13.初授業の道のりは
朝食が済めば授業が始まる。
今日からの授業は使い魔と共に行うことになるため、一旦それぞれの寮に鞄を取りに戻り、男子寮と女子寮の合流廊下でフラットと待ち合わせをして第二学年の無属性の教室へと歩き出した。
フラットに恋愛感情を寄せているなんてことはないのだが、女子と二人きり、という情況に心なしか少し気恥ずかしさを感じる。まるで恋人みたいだ。
同じ学年の中ではすでに俺とフラットが主人と使い魔(相棒だが)という関係であるのはすでに知れ渡っており、他の学年にも「生徒が生徒を召喚した」というのは広まっているらしい。
ただ、他の学年の人は噂を知っていても俺達の顔は知らない。だから俺達の新品の灰色バンダナを見て第二学年だと判断した人たちが、一緒に教室まで行く恋人だと勘違いして茶化したりしてくるのだ。使い魔はネズミなどの小さな動物である可能性もあるため、俺達の周りに姿が見えなくても何処かにいるものだと考え、噂の生徒達であるとは考えないらしい。
道中勘違いされて茶化され二人で気まずくなるどころか、フラットが絡まれたあとにその人たちに見えなくなった途端に顔をゆがめとても迷惑そうにし(あいつらの目は節穴かっての)とテレパシーで暴言を吐いたりしながらも、隣を歩くフラットは少しうきうきしているよう感じられた。そういう俺も少しは楽しみである。
今日は使い魔召喚儀式や真名の交換儀式後の初授業、兼属性別の授業となるため、魔法を覚えることに期待を膨らませる生徒は俺やフラット以外にもたくさんいる。
これまでの一年は魔法に関係あることないことを学んできたが、魔法を使う授業はしていないのだ。
元々この学園というものは軍を育てるためにある。魔法学園で学び、魔法使いとなって軍に入るのは大抵が貴族の次男以下の人たちであり、各所で王族の警護のためにあるものであったため、地理などの知識を身につけるために最初の一年は勉学に励み、次の年に使い魔を召喚し自らの属性を知った後に魔法を学び始める。
当初、貴族の長男たちは別の学園で一族の長となるための教育をしていたが、民衆は「貴族は魔法学園に入る」と考えるようになり、貴族達も「長も自分で身を守れるようにならなければならない」と考えるようになったため、男子達はすべて魔法学園に入るようになった。
そして女性の社会進出が進んだ後は誰かが女子も軍に入るべきだと唱えたために女子も魔法学園に入るようになったのだ。
軍は他国と戦うためのほかには王や王女の命令に従うことしかなく、数百年戦争があった試しはないため、王や王女から請け負う任をすればいいだけである。その上、婚約者が決まっていない娘に舞踏会などで婚約者を探させるよりは、貴族の男子がいる学園に入れて日々近い所で一緒に過ごすことで経済的にも内面的にもいい人を見つけさせた方がいいと貴族たちが判断したため、今では貴族の男女のほとんどが魔法学園に通っている。
中には色々な事情により素性を隠している人もおり、これは真名を隠すのとは違い、名字を隠し偽名を使っている人も少なくはない。
例えばモニー。昨日の夕食時に貴族服を着ていたが、左胸に家紋の刺繍が施されてなかったので恐らく偽名を使っているだろう。まぁ俺は名字をしらないのだが。
「この学年の灰色の先生ってオレのクラスの先生だよねー。そこだけ新鮮味がないんだよね……」
「そうだな」
テレパシーを使うような状況でもなく、普通に話しかけてくるフラットに一言返事をする。属性によって学年ごとに別れるため、クラスメイトも変わるし属性によっては人が多かったり少なかったりの違いもある。そこに新鮮味を感じるのはみんなも一緒だろう。
灰色。何か引っかかる……。あ、そういえば
「そういえばキャムはどうしたんだ? あいつも無属性だろ?」
なぜ一緒に来なかった、という疑問も含めて訊く。そうすればこういう、二人きりで歩くなんていう状況にはならなかったのにと少し恨めしく思う。
「あ、キャム? ちょっとモニーと用事があるっぽー。ルーと一緒にあとから来るんじゃないかな?」
確かルーというのはキャムの使い魔の犬の名前だったはず。朝食の時にチェリアが訪ねて教えてもらった。
フラットは少しもキャムを恨んでいる様子はない。俺と二人きりでよかった、なんてことは絶対にないだろう。なんたって「野郎嫌い」と呼ばれるフラットのことだ。男子と話したり騒いだりするのはいいけどそれ以上は絶対に嫌、だそうで。もしかしてレズではないかという噂もあるほどだ。
先程(あいつらの目は節穴か)とテレパシーしてきたのは、お互い迷惑だからやめてですよね、と一方的に考えを押しつけるためだと思われたのだが、キャムを恨むつもりはないらしい。
三階まで階段を上るとフラットが息切れをした。……こんな体力のない相棒で大丈夫か? いつもなら左に曲がるが、今日は右に曲がる。その点はいつもと違うため新鮮味があるが、階段を軸として教室の配置が左右逆になっただけである。各属性の先生がいる教室の逆側の教室で授業を受けることになっている。
俺達のいつもの授業の教室は廊下の一番奥の突き当たりにあるが、左右反対となったとしてもそれは変わらない。
「灰色って人が少ないから突き当たりなんだろねー。オレ達のいつもの教室が一番奥なのもそれのせいか。あーなんかあんま上手く言えないや。伝わった?」
「言いたいことはなんとなくわかった。つまり先生が無属性だからこうなってるんだと。」
「そーそー。わかってんじゃん、あーいぼ!」
後ろに回られてバシっと背中を叩かれる。手を大きく振り上げた割には威力がない。手加減したのだろうか。
周りにちらほらいた生徒が次々と他の教室のドアに消えていく。
そして漸く無属性の教室に着いた。
「(行くぜ相棒!)」
フラットが取っ手に手を掛けて横へ引く。テレパシーで行くぜと声を掛けられたためか、少し気分が高揚していくのを感じる。
今日からこの教室で魔法を学び始めるんだ、と。
噂は最初は「フラットがクラスメイトに召喚された」です。カイル友達少ないもの(
「アンダールイスがクラスメイトを召喚した」って噂だったら話は違ってました。
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