表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/32

27.少年の失踪は

 少女は、考える。

 自分にも、秘密はある。大切で、大事で、大好きな幼馴染にも明かすことのできない、秘密。生まれた時から抱えている秘密。

 自分がそれを言わないのは、幼馴染と同じ理由だったからだ。

 怒る資格は、ない。秘密を教えて、今までと違う関係になってしまったら、怖い。

 でも、言って欲しかった。頼って欲しかった。信じて、欲しかった。




 コンッ。

 部屋のドアが控えめに叩かれたのは、俺が起きたばかりのときだった。

 時計を見ればまだ七時。休日に人の部屋を訪ねるには早い時間だ。

 なんだ? と思いながら開けてみれば、そこには庶民服を着て俯いたチェリアが立っていた。

「ロジスは? 一人か? ……気分が悪いのか?」

 チェリアの様子がいつもと違う。足を揃えて立ち、手は後ろに組んでいる。

 ドアを開けたときにチェリアがいる場合、何か攻撃を仕掛けてくるし、チェリア一人で俺の部屋を訪ねることはない。いつもロジスが近くにいるのだ。

 俺が知る限り、元気じゃないチェリアなんてみたことないし、俯いて何も言わないチェリアも見たことなかった。

「……が。……い」

 小さい、覇気のない声で喋るチェリアも見たことがない。

「なんだ? よく聞き取れない。体調が悪いのか?」

 一体どうしたと言うのだ。それにロジスはどうした。こんなチェリアを放ってあいつはどこにいるんだ?

 ロジスはチェリアをとても大事にしている、はずだ。

「ロジスが、いない」

 チェリアが声を上ずらせて、今にも泣きそうな声で言った。

 ……どういう、ことだ? 驚いてる場合ではない。

「何かあったのか?」

 先に食堂に行った、なんてことではないだろう。チェリアがこんなになるくらいだから、何かあったとしか考えられない。

「起きたら、こんなのが」

 顔を上げてこちらを見て、後ろから手を回して目の前に出されたのは封筒。

 ピッタリと閉じられた封を開けて、中から紙を取り出す。

『お前のルームメイトは私達が預かった。返す予定はない』

 ……なん、だって? つまり、

「誘拐されたのか……?」

「そう、みたい」

 学園側は一体何をしてるんだ。

 昨日の襲撃者が来てから、学園は門の警備を強化した。昨日はパーティーだったから、警備を緩くしていたらしい。大体学園側は狙われる理由などないのだ。

 門には先生を配置して徹夜で警備させていたはずだ。

 ロジスが誘拐されたのさえ気付かないなんて、なんて使えない学園なんだ! ロジスは誰に誘拐されたのだろうか。昨日も狙われたし……あの襲撃者か?

 そんなことを考えるより、先にやらないといけないことがあるな。

「それ、先生には言ったか?」

「……まだ」

「学園長に言いに行こう」

「う、ん」

 妙に歯切れの悪いチェリアの背中を叩いて歩くよう促す。こんなに沈んでるチェリアを走らせるのも悪かったので、チェリアの歩く速さに合わせて歩く。

「スティーは?」

「え? いなかった」

 ……使い魔も一緒に誘拐? 変な話だ。ああ、ロジスは橙だったか。じゃあそこまでおかしくない、か。

 火属性などである場合、使い魔に抵抗されたら余計に大変なだけだ。でも、いくら治療系の使い魔だからって誘拐したら大変なのだろうに。

 まぁ相手にも理由があるのだろう。考えるのはあとでいいか。




 朝早く学園長室を訪ねることには気がひける。

 けれども、老人の朝は早いだろうし、そもそも生徒が誘拐されたと言う緊急事態だ。別にいいだろう、と自分を納得させた。

 内側から「入りたまえ」と許可を貰って入り、チェリアを促せて理由を話せば、学園長は目を閉じて何かを考え始めた。

「学園側が全力で探そう。じゃが他の生徒の混乱は招きたくないからの。明日以降は体調不良で欠席とする」

 学園長が出した結論はこうだった。……大した不満はない。

 隣に立つチェリアを見ても、ずっと俯いたままだから表情がわからない。

「今日はゆっくり休むのじゃ。君は気が動転してるのかのう? 明日からはしっかりと勉学に励むように。明日になっても落ち着かないようなら、無理せず部屋で休むといい」

「……はい」

 ゆっくりと頭を縦に振りながら、覇気のない声で返事をするチェリア。……明日は休んだ方がいいな。

「失礼しました」

 俺が何もしなかったら、永遠と学園長室に無言で立ってそうなチェリアを促して退室させる。

「か――」

「一人で、帰るよ」

 えるか、と言おうとして遮られる。……昨日はフラットとこういうことがあったなと思いつつ、ここはチェリアの意思を尊重することにする。

 だが、その前に。

「ロジスが誘拐された理由に、心当たりはあるか?」

「ないよ」

 間髪いれずに返された答え。それを言った本人は未だに俯いたままだが。

「そうか。疑って悪かったな」

 食堂に行くか、と考えながらチェリアの先を行く。チェリアはトボトボ歩いていて大丈夫だとは思えないが、本人が一人で帰ると言っているのだ。

 気持ちの整理もしたいだろうし、俺が無暗に関わるのはやめておこう。




 休日の朝食はいつもの面子では取らない。起きる時間がバラバラだから別々に取ろう、という意見にみんな賛成したからだ。

 一人で朝食を食べながら、ふと何かに違和感を覚えた。

 自分でもその「何か」がわからない。けれどもその何かが引っ掛かる。

 そんな違和感は、朝食を取り終えた頃には消えていた。


違和感、何かわかりますでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ