには困ったように頭を掻いている先生が居た。

ウドさんの娘さんが少し開いた扉からこちらを覗いている。ウドさんにひっぱられたのか扉の向こうに見えなくなってしまった。扉が無機質な音を立てて閉まる。

 フラットと二人揃って学園長の方に向き直る。机の上にはさっきと変わらず灰色のバンダナが二枚置いてあった。

「ほれ、付けんのか」

 その言葉に嬉々としてバンダナを取り、右手首に巻きつけ始めたフラット。その顔はどこかうれしそうだ。学園長の視線を感じ俺も慌ててバンダナを手に取る。どこに付けるか迷ったが、普通に手首に巻いた。

 学園長は二人とも手首に巻いたのを確認すると、大きく一つ頷いた。

「お主らはもう帰りなさい。明日からの勉学に励むようにな。お前は少し残れ。少し話がしたい」

 はい、と声を揃えて返事をして部屋を後にする。先生と学園長の話が気になるところだが、別に盗み聞きをしたいというわけではない。

 男子寮と女子寮までの道のりは別れ道まで一緒だ。フラットと一緒に帰った方がいいのだろうか。少し気恥ずかしい年頃だが……。学園長室の前で止まったままの二人の足。

 フラットも少し悩んでいるらしい。言いにくそうに口を開いてパクパクさせたあと、うー、あーと少し声を出してから言った。

「よし。相棒よ、一緒に帰ろうではないか!」

 ……元気だな。断る理由はない。そうだな、と一言返して歩き始める。最初は無言だったが、それに耐えかねたフラットが話しかけてきた。

「あんさ、オレ達のクラスで灰色の無属性だったの、キャムだけだったじゃん?」

「キャム? ああ、お前の友達か」

 一瞬キャムというのが誰の事かわからなかった。誰の事かわからなかったのを察したのか、フラットがからかってくる。

「頭はいいくせにクラスメイトの名前さえ覚えてないのか相棒。しっかりせい! んで、昨日話したんだよね。キャムと。灰色がいいねーって。あ、オレキャムと寮、同室なんだ」

 同室……。貴族は基本的に一人部屋で、二人で使うのは孤児院出の人たちだけだ。フラットはクラスの中心人物であり、夕食時にたまに見かけて庶民服を着ているのをみて孤児院出なのは知っていたがキャムという人もそうだったとは……。

「だから灰色ですっごくうれしんだよねー」

「そこまで嬉しいものなのか?」

「なーに野暮なこというの! うれしいに決まってるじゃないか! 友達と一緒なんだぞ?」

「お前、友達多いだろ? 他の奴らと違う属性になってるじゃないか」

 クラスの中心であるフラットだ。名前は知らなかったが、社交的な人だなとよく思っていた。そして友達も多いはず。

「確かにみんなとは違うけどさ。やっぱ、キャムと一緒なのが、一番うれしいから」

 幸せをかみしめるように口から言葉を紡ぎだしているフラット。キャムという人とは特別仲がいいのだろうか。孤児院出で気が合うのか?

「そういやさっきウドさん、学園長に先生って言ってたね。ここの卒業生かな?」

「ああ、そういえば。そうかもしれないな。」

 話しているうちに男子寮と女子寮の別れ道まで来てしまった。左に曲がろうとする俺に対し、右に曲がろうとするフラット。足を止めてこちらを振り向き

「明日からも、よろしくな!」

というと、素早く駆けだして行った。よろしく、か……。昨日はどうしようもない気持ちになったが、今日は……。

「(おう。よろしくな)」

 テレパシーで、返事をする。

 あ、ウドさんに相棒はどうしたのか窺うのを忘れた。と思いつつ、これから良い日々が過ごせそうだと思った。


先生に対してはすでにオレ口調なフラットです。

先生と学園長が何を話したかなんて知りません。


感想、評価、アドバイスなど頂けたら幸いです。


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