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32.衝突する町娘の彼氏は

 朝。ノビへ行く前に生徒の数を確認するため、学院内の丘では点呼が行われていた。

 チェーカス先生率いる子のクラスはフラット、ロジス以外全員集合中である。

 フラットは用事で他の先生に呼ばれているらしい、と朝食時にキャムから聞いた。

「じゃあ今から説明するぞー」

 そう言って先生が語り出したのはノビへの行き方。どうやら無属性の先生方が一人ずつテレポートさせるらしい。

 俺達に以前バンダナについて語ったことについては、向こうに着いたらまた魔法をかけるから、向こうにいる先生に言うこと。

 ノビではクラス単位で移動すること。そして、ノビ語を使って話しかけてみること。

 使い魔が見知らぬ地で興奮するかもしれないのできちんと管理すること。

「(おい、お前今どこだ? 早くしないとテレポート間に合わないぞ)」

 先生が近くにいる人から順に魔法をかけ始めたので、便利なテレパシーを使ってフラットに話しかける。大体朝から――キャムが言うにはキャムが起きる前から――呼びだされるとはなんなのだろうか?

「(お、おおう? あ、ああああ、の、ですね、すすすそ、そそその、実はフラットさん、すでにノビ側にいるんですにょ)」

 ……何故か返答から、その場で一人でに慌てているフラットが見えた気がした。

 しかし、すでにノビにいるとはどういうことだろうか? 質問をすれば、気まずそうではあるがすぐに答えが返ってきた。

「(あのですねー? 先生から呼び出されたの知ってる?)」

「(キャムから聞いたが)」

「(そそ。それでさっきいた場所から丘までちょっと遠いかんさ。丁度ノビまでテレポして頂きました。って感じ。ってことで待ってまーす。あでゅでゅ)」

 へえそうか、と納得したところで、再びフラットからテレパシーが入る。なんだ?

「(あ、先生は知ってるよー。事前に連絡行ってたっぽすから。んじゃ)」

 忙しい奴だ。

 まあいい。お、そろそろ自分の順番だ。

 先生に近寄れば、十数秒後には違う場所にいた。

 すごい……。これがテレポートというやつか。

 周りの生徒もテレポートを体験したおかげか、観光も始まっていないのにわいわいと騒ぎ始めている。

 とりあえずそこらへんにいる先生に呼びかけて、バンダナへ魔法をかけてもらった。

「ちーっすアンダールイス君」

 声に反応して振り向けば、頬に指がぐさり。

 ……やられた。

 いぇーい、と言いながら喜んでるフラット。……後でやり返すか。


「モニー、ノビ語自信ありんす?」

「ありませんわ。ここは、やっぱり」

 三人と二匹の視線が一斉にこちらに向けられた。……はぁ。しかも何故使い魔達まで。

「なんで俺が」

「えぇだってぇ~。あいぼぉ~。小っちゃいときからぁ~。四ヶ国語ぉ~ぅぉイタっ」

 イラつく喋り方をしていたフラットは叩かれた。いや、俺じゃなくてキャムとモニーに。二人の息がぴったり合っていたすごい。……まあ確かに。小っちゃいときからというよりは、家の中で五ヶ国語をごちゃ混ぜにしていたわけだが。

「何するし!」

「イラついたからー」「イラつきましたのでー」

 語尾を伸ばしてハモるように言う二人。この三人は仲が良いよな……。基本的にフラットがいじられてるようだが。一年の時から仲がいいのだろうか? 今度理由でも訊くか? ……そういえば、モニーはフラットの事をブルーと呼んでるな?

「ってことで、相棒、任せたぜ!」

「ん? あ、ああ」

 ……あ。無意識に承諾してしまった。

 こうして俺は『地域の人に質問しよう』という役目を請け負ってしまったわけだが……。それを決めていたのには理由があった。


 クラス単位で行動するのにもかかわらず、三人以上のグループを作れと言われた。理由は、お互いを監視して迷子にならないようにするらしい。

 いつもなら、子供か、と言いたくなるところだが、浮かれているクラスメイトを見てしまっては何も言えまい。誰かが迷いそうだ。

 つるむ時はロジスとつるみ、基本は一人行動の俺は、自動的に相棒と組むことになったのである。

 相棒はクラスの中心であるにしろ、どちらかといえば笑いの中心であり、クラスのボス、というわけではない。むしろ本人がクラスのボスとなるのを好しとしていないようだ。

 どのグループにも溶け込めるが、基本はモニーとキャムとつるんでいるような感じ。

 その三人グループに男が一人。……食事のときはチェリアかロジスと一緒だから微妙な気分である。

 グループを組ませたあと、先生がこう言ったのだ。

「そのグループの中で誰か一人、あとで泊まる宿の方に質問をするように」

と。

 そして話はさきほどへと戻るのである。

 テレポートされた広場――先生の説明によると、ノビの学院の城下町の真ん中――からぞろぞろと列を成して歩いているわけだが。

 ……店には活気があふれているのに、農民には元気がない。

 何かの用で街に出てきた人たちなのだろうが……ツァーの農民よりは明らかに痩せているし、服もみすぼらしい。

 騒いでいる生徒たちを見て外国人だとわかったのか、羨むような、苛立ちのような視線を向けてくる。それゆえに、楽しそうにしていた生徒たちからも段々重苦しい雰囲気が漂い始めていた。

「……農民、虐げられてるっぽくね?」

 普段より小さめに話しかけられた声に三人で頷く。

「噂は本当でしたのね……」

「なんか今すぐ帰りた、あっ、ごめんなさい!」

 フラットの肩が通行人の肩に当たる。っておいおいお前普通にツァー語喋ってるぞ。

「いえいえ、こちらも前を見てなかったの。ごめんなさい」

 通行人――町娘の格好をしている――の口から帰って来たのは綺麗なツァー語だった。

 謝罪の言葉を述べると、すぐに忙しそうに早歩きで去っていく。

「綺麗な子だったねー……。ツァー語喋ってたし」

「だねー」

「彼氏いるのかな?」

 拳を顎にあて、真剣に彼氏がいるのかどうかを考えているフラットに歩きつつも、先程の町娘について考える。暇だからな。

 ツァーの町娘が何故ここに? 商人ならまだしも。だとしたらツァー語が喋れるノビの町娘か。と納得する。

 これにて町娘についての考察終了。……つまらない暇つぶしでした。

 フラットはまだ真剣に考えている。これ使い魔なんだよなぁ……としみじみしつつ、無意識にこれ、と考えていた自分に苦笑する。

「……ま、いっか」

 難しい顔を緩ませ、キャムの背中へと突進するフラットを見つつ、店から聞こえる声に集中する。……ふむ。どうやら普通に理解できるようだ。問題ない。

 そこで突然、キャムが立ち止まった。

「……え?」

 目の前を向いて驚愕した表情をするキャムを見て正面を見渡すが、特に何もない。

「どうしたの?」

 三人の心情を代表するようにフラットが質問すれば、キャムが怯えるように言った。

「やばい、か、も」


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