24.銃声と窓ガラスの割れる音は
パーティー開催日。
学園に雇われている使用人は慌ただしく敷地内を動きまわり、下準備やら何やら色々なことをしている。全ては正午から夕方にかけて行われるパーティーのためだ。
パーティーは夜に行うのが普通だ。学園側主催のパーティーも例に洩れず普段は夜に行っている。
貴族主催のパーティーに孤児院出の生徒が出れないのは些か不平等ではないか。しかしパーティールームは貸せない、と強気に出ることもできない学園側は仕方なく、夜ではなく正午から夕方にかけて行うことを条件に部屋を貸し出すことにしたのだ。
普段は、とは、学園で何かをした際に行われるパーティーである。これに関しては第二学年以上ならば自由参加である。第一学年が参加できないのは、まだ酒を飲むには適していないと法律で決められているからだ。
貴族のパーティーに貸し出されたパーティー専用の部屋、パーティールームは、寮からだと食堂とは反対側にある。寮の出入口はパーティールーム側にあり、あまり使われることはないが今日は第二学年の貴族の女子生徒や男子生徒が自らを着飾って意気揚々と出て行くのが見受けられる。
見受けられる、というのは、俺が現在進行形で寮の出入口に突っ立っているからである。
ドレスを着た女子生徒やら男子生徒やらが俺を不審に思ってチラっとこちらを見ては、どうでもいいかという風に素通りしていく。
そのことに居心地の悪さを感じながらも俺はそこでフラットを待っていた。
「(あのー……)」
待ち合わせにはまだ時間があると言うのに、フラットからは戸惑っているような、申し訳なさそうなテレパシーが送られてきた。
「(どうした?)」
昨日の夜、色々説明はしたから大した問題はないはず。何か不都合でもあったのだろうか。
「(ドレスって、持参なわけっすか?)」
嫌味を言ってくれる貴族には反論するな、礼儀作法はわからなくていいから走ったりするなと色々言った。確かにパーティーに関することは言った。
しまった。
貴族ならばパーティー用に、ドレスを学園に持ってきているのだ。学園主催のパーティーではドレスの貸し出しもするから、偽名を使ってる貴族などはそれを使うことも多い。
それを大前提に話を進めてしまった。
フラットがドレスに関して質問しなかったのは学園側が貸してくれるのだと思ったのだろうか。ドレスを着るのかどうかと質問してきたときは顔を嫌そうにしてたから、着ること自体は好きではないのだろうと思い話題にしようとも思わなかったのだが。
フラットはドレスを持っていないのだ。
そのことをすっかり失念していた。
どうするか、頭が混乱している。解決策をひねり出そうとして頭を一生懸命働かせていると。
パンッパリンッ――――
銃声。パーティーが始まる前の部屋からではなく、寮から。男子寮から聞こえてくる銃声。
今日にかかわらず、普段の日々であったとしても、学園に似つかわしくない物騒なその音。それに覆いかぶさるように鳴った窓ガラスの割れる音。
次期騎士である俺は主に剣を使うが、銃は使えないこともない。だからこれは銃声であることがわかる。
その場を離れ男子寮の階段を上る。
「(窓割ったんかな? 今の音。この階の男子寮からかな?)」
「(銃声だ! すぐに逃げろ!)」
フラットが不本意に発した情報で、第二学年の部屋から聞こえた音であることを知り素早く階段を駆け上がる。
『男子寮にて何者かが攻撃をしたようだ。生徒は出入口の方からすぐに外に避難すること。パーティーは中止です! 貴族の皆様は今すぐお帰り下さい! 繰り返します――』
三階に着くと、丁度向こう側の階段をフードを被った人間が降りていった。拡声魔法による放送により部屋の中に残っていた生徒が次々と出てくる。
次々と開けられるドア。しかしそれより前に開けっぱなしになっていた部屋がある。おそらく先程フードの人間はそこの生徒を奇襲して、生徒を追いかけて行ったのだろう。
あの場所は……ロジスとチェリアの部屋だ!
俺は生徒であるし、ここまで来たが放送に従って外に避難してもよかった。
しかし、襲われたのが友達であるなら。
生徒たちが走る方向とは反対側に走りだす。それを見て何か声をかけて来ようとする人はいるがとがめる人はいない。
「(男子寮のロビー! 怪しい奴おる!)」
この寮は一階分に一学年の生徒がいるので廊下は果てしなく長い。あちら側に着くまでの間にさきほどの人間の位置を見失う可能性は十分にあるのだが、行動しなくては始まらない。
そう考えながら走っているとフラットのテレパシーが来た。
こ、こいつ……! さっき逃げろって言ったのは聞こえなかったのか!
「(お前じゃ危ない! 今すぐ逃げろ!)」
「(うっさいそれぐらい自分でもわかるわ! ていうかお前の使い魔だっての! 情報あげてるんだし役に立つだろ! 自分の身は自分で守るし安心せい!)」
ぐっ! 反論に詰まる。
確かにフラットは俺の使い魔だし……クソ!
何メートルもある長い廊下を走り終えて一階まで降りる。
ロビーの入り口に入ろうとした途端、中からロジスとチェリアが走り出してきた。それと同時に入口の天井が爆発。
瓦礫が入口を塞ぐ。
「カイル!」
「お前達大丈夫か!? ケガは!? フラットを見てないか!?」
「フラットはロビーの中!」
外傷はなさそうなチェリアが肩で息をしながら答える。
なんだと? あいつは突っ込んでいったのか!?
「敵を引きつけてくれて……ゲホッ」
「(おい、大丈夫か!)
唾が気管にでも入って咳き込んだロジスの背中をチェリアが擦るのを横目で見ながら、フラットにテレパシーを送る。
敵が魔法を使ったところを見るとどうやら魔法使いのようだし、銃も持っている。
「(大丈夫じゃない! そっち行った!)」
爆発。
先程の瓦礫が爆発し、破片がこちらに吹っ飛んでくる。
「うぐっ」「わっ」「わあ!」
中からフードを被った人物が煙に紛れて飛び出してくる。
そして――消えた。
戦闘シーンではないけれど戦闘シーンっぽい今回の話
わかりにくくてすいませんでした