12.いつも通りの少女たちは
ワンちゃんの身体も綺麗に拭いてっと。
ドライヤーで髪の毛を乾かしながら考える。洗いっこしてるときは言うか言わないか迷ったけど、やっぱブルーにも言っとこ。どんな反応されるかな……?
「あの、ね。ワンちゃんについて話があるんだけど、いいかな?」
髪の毛は自然乾燥派だというブルーは髪の毛を濡らしたまま、二段ベットの上で本を読んでいた。
「(マスター……?)」
「(ブルーは家族みたいなものだから、話しておくね)」
「ん、いいよー。何?」
読みかけの本にしおりを挟んで閉じ、手を柵にかけて体を乗り出してくる。体重を掛けられた柵は古いため前に揺らぎ、それにつられてブルーもバランスを崩す。不安定な体制になり、体重を腕にかけていたブルーはそのまま上から落ちた。
「うぎゃ!」
ドコッっと音を立てて地面に落ちるブルー。
「マスター! この人大丈夫!?」
「いつものことだから大丈夫だよ」
もう何回目なのかわからないぐらいこのことを繰り返すブルーに呆れながら近寄る。ワンちゃんは少し騒いでたけど、あたしがなんでもないようにしてたら冷静になったのか静かになった。ブルーも少しは学習していいんじゃないかな……?
「いった、いった、た、て、て、いた、て、てー。……んぅー。……ふぅ」
右膝を打ったらしく、四つん這いの体を置きあがらせて左足で飛び跳ね出す。苦痛を口に出すことで痛みを和らげる。数秒経つと痛みが治まったのか右足をゆっくりと床に付けた。
「また痣増えたちくしょー……」
「気をつけなきゃダメだよ? 何回言えばわかるかなー?」
ブルーはアハハ、とそれを笑い流しながら右膝を確かめる。あたしの視線も自然とブルーの右膝へ。そこには少しだけ変色した二センチぐらいの円ができていた。
「後で絶対青くなるね。マジないわー……。あ、そうそうキャムー」
「ん、何?」
「テレパシーにはテレパシーで返した方がいいよ?」
「……え、なんのこと?」
ワンちゃんからテレパシーなんて貰ったっけ……? 顔をゆっくり動かしてワンちゃんに目を向けるけど、ワンちゃんにもそんな覚えはないらしく首を傾げていた。
「え、テレパシー貰ったんじゃないの? いつものことだから大丈夫だよって言ってたじゃん?」
あ……。そっか、ブルーにはワンってしか聞こえないんだもんね。他の人もそうだよね。次から気をつけようと思いつつ、正にことについて言おうと考えていたところだし、丁度いい。
「あのね、ワンちゃんが教えてくれたんだけど、あたしワンちゃんの言ってることが分かるらしいの!」
数秒の沈黙。
ブルーは表情を崩さず口を開けて呆けている。ブルーがそうしてるときは考え込んでいる証拠だ。
「……その耳?」
結論に達したようで、首を傾げてあたしに質問をしてきた。ブルー、頭の回転はすっごく早いもんね。飲み込みも早いし適用力もあるし。
「(マスター、この人は耳の事についてしってるんですか?)」
「(うん、知ってるよ。ブルーは昔からずっと一緒にいるもん)」
「うん。なんかこれ、ミックスっていうらしくて。あたしもよくわかんないんだけどね」
よくわからないけど、そんな詳しく知りたいと思ってるわけでもない。知りたくないわけじゃないけど尋ねようとも思わないっていうか。
「ふーむー……。つまり、そいつの鳴いてる声っていうか言ってることがわかると?」
「うん、そんな感じ。だよね、ワンちゃん」
「うんっ!」
右手を拳にして口にあて、要約があっているか尋ねるブルー。それは合っていることなのでワンちゃんにも同意を求めるとワンっと一鳴きした。
「……ま、この部屋でワンちゃんと喋る分にはいいけど。キャムもわかってるだろうけど、外じゃ……ダメだよ?」
「うん、わかってる!」
わかってる。だからこの耳だってヘッドドレスで隠して生きてきたし。奇異の目で晒されるのはあたしだって嫌だもん。
ワンちゃんのも今ので鳴いてあたしと会話することの良くなさがわかったみたい。
使い魔の犬がワンワン鳴きながらテレパシーを飛ばしたとして主人が言葉に出して返事をするのはおかしい。そのうちボロみたいなのが出れば使い魔と喋ってるのがバレる可能性は少なくないけどある。
ブルーはそこらへんを考えて、あたしのために言ってくれてる。
やっぱり、
「ブルー、大好き」
そういうと、口をへの字にしたり唇を口の中に隠すようにしたりキョドったりして真っ赤になる。平静を保とうとしてるのかな。口をパクパクさせた後に呼吸を置き、いつもの顔に戻る。
「オレもキャムのこと大好きだー」
感情が籠ってないような、棒読みだと思われてもおかしくない声色で答えて抱きついて来る。ブルーの濡れたままの髪が顔に掠める。こういうときのブルーって大抵は恥ずかしがってるだけなんだよね。
ブルーは「いやっほー」と意味不明な裏返った声を出してあたしの背中にまわしていた手をほどいた。あたしの顔に視線を戻すのが恥ずかしいのか俯いたまま。
「(マスター、は、そっちの気があるんですか?)」
「(違うよ! 家族愛だよ!)」
固まっていたワンちゃんが思考力を取り戻しす。勘違いされたので訂正する。
これは決して恋情じゃない。家族愛。ブルーもきっと同じなはず。
ブルーが「あっ」と声をあげる。
「青くなってる……」
腰を曲げて見る先には先程ぶつけて出来た痣。ブルーははぁ、と一つ溜息を吐いた。どうやらもう気にしないことしたらしい。
二段ベットに備え付けられている梯子をのぼりはじめるブルー。それを尻目にあたしも下のベットに座る。
あたしも昨日途中まで読んだ本読もっか。
ワンちゃんに「おいで」といって膝に乗せつつ、夕食までに読み終わるかなと思いながら栞を挿んであるページを開いて捲り始めた。
頭の回転は速いけど勉強無理なんだって。悪知恵働くタイプだな。
別に百合じゃありませんよ!
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