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氷雪記  作者: ゐく
第三部
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第二十五章 合流 肆

「みんなにも紹介するわね」


 雪姫が、ひらりと(ひるがえ)した手のひらで疾風を指し示す。


「疾風は私の、若草での友達よ。私が札納めで若草へ行った時に、知り合ったの」


「へぇ、そうだったんだ。でも、こんなところで再会するだなんて、すごい偶然じゃない!」


(──ん? 疾風に、札納め?)


 言ってから、幼夢は以前にもどこかで聞いた気がして引っ掛かりを覚えた。が、とりあえず目の前の会話に意識を戻す。


「それが、わざわざ霜白まで私を追いかけてきてくれたみたいなの」


 雪姫は皆に詳しく話した。


「疾風が風見ヶ丘まで訪ねて来てくれた時にはもう、私が村を出てしまった後だったから……でも、うちの両親から霜白に行っていると聞いて、ここまで来てくれたの。私達も、ついさっき再会したばかりよ。さっき、私がここで待ち伏せしていた刺客に襲われそうになって、その時に助けてくれたのが疾風だったの」


「ええっ!」


 皆が一斉に驚き、叫ぶ。


「ちょ、ちょっと待って! 刺客が待ち伏せしてたのっ?」


 瞠目(どうもく)した幼夢が慌てて問い詰める。


「ええ。でも大丈夫。疾風があっという間に追い返してくれたから」


 ね? と雪姫が疾風を窺うように見上げると、彼も優しく目を細めてそれに応じてくれた。

 雪姫は再び皆に視線を移し、「見て」と、遠くに刺さっている刺客の短刀を指差した。


「向こうに、短刀が刺さっているのが見えるでしょう? あれがその時の跡よ」


「そう、だったんだ……」


 改めて雪姫の無事を深く感じたらしく、幼夢は声の調子を落とし、ゆっくりと息を吐き出すようにして呟いた。強張っていた緋色の肩から、力が抜けてゆく。

 

「これは、私達からもお礼を言わないと……だね」


 神妙な様子で幼夢が続けて礼の言葉を述べようとする。が、それを遮るようにして疾風が先に口を開いた。


「待ってくれ。実は、お礼を言ってもらえるような立場ではないんだ。というのも、霜白に来てから君達のことを、ずっと遠くからつけさせてもらっていたから……」


 告げられた内容に、またも皆が仰天した。


「はぁっ? ずっとって、嘘だろ……ぜんぜんそんな気配になんて、気付かなかったぞ……」


 佳月が愕然とするのも無理はなかった。彼自身、皇宮である程度の武術を仕込まれていたため、気配や殺気の(たぐ)いには敏感であった。しかし、過激派からの監視や刺客の気配にこそ気付けたが、疾風はその存在を一度たりとも悟らせなかったのである。

 疾風が忍びの頭領から教えを受けていたことを知らない佳月にとって、その能力は並外れており、衝撃であった。


「でも、どうしてまた……」


 早智乃が困惑しながらも尋ね、話の続きを促す。疾風もそれに素直に応じた。


「霜白に着いて、町で雪姫を見つけて、本当はすぐにでも声をかけたかった。でも、あまりにも監視の目が多かったから、もしかすると近いうちに危険な目に遭うかもしれないと思って。それで、隠れて様子を窺うことにしたんだ」


「なるほどな。いざって時に、助けに入れた方がいいって訳か」


 佳月が納得し、顎に手を当てて考える仕草をしてみせる。粋も「たしかに」と同意した。


「その選択は正しかったようですね。実際、こうして助けていただいたことですし」


「でも、後をつけるだなんて気分のいい話ではないだろう? だから理由がどうであれ、そのことは本当に申し訳なかったと思っている」


 疾風は苦しそうに眉を寄せ、目を伏せた。


「……なぁ、疾風だっけ」


 先ほどから何やら思案していた様子の佳月が、顔を上げ、疾風に声をかけた。


「あんたさ、雪姫の護衛として俺達と一緒に来れないか?」


「わぁっ! それ名案!」


 幼夢が胸の前で手を打ち合わせ、即座にはしゃいだ声で賛同する。


「いいですね。ずいぶんと腕が立つ方のようですし、これからのことを考えると、ぜひ仲間に欲しいところです」


「こう言っていますけれど、……いかかです?」


 早智乃の猫のような目が、ちらりといたずらっぽく少年を窺った。


 雪姫と疾風は顔を見合せ、微笑みあった。

 答えは、もう決まっていた。


「僕は、初めから雪姫を手伝うつもりで霜白まで来たんだ。だから断る理由なんてないよ」


 疾風は改めて姿勢を正し、毅然とした態度で皆を見据える。


「僕からもお願いだ。君達と一緒に、雪姫のことを守りながら、白き闇が起こる原因の調査をさせてほしい。共に、行かせてくれ」


「ああ、もちろんだ! これからよろしく頼むぜ、疾風!」


 さっそく佳月が満面の笑みで、引き締まった腕を真っ直ぐに伸ばし、握手を求める。


「俺は佳月」


 疾風は一瞬きょとんととしたが、次には嬉しそうな顔でそれに応じた。


「佳月か。よろしく頼む」

「粋です」

「私は幼夢。よろしくね、疾風!」

「早智乃と申します」


 次々に自己紹介がなされる。

 こうして疾風は仲間として快く迎え入れられたのであった。

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