17.無属性クラスの生徒たちは
「カイル・アンダールイス」
「はい」
板へ向けている視線を下へと流し、名前を読み上げる先生。
「と、使い魔の。フラット・ブルースカイ」
「はい、欠席です!」
「はいはい、出席な」
俺の使い魔兼相棒の名前が呼ばれ、それにフラットが返事をする。灰組でもよく「フラットさんは欠席です」と自分で言ってるよな……。
灰組ではいつもの事なので、フラットの欠席報告に慣れた先生が子供を相手にするように板にチェックをする。
女子生徒と男子生徒は怪訝な顔をしていたが、噂で「生徒が生徒を召喚した」ということは聞いているのか、納得したような表情をした。俺とフラットの使い魔は自分たちからは見えないけど先生からは見える位置にある、とでも思っていたのだろう。
男子生徒の方が驚いたように顔を後ろに、俺の方に向けていた。口からは小さい声であるがいぶかしむ様に「騎士が人を……?」と言っているのが聞き取れた。
蔑むような目付きではないが、反応からしてこの男子生徒は恐らく貴族だろう。これまではフラットの認知度や交友が広いためにフラットを主体とした噂が流れていたが、これを気に俺を主体とした噂が流れそうだ。しかも悪い方向に。
騎士じゃない、次期騎士だ。と訂正したいが聞かなかったことにする。考えないようにはしていたが……俺の立場だとやはり人を召喚したのはまずい。一番の救いはその人というのが平々凡々ではなく魔法学園の生徒だということだが……。フラットは体力も少ないし、こう言うのはあまり言いたくないがバカだ。せめて今日から学ぶ魔法がしっかり使えるならありがたいのだが。
「次、キャム・フラット・ノーシル」
「はい」
いつも通りの優しい声で返事をするキャム。
ん……? フラット?
ハッとしてフラットを見る。
凄い勢いで右から寄こされた視線に気付き、更には理由にも気付いたのか説明しようとしてくれた。一度口を開き、何かを思い出したかのような顔をすると独り言なのか「テレパシーあるやんけ」と言うとテレパシーをしてきた。フラットお前忘れてたな?
「(フラット孤児院出身って言ったっしょ?)」
呆れたような声でテレパシーを発してくるフラット。いや、そう言われてもキャムとお前が同じ孤児院出身だとは思わなかったんだ。
俺の思ってることがわかったのか再びテレパシーを発してくる。先生がルーの名前を読み上げたのを聞きながらテレパシーに耳を傾けた。……頭を傾けた?
「(ブルースカイがキャムの付けてくれたあだ名、って言ったよね?じゃあそれを学園側に言うんだから学園に入る前にキャムと会ってなきゃおかしーっしょ。だから同じ孤児い、あ。庶民学校で出会ったとかそういうのもあり得っか)」
理由を説明しながら違う結論にも辿りついたらしい。
庶民学校というのはそのままの意味で庶民が行く学校だ。これはその領地内の子供であれば誰でも入れる。孤児でも農民でもなんでもだ。
「(フラットさんはブルースカイって名前がありますがあまり呼ばれたくないのですな。だからみんなにはフラットって呼ぶように頼んでありますの。キャムにはノーシルって家名がありますし)」
フラットは時折自分の事を指すときに「フラットさん」と自分の名前の後にさん、をつけて表すことがある。これもフラットの特徴の一つか。
「ナルニーナ・ホープウェル」
「は、はい!」
あ、名前が同じだ。と頭の隅に出てきた人を考えながら思う。しかし女子生徒の方は性格がおどおどしているように感じられる。先程は叫んでばっかだったが、立振る舞いは貴族らしい。ホープウェルという名前は聞いたことがない。俺が知らないだけなのか、偽名なのか。貴族じゃなかったとしても、貴族なのに貴族らしくないこちらのナルニーナとは大違いだ。
「で、使い魔のジェリー」
おどおどしているナルニーナという人の使い魔の黄土色のネズミの名前はジェリー。こちらのナルニーナの使い魔の名前もジェリーだ。正しくはジェリンスだがよくジェリーと呼ばれている。すごい偶然だなと思いつつ、これから友に魔法を学んでいくクラスメイトの名前をしっかりと覚えようとする。
そして最後の一人。貴族だと思われる男子生徒。
「エジーマ・サイクルクリーン」
サイクルクリーンだと? その名前は知っている。むしろ他の貴族よりよく知っている。悪い意味ではない。父親がよく困ったような、嬉しそうな顔をして言う人の名前だ。多分エジーマという人の父親の名前だろう。
「使い魔はメートム」
猫がメーと鳴く。
……猫が、メー?
フラットがゴッキーの際と同じように少し興奮しながらキャムと話している。一応小さい声を出しているつもりなのだろうが「ちょ、猫がメーだって! 羊か! あれ、山羊?」と、全部聞こえている。心の中で山羊だと言っておく。羊もメーで間違いではないがどちらかというとベーと鳴くからな。
フラットの声がエジーマと言う人にも聞こえたのだろう。眉間にしわを寄せてフラットを睨んだ。途端にフラットが身体を小さく丸め、首をすくめて俯く。
逆にその態度に申し訳なく感じたのか、エジーマと言う人は焦ったように前を向きなおした。前髪の隙間から見える黒い瞳が窺うようにエジーマへと向けられる。すでに気にしてないようだということを確認するとゆっくりと首を元に戻し背筋を伸ばした。背筋はすぐに少し曲げられたが。
「さて、出席も取ったところでお待ちかねの魔法の授業にするか」
先生が言ったその言葉に俺も含めてクラス中の人が良い意味で反応した。寡黙なイメージのダシタムという人までが真剣な顔立ちで先生を見ている。さっきまでの無表情はどこかに消えたらしい。
俺達は今から魔法を学ぶ。色々と思うところはあれど、それは嬉しいことだった。
ネズミと猫の名前は某有名なアニメから拝借。
ちなみに羊はべぇ~と声を震わす感じで鳴きます。
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