25.三人で受ける事情聴取は
騒ぎ立てるだけ騒ぎたててあっさり消えてしまった先程の襲撃者のことを考えながら、俺達は治療を受けていた。
ロジスとチェリアを襲撃し、男子寮のロビーの入り口を破壊して消えたあの人物。
それによってパーティーは中止になったし貴族達も帰ってしまった。学園側には危機管理だとか何とか苦情が来そうなものだな。まぁそれは学園側が何とかしてくれるだろう。
俺とロジスとチェリア、あとさっきは見えてなかったけどルギーとスティーも爆発の影響で怪我をしている。特にスティーは気を失っていて顔が青白く、主人であるロジスはそれを見てさらに青白くなっている。
フラットは怪我をしなかったそうで、俺達より先に先生たちから事情聴取を受けている。俺達も治療が終わったら受けるらしい。
入口以外は何事もなかったかのようにキレイなままのロビーで身振り手振りで説明しているフラット。それを先生が聞いてメモしている。先生が何かをフラットに言うと、フラットが先生に深くお辞儀をしてこちらに走ってきた。
「みんなだいじょぶ?」
「う、うん、まあ平気だよ。チェリアもな」
「アンダールイスは?」
「ん? ああ俺も大丈夫だ」
床に座って治療を受けてる俺達を、しゃがんで覗きこむように尋ねてくるフラット。バランスを崩して前に倒れたためにスカートの中が見えて――庶民服の短いズボンをはいていた。いや、別にがっかりしているわけじゃないぞ? 俺は一体誰に言い訳してるんだ。俺自身か。
今のフラットの服装は学校の制服だ。おそらくドレスは持ってないから一応何かを着ようと思い、迷った挙句制服に辿りついたのだろう。
さきほどからチェリアは無言を貫いている。ずっと俯いており、その肩を後ろからをロジスが抱きかかえている。怪我をしたからではなく精神面の問題だろう。治療されながら時折ロジスがチェリアに「悪い。ほんっと悪ぃ。後で話すから、な?」と、青白い顔のまま子供をあやすように言っているのからして、ロジスと喧嘩した可能性がある。ロジスも気まずそうにしていたしな。
「うんわー相棒その高そうな服ボロボロやん……」
こちらを見ながらところどころ破れた服を見て、フラットが声を漏らす。
「んじゃ、キャムとかも気になるし、ばっばーい」
そう言って、俺達を治療している先生に言うと走って行った。
今ここは関係者以外立ち入り禁止となっている。だからここには先生と俺達四人、使い魔二匹しかおらず、キャムもいない。
キャム達は避難してるから無事なのだろうけど、一応心配なのだろうな。
「治療が終わったから、さっきの事を教えてほしいんだけど……、大丈夫? 体調が芳しくないようなら後日でも……」
「大丈夫、です」
前半は俺達三人、後半はチェリア一人にのみ向けられた言葉。
それは治療してくれた先生によるものだ。この先生のおかげで目立った外傷はなくなったし、流石教師をやっているだけあるな。使い魔が見えないのだけれども。
消え入るようなか細い声で返事をするチェリアにいつもの好戦的な雰囲気は窺えない。……本当に大丈夫だろうか?
大丈夫だとは思わない返答に困ったようにしていた先生だったが、何か考えるようにして視線を上に向け、手を丸めて顎に当てると、まぁいいかとでもいうようにこちらに視線を戻した。
「えーっと、まず、お名前と学年は?」
「みんな二年で、ボクはロジス・シフターです」
ほら、とロジスがチェリアを促す。
「チェリア、シフター、です」
「カイル・アンダールイスです」
チェリアの名前は普通にチェリアだったのか、と感心しながら名前を名乗ると先生が一度目を見張った。すぐに何事もなかったように戻ったけどなんだかな……。
「じゃあ、何があったのか教えてくれる?」
「あ、はい。いつものように部屋で過ごしてたら急にさっきの人間が入ってきて。それで銃を」
「そのときその人は何か言ってた?」
「いえ、何も」
事情聴取をロジスに任せていたチェリアがロジスの服を引っ張る。
ふんふん、と頷きながら手元の紙に色々書きこんでいた先生がそれに気付いてチェリアに問いかけた。
「何か違う?」
「あ、いえ、ロジーの言った通りです」
再び俯いてしまったチェリア。本当に大丈夫か?
「続けて」
「はい。それで逃げて逃げて、男子寮のロビーに」
「あそこは出入口が一つしかないよね? なのになんで入ったのかな?」
「気が動転してて……」
事情聴取は誘導尋問のようだ。ロジスの言葉に段々覇気がなくなっているような……。
「続けて」
「それで、追い詰められて、フラットさんが飛び込んできて、身振り手振りで逃げろって。それにあの人が気を取られてるすきに外に飛び出しました」
「そしたら出入口が爆破されました」
たじたじになったロジスのかわりに続きをいう。そうすると先生の視線は自然に俺に向けられた。
「それで、君はどうしてそこにいたのかな? 避難しろって言われたはずだよね?」
「……二人が心配で」
先生の言う通りなので何も言い返すことが出来ない。顔を正面から見ないで答えた。
「まぁそれは置いておくとしようか。続けて」
「その後数秒は何も起こらなくて、また瓦礫が爆破されて、あの不審人物が飛び出してきて消えました」
「消えた、っていうのは?」
「まるで魔法でも使ったかのように……」
でも、それは無属性の魔法のはずだ。先程の人間は二回も爆破をしているから火属性のはずなのに。……いや、他に仲間がいてその人が爆破、先程の人間が、か? でもその逆だとしても仲間って……。
先生も同じことを考えているらしく、手元の紙を睨んだまま唸っている。
「……今日はこれぐらいにしましょ。また事情を聞くことがあるだろうから、覚悟しておくように。じゃ」
「あ、事情聴取終わりましたか?」
「え、ええ」
この場を離れようとしていた先生に声をかけたのはチェーカス先生だ。なんだろうか。
「カイル、お前の親父さんが話したいことがあるそうでな。応接室で待たせてる。ついてこい」
……父上が? 何故、と訊く暇も与えられず、先に行ってしまった先生の後を慌てた追いかける。
父上はこの騒ぎで帰らなかったのか。でも……父上は、何の用だろうか?