表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷雪記  作者: ゐく
第三部
82/101

第二十八章 対面 参

 突きつけられた内容は、雪姫が実際に体験して得た情報とまったく異なっていた。信じられない思いで聞き返す。


「氷姫が、白き闇の原因……?」


 一葉は少女の顎から手を引き、立ち上がって俯瞰(ふかん)する。


「そう。白き闇は、氷姫自身によって作られた災いだ。両親である如月様と美冬様が相次いで亡くなり、守ってくれる存在を失った氷姫は、人より永く生き、強い霊力を持った自分が『異形であると忌み嫌われ、死に追いやられたりしないよう、英雄となることで人々から愛されるように』と生み出したもの。しかし、予想に反して白き闇の力は自身を上回ってしまった。封印を施すが、しばらくすると破られてしまい、また封印し直しては破られる……それを幾度も繰り返し、そして百年前、氷姫はついに自身の生み出した災いに破れて亡くなり、この世には白き闇だけが残った。これが、真実だ」


 語り終えた一葉は宙を見上げ、物思いに(ふけ)るような遠い目をする。


「もし、白き闇の元凶が氷姫であったと民や他国の者に知れたりすれば、霜白皇家の威厳がなくなる。そこで、我が祖先は氷姫が皇家の者であるという証拠を消して回った。清晏という学者や、お前たちのような(やから)に見つけられてしまったのは、計算外だったがな……」


 そう言って(まぶた)(しぼ)り、(いま)々しげに目を細めた。


 しかし、雪姫の意識は先ほど語られた“真実”の方に傾いていた。

 一時は茫然となったが、思考も回復して言葉を紡げるようになる。雪姫は、ようやく反論に出た。


「い、いいえ……そんなはず、ありません。一葉様は先ほど、白き闇は作られた災いだとおっしゃいました。けれど……私は、違うと思います」


「何?」


 一葉の声色に、苛立ちが混じる。


「私は、白き闇の原因となるものを間近で見ました。そして、思ったんです。あれは、氷之神様なんじゃないかって」


「ほぅ……」


 一葉は声の調子を落とし、憤りを滲ませながら苦々しい表情でゆっくりと笑んだ。


「娘よ……余所(よそ)からきた分際で、我が一族が永きにわたり守り続けてきた国の歴史を否定し、ばかりか、氷之神まで侮辱するか……」


 腹の底より湧き出た声が、震える。想起させるのは地獄で煮えたぎる岩漿(がんしょう)(※)。

(※マグマのこと)

 過激派の若き(おさ)は、間髪入れずに雪姫の主張を(おとし)めにかかった。


「それに、氷之神を見ただと? 馬鹿なことを。気でも触れているのではないか? 冗談なら、もっとまともなことを言ってもらいたいものだな」


 一葉は雪姫の言うことを、まったく信じていないようであった。ハッと鼻を鳴らし、(あざけ)る。


「ほ、本当です!」


 雪姫は身を乗り出して訴えた。


「氷之神様は、我を忘れているようでした。氷之神様の暴走──それが、白き闇の原因です。だから、急いで鎮めなくてはなりません。鎮めることができれば、大寒気がくるのも防ぐことができるはずなんです! ですから、どうか……」


 雪姫の声が、切なものに変わる。


「どうか、お願いします。私はここにいる訳にはゆきません。今すぐ氷室様のお屋敷に……みんなのところに、帰してください!」


 少女が叫ぶようにして思いをぶつける。必死になって()うも、一葉は取り合おうともせずに「できぬな」と冷たく一蹴(いっしゅう)した。


「あきらめろ。そのような話、誰が信じる? 急いでいるのは我々も同じ。大人しく従ってもらうぞ」


「そんな……」


 浮き上がっていた雪姫の身体が、力なく床に落ちる。

 座り込んでしまった少女であったが、自らを鼓舞するように首を振り、なおも食い下がった。


「私に不思議な力はありません。訓練したところで、扱えるようになるとも思えません。仮に奇跡が起きて扱えるようになったとしても、私一人の力では、大寒気を防ぎきれません。どうか、お考え直しください!」


「そう。お前一人の力だけでは無理だ。だが……」


 一葉は含みのある言い方をした。


「我々には秘密裏に進めてきた計画がある。氷姫の死を知っていて、ただ手を(こまね)いた訳ではない。災いを消滅させるため、呪物の研究と巫女達の育成を行ってきた。それらを用いて、白き闇に挑む。お前はその前線に立つのだ」


「呪物に、巫女……私が、前線……? よく、わかりません。だって、災いを消滅させるだなんて、そんなことできるわけ……」


「信じられぬか? だが事実だ。巫女達の霊力を統合し、さらに呪物を使って増幅させる。その呪物も研究と改良が重ねられ、精度もかなり上がった。氷姫の霊力を遥かに上回る結果が期待できる。元は霜白神宮の大巫女の力を軸に据えるつもりでいたが、お前の持つ力の方が使えそうだとわかり、ここに呼んだのだ」


 一葉は息を継ぎ、少女に対して満足げに語りかけた。


「どうだ? これで自分のすることがわかっただろう。訓練は明日の朝からだ。せいぜい今晩のうちに休んでおくんだな」


「そんな……無理です、だめです。どんなに計画が完璧であっても、あの存在を消すのは不可能です!」


 雪姫は否と首を振った。


「相手は氷之神様……霜白の土地神様なんですよっ? 次元が違いすぎます。消滅させるだなんて、人間には無理です。何より、そのようなこと、してはなりません!」


「まだそのようなことを申すか……!」


 一葉の(まと)う空気が、一気に(たかぶ)る。


「わからぬ奴だ。従わぬというのなら、武力でもって従わせるぞっ!」


「──そこまでだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ