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氷雪記  作者: ゐく
第三部
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第二十七章 白き闇 参

 雪姫達がやっとのことで坂道を登りきると、開けた場所に出た。

 ここは階段でいうところの踊場のような場所であった。道は一旦 途切れるが、奥の方にまた新しい坂道がある。

 しかし、ここにきて、全員言葉を失った。


(えっ……?)


 見開かれた雪姫の目に飛び込んできたのは、異様な光景であった。

 まっすぐに進んだ先。次の坂道から少し離れたところの山肌が、大きく凍りついていたのである。それも、水晶を思わせるような、透き通った中に白い濁りを(まだら)に含んだ氷の壁で覆われていた。


「ど、どういうこと?」


 幼夢が困惑に染まった声で佳月を振り返った。


「とにかく、行ってみよう」


 佳月は固唾(かたず)を呑み、先頭を切る。

 彼に続く形で、雪姫達は風に抵抗しつつ、警戒しながらおそるおそる近付いてゆく。


 傍まで寄ると、冬の匂いがした。吐息も(わず)かに白く(けぶ)る。


「な、何なんですっ、この寒さ! まるで冬ではありませんか!」


 身震いした早智乃が、山を登るにあたり持ってきていた羽織を真っ先に着込んだ。震えながら自身を抱いて、寒さに耐えようと撫で(さす)る。

 皆もそれぞれ羽織を着て温かくして備え、再び氷の壁と向き合った。


 氷は分厚く、巨大であった。

 その中央には、一文字(いちもんじ)を切るようにして大きな亀裂が入っており、そこから冷たい風が漏れている。

 不自然な風の正体は、確かにここにあるようであった。


 いったい、何が凍りついているのだろうか。雪姫達は確認しようと、白く濁った箇所を避けて透明な部分から覗き込み、目を()らして奥を探った。


「これって、洞窟……?」


「そうみたいだね」


 雪姫が曖昧な調子で呟くと、疾風がそう返してきた。


「調べてみましょう」


 粋の音頭で調査がはじまり、皆も口々に返事をして作業に移る。


(あら?)


 雪姫は目の端で一瞬、何かがきらりと光ったのを見た気がした。洞窟の方ではなく、氷の壁自体の内側である。

 さっそく確かめようと、表面に手を近付けた、その時──



 ……ユ……ミフユ……



 ひゅうひゅうと風に混じったような、風自体がしゃべっているような声がし、雪姫達は弾かれたように周囲を見回した。


 突如、亀裂から吹き出す冷気が強まり、地面も小刻みに震えだす。

 洞窟内からあふれ出す風は瞬く間に暴風へと変貌し、吹き飛ばされそうになる。全員その威力に圧されてよろよろと後退(あとじさ)った。が、壁からある程度の距離を置いたところで何とか必死の思いで抵抗し、踏みとどまる。


(いったい、何が起きているというの!)


 風に(あお)られ、ばたばたと衣がはためく。両腕で顔を被う形で受身を取っていた雪姫は、その隙間から目を薄く開いて、何が起きているのかを把握しようと努めた。


 氷の壁側では、入っていた亀裂とひびが少しずつ広がっていた。

 ピシリ、ピシリとそれらが進行する度に、雪姫の頭にもその音が直接響く。


(これって……!)


 雪姫は、はっとした。この感覚は、たしか以前にも体験したことがあった。

 何かが割れるような音で夢から飛び起きたこともあったし、山で雪姫だけがひびの入ったような音を聞いたこともあった。

 頭の中に直接響いてくるこの音は、目の前の巨大な氷と完全に同調していた。


(でも、どうして……)


 音の原因となるものがわかっても、なぜ感知できるのかまではわからない。動揺しているうちにも、亀裂とひびは進行する。


 亀裂は氷を上下に引き裂いてゆき、ひびは樹木が枝を広げるように縦横無尽に走り続ける。

 それらはやがて、行き着くところにまで達した。ついに、亀裂は氷の壁を分断し、ひびは全面にゆきわたる。


 不意に暴風と地震が静まり、その直後、洞窟内が閃光した。

 奥からあふれ出した力によって氷の壁が圧され、ミシッと嫌な音がたつ。すでにひびだらけのそれが、圧力に耐えきれるはずもなく。破裂するかのごとく、パァンと凄まじい音をたてて砕け散った。


「うわぁっ!」

「きゃあぁ!」


 全員、衝撃で弾き飛ばされ、破片と共に地面に叩きつけられる。

 雪姫は(したた)かに身体を打ち、その弾みで呼吸が一瞬止まった。地面に両手をついて上体を起こしながら、小さく(うめ)く。


「うぅ……」


 氷晶が砕け散ったのと同時に、雪姫の視界も白く飛び、頭の中は自身が粉砕されたのではと(まご)うほどの音が響いて(しび)れていた。

 ちかちかと瞬く視界と意識から徐々に回復し、現実に戻る。

 しかし、先ほどとは何かが一変してしまったのだと、何かの線を越えてしまったのだと悟り、胸がざわついた。


 雪姫は手をついたままの姿勢で、戦々恐々としながら垂れていた首を動かし、ゆっくりと顔を上げた。

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