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氷雪記  作者: ゐく
第三部
67/101

第二十五章 合流 参

「あっ、雪姫。君の仲間が来たみたいだよ」


 ほら、と疾風が森を仰ぐ。雪姫もそれに(なら)うと、間もなくして茂みを掻き分ける音が近づいてきた。

 自分達が立っていたところよりも少し離れた場所から、息を切らせた幼夢達が転がるように飛び出してくる。途端、雪姫から笑顔があふれ出した。


「みんなっ!」


 呼び掛けると、皆もこちらに気付いて歓喜の声をあげた。


「雪姫っ!」


 雪姫が遠目で見るかぎり、怪我をしている者はいないようであった。よかった、とひとまず安堵し、大きく手を振る。

 すると向こうも同じく手を振り返し、こちらへ走り出す。雪姫も待ちきれずに、自分からも駆け寄っていった。


「ゆっ……雪姫ぃーっ!」


 皆より一足先に飛び出た幼夢が、跳ねるようにして勢いよく雪姫に抱きついた。


「無事で……無事でよかったっ!」


 幼夢は少女の肩口に顔を埋め、ぐりぐりと強く押し付ける。かと思えば、今度は勢いよく顔を上げ、泣き笑いの相好(そうごう)で雪姫の両肩を掴んだ。


「怖かったでしょうっ? でも、もう大丈夫だからねっ!」


「幼夢、みんな……本当に、本当にありがとう! お陰で私はこのとおり、無事よ。みんなこそ大丈夫だった? 怪我とかしていない?」


 雪姫は改めて、怪我をしている者がいないかどうかを見回して確かめた。


「ああ。俺達は平気だ」


「刺客達も、しばらくしたらあきらめたみたいで、撤退していきました」


 佳月が頷き、粋も笑顔で答える。早智乃も無傷のようではあったが、どういうわけか不満そうに眉を吊り上げていた。


「え、ええと……早智乃?」


 おそるおそる尋ねる雪姫をよそに、当人は無言で佳月と粋の横から前に進み出る。そして大きく息を吸い込み────人差し指を突き付け、文句を爆発させた。


「ちょっと幼夢! あなた、いったい何時までそうしているおつもりっ? わたくしは、あなた以上に心配したんです! いい加減、そこをお退きなさい!」


「えぇーっ、やだぁー! まだ離れたくないもーん」


 緋色の少女が駄々っ子のようにいやいやと首を振って雪姫にしがみつく。

 退こうとしないので、(しび)れを切らせた早智乃が幼夢の襟首を掴まえて、無理やり剥がしにかかった。


「もうっ! おーどーきーなーさーいー!」


「やーだーもーんー!」


 まるで、子供同士のやり取りである。

 佳月と粋は、苦笑を浮かべた。


 ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人を見て、雪姫はせめてと思い、早智乃には手を握って感謝を伝えることにした。


「早智乃も……心配してくれて、ありがとう」


 雪姫は、短い言葉の中に精一杯気持ちを込めた。

 早智乃の場合、身体を動かすこと自体があまり得意でないはずである。にもかかわらず、頑張って幼夢や佳月の速度についてきてくれたのだ。それを思うと、彼女がどれほど雪姫に対して必死になってくれたのかがわかる。もちろんそれは、粋にも同じことがいえた。


「と、とりあえず、ご無事なようで何よりですっ」


 早智乃は(むく)れながらも、どこか照れたようにそっぽを向き、雪姫の手を握り返した。

 どうやら思いは届いたようである。雪姫が彼女の不器用さを愛しく思いながら微笑んでいると、


「ところで雪姫さん、そちらの方は?」


 落ち着いたのを見計らって、粋が疾風に水を向けた。眼鏡の奥で、不思議そうに瞳が瞬く。


 雪姫の隣で再会の一部始終をにこにこしながら見守っていた少年に、突如焦点が当たる。

 皆の視線が一斉に集り、疾風は一瞬きょとんとするも、すぐに持ち直して皆に挨拶した。


「初めまして。若草から来ました、疾風です」


「若草から?」


 幼夢も雪姫から離れ、その隣にいる少年を窺った。

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