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07.相棒の名前は

 集まった皆に向かって口を開いた先生。その内容は緘口令を解除する、ということ。

「緘口令は解除するからな。カイルとフラットは真名の交換儀式が終わったら俺に付いてきてくれ」

 教壇に立っている先生はそれだけ言って、使い魔とのテレパシーのコツを説明し始めた。どこに連れて行かれるのだろう。学園長室か?

 テレパシーのコツを聞きながら、教室の左列の一番後ろの二人掛け椅子に友達と座っているフラットの方を見る。と言っても、俺はロジスと右列の一番後ろの二人掛け椅子に座っているから、中央列の人を挟んで左を見るだけなんだがな。

 ダルそうに右肘を木製の机について、左手は左に座っている友達の使い魔の犬を撫でている。友達と喋っているのでおそらく先生の話を聞いていない。

 案の定先生に怒られたあとは両手を伸ばして机にぐでっと倒れ込んでいた。顔をあげて視線を先生の方に向けているので、おそらく話は聞いているのだと思われる。

 説明が終わると、各々でやってみなさいと言われたので、説明された通りにやってみた。

「(聞こえるか……? カイル・アンダールイスだ)」

「(おっ、どもー! フラットです!)」

 意外とあっさり出来てしまった。フラットの方を見ると、こちらに顔を向けて手はチョキを作り笑っていた。ちなみに前髪で目が見えないから口とえくぼで笑っていると判断した。

 ロジスも小人とのテレパシーに成功したらしい。

 教室を見渡すとみんなテレパシーが出来ているらしく、先生はそれを確認すると一人ずつ前に出てきて真名の交換儀式をするよう言い渡した。順番は使い魔召喚儀式と同じだ。

 自分の番が来るまでフラットにテレパシーで話しかけるべきだろうか。寮も別々だし、他の人より交流してないように感じる。普通に話しかけるのでもいいが、今まで自分から女子に話しかけたことはないので少しためらわれる。

 何人かのクラスメイトが先生に呼ばれたあと、テレパシーで話しかけることにしようと決めた。

「(悪いが、お前の名前はフラット・ブルーでいいのか? 真名じゃなくていつも使ってる名前は)」

「(あ、うん。学校の名簿にはフラット・ブルースカイという名前で登録しておりますが。アンダールイスもふっつーにカイル・アンダールイス?)」

 フラットの、トーンが高くなると声が裏返ったりしているのは一つの特徴だろう。慣れればどうってことないものだが。

「(そうだ。真名は一応別にある)」

「(ふーん……。ねぇ、アンダールイスって騎士の家系なんだよね?)」

 質問してくるフラットは気まずそうな顔をしている。

 随分と踏み込んだ内容を聞かれた。まぁ、使い魔だしいいか。……自分で言って思ったが、使い魔という認識でいいのか……?

「(ああ。俺は長男だから、暫定的に次期騎士だ。ところで、お前は俺の使い魔という認識でいいのか?)」

「(もちろんいいよ?あ、でも命令されてもビミョーだな……。相棒とか、どうだい?)」

 相棒か……悪くないな。フラットの方へ顔を向けると、いい考えだろとでも言わんばかりにニカっと笑っていた。

「(相棒か。いいな、そうするか)」

「(うぬ、相棒よ、よろしくな! ところで、話を戻すけど。肝心の王族がいないのに騎士とかどうするの? あ、プライドとか傷つけたらごめんよ?)」

 王族が、いない。14年前に事件が起こってから王族はいない。そうさ、だが、

「(どこかで生きていらっしゃるだろう。そうじゃなきゃ精霊が世界を壊してるはずだ。王の血を引く者が生きている限りアンダールイス家は騎士としての誇りを捨てない)」

「(あ、うんうんわかっただからちぃーっと落ち着け。ごめんごめん。シフターの使い魔の小人ちゃん怯えてるよ)」

 自分でも気付かないうちに気持ちが高まっていたらしい。シフターって誰だと一瞬考えてしまったがそういえばロジスの孤児院名だったはずだ。隣を見ると小人が今にも泣き出しそうな顔をしていて、ロジスは急に泣きだしそうになった小人の対処に困っていた。

「(小人は人の感情取り込みやすいらしいからねー。気をつけろよー)」

 小人を一生懸命宥めているロジスに少し申し訳ない。

 真名の交換儀式が終わった女子生徒がフラットの隣に座る。

 どうやら真名の交換儀式はロジスの番になったらしく、小人を抱きかかえて教壇へ歩いていった。大変そうだ。すまない、と心の中で謝っておく。

 そうだ、ロジスはシフター孤児院出身だったな。フラットも孤児院出身だったはず

 フラットの隣の友達はロジスの次らしく、二人で会話したあとロジスと同じように前に歩いていった。

「(さっきは取り乱してすまなかったな。フラット、お前孤児院出身だよな?)」

 孤児に対して孤児院出身の事を聞くのは気が引けるが、主人――いや、相棒として相棒の事はわかっておきたい。

「(あ、うん、そうだよー)」

 本人はなんでもないことのように応対する。どうして孤児院出身の奴らはどうとも思わないのだろうか。こちらとしては気まずい無いように思えて仕方がないのだが。

「(ブルースカイ孤児院の出身なのか?)」

 フラット・ブルースカイという名前から察するにフラットが名前でブルースカイが孤児院名だと思われるが……。

「(あ、ちょっと待っち)」

 フラットの前に座っている女子生徒――使い魔は黒と灰の虎模様で赤いバンダナをした猫――の番が来たらしく、肩を叩いて声を掛けていた。

 あれ? じゃあ次は俺達の番じゃないか?

 こちらを再び向いたフラットからテレパシーが届く。

「(いや、フラット孤児院だよ?)」

 ……え? じゃあ

「(ブルースカイが名前か?)」

「(いや、違うよー。それはキャムが付けた愛称なのさ。一応名前として使ってるけど)」

 フラットはそういって頭を動かして俺に隣の女子生徒を見るよう促す。

 どういうことだ? え、じゃあ名前は……? キャムって……その隣に座ってる女子生徒の名前か?

「(真名の交換儀式とかオレにゃ関係ないんよ。ま、簡潔に言うとオレは名前がありません、なのさ)」

 名前がない、だと? どういうことだ。

 意味がわからない。真名の交換儀式のために立ち上がり教壇まで歩く。数メートルしかないその道が、今だけは何百メートルもあるように見えて仕方がなかった。


テレパシーはやり方説明されたら簡単なんですぞ。

フラットの目は風とか吹くとチラっと見えます。


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