20.気付かずに抱いていた印象は
「名誉騎士アンダールイス公のことは父からよく聞いております。エジーマ・サイクルクリーンと申します。気軽にエジーマとお呼びください」
他の生徒が消えて男二人となり無言で見つめ合う気まずい状況が長く続いている中で、先に言葉を発したのはエジーマだった。
「そんな堅い口調じゃなくていい。カイル・アンダールイスだ。俺もカイルでいい。よろしく」
「はい、よろしくお願いいたします」
まずは丁寧に話しかけ、話しかけられた方は「丁寧じゃなくていい」という内容の事をいう。これはこの魔法学園の暗黙の了解である。魔法学園では貴族と庶民である孤児の差別を無くすため、学園内では対等に扱うという規則がある。その中には貴族同士の身分の違いについても書かれており、身分が低かろうと高かろうとお互い対等な立場ではならないと説かれている。
堅い口調でなくてもいいと言ったのに返答が丁寧なところをみると、エジーマは元々そういう口調であるかまだ遠慮しているのか。
「あの、僕たちも食堂に行きませんか?」
「ああ、そうだな」
食堂に昼食を貰いに行き寮に向かっていくときにわかったことといえば、エジーマが誰に対しても敬語を使うと言うことだ。
雑談をしながら歩いていたわけだが、ときたま軽い挨拶をしてくる友達を思われる人たちにわざわざ頭をさげて「こんにちは」と言っていた。……これはいささか丁寧すぎないか? こんな奴はとても珍しい。
寮の一階にある交流所で昼食を取る。最初はここに来るときと同じように雑談をしながら食事をしていたが、エジーマは突然こう切り出して来た。
「あの、カイルさん明日はどうするんですか?」
「明日?」
「使い魔披露パーティーのことです」
しまった。フラットに説明するのをすっかり忘れていた。
使い魔披露パーティー。それは学園で行われ、第二学年で使い魔を召喚した生徒の父兄によって自分息子娘の使い魔自慢をする気味の悪いものである。
学園で行われると言っても学園側の主催、というわけではなくどこかの貴族の主催だ。庶民が嫌いなのか孤児は出れないという差別がおこなわれているが、学園側が主催してるわけでもないので文句も言えない。
理由はわからないが貴族は全員参加となっているの。ただし家の名前を隠していて偽名を名乗っている人は別だ。俺は隠しているわけでもないので出なければならない。もちろん使い魔も一緒に。
だけどフラットにはまだ伝えてない。というか伝え忘れていた。
そういえば女子生徒は孤児を除いてパーティー、という学園にいると味わうことが出来なくなるものに浮足立っているので知っているかもしれないな。
「カイルさんのご両親と、えっとフ、フ」
「フラット」
「フラットさんのご両親は少し気まずくないですか?」
気まずい? その前に気まずいことを言わせてもらおう。
「フラットは孤児だそうだ」
「あ、そうなんですか? 僕は失礼なことを……」
エジーマが申し訳なさそうな表情をする。
これでわかったがエジーマは庶民に対してだろうと丁寧だ。すれ違ったエジーマの友人は皆制服を着ているので貴族か庶民か判断することができなかったが、フラットが孤児だと言っても丁寧語なので誰に対してでも丁寧なのだろう。
「気まずいって?」
「いや、次期騎士が人を召喚というか……。それに魔法が……」
……わかってる。フラットにもし両親がいたとしてもその人だけじゃない。全貴族を対象に気まずいどころかアンダールイス家の立ち位置が危ない。ただでさえ父親は王族を守れなかったことでこの家は立つ瀬がなくなっているというのに。俺はフラットを使い魔として召喚してしまっている。本当に、こう言うのは申し訳ないが、後ろ盾がない孤児で、馬鹿で、体力がなくて、魔法の才能がない人間を使い魔にしてしまっている。
「覚悟は、できている」
「そうですか……。フラットさんはどのように考えてるかご存じで?」
「そういえば訊いたことないな」
「今度尋ねてみたらどうでしょうか?」
「そうだな」
今度色々説明した後に尋ねるとして……明日の事については今日中に説明しなければ。
毎週ある二日間の休日にフラットがどうしているのかはわからないが、もしキャム達と出かける予定が入ってるのなら非常に申し訳ない。
俺とエジーマ二人が昼食を取り終わり、エジーマの使い魔も食事をたいらげたので会話もここで終わった。
無言で立ち上がり食堂に向かえば男子生徒と女子生徒の合流廊下でフラットをみつけた。左からフラット、キャム、ナルニーナと言う人、ダシタムという順で歩いているわけだが、フラットはいつものようにキャムと腕を組んで体重をかけてダラダラ歩いているわけではなく、一人だけ不自然に他の三人から離れていた。
……四人分の盆を持って。
お前は他の三人の下僕かと心の中で突っ込んたが、キャム達を見て楽しく話しているフラットの横顔を見る限り嫌々やっているわけでもなさそうだ。……腕が重さにプルプル震えているが。
「フラットさん、他の皆さんのを持ってあげるなんてお優しい方ですね」
そういう考え方!?
エジーマには声を出して突っ込みそうになった。
……確かにそういう考え方をしてもおかしくはない。むしろ何故俺はフラットが三人に言われて四人分の盆を持っていると思ったのだろう。
……あれ? もしかして俺はフラットに対してそういう印象を持っているのか?
まぁ実際フラットは他の三人に押し付けられてたんです。ナルニーナちゃんは遠慮したけど他の二人に言われて押しつけました。
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