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氷雪記  作者: ゐく
第三部
65/101

第二十五章 合流 壱

「……は、疾風───!」


「うん」


 一年前と変わらない笑顔。しかし、見た目という点において、彼は雪姫の知っている疾風とはまるで別人であった。

 あれほど長かった髪が短くなっているだけでなく、背丈も幾分か伸びていた。身体の線の細さは変わらずとも、以前の印象と比べて(たくま)しくなったように思える。声も心なしか低くなり、透き通るように白かった肌も、今はほどよく陽に焼けていた。

 もう巫女には間違えようがないほど、今はどこからどう見ても男性にしか見えないのであった。


「もうこの辺に怪しい奴はいないから、安心して。それに、僕もついているし」


 疾風は雪姫を落ち着かせるように微笑むと、続けて言った。


「ああいう後ろ暗い奴らは基本、短時間で仕事を終えなければならないんだ。だから上手く事が運ばなかった場合、適当に見切りをつけて勝手に退いてくれる。君の仲間も無事だよ」


「ほ、本当?」


 雪姫は思わず疾風を見上げた。


「うん」


 彼は自信たっぷりに返事すると、今度はおかしそうに笑った。


「忘れたの? 僕、これでも忍びの頭領から直々に稽古をつけてもらっていたんだけど?」


 そう言い、身体を少し屈ませて、からかうように雪姫の瞳を覗き込む。


 思い至った雪姫は、あっと小さく声をあげ、口許に手をやった。

 なるほど、納得である。たしかに、こういうことに関していえば疾風はある意味専門家なのだ。


「そ、そうよね」


「まぁ、雪姫としては森まで仲間のことを迎えに行きたいところだろうけどね」


 疾風は苦笑し、肩を(すく)める。


「でも、逃がしてくれたことを思うと、さすがにそれは(はばか)られるし……だから、もし雪姫が一刻も早く仲間の無事を確認したいのなら、ここでみんなが降りてくるのを待っているのが一番かな」


 疾風が笑いかけ、どうする? とでもいうように、小さく首を傾げてみせる。

 差し出された思いもよらぬ申し出に、雪姫は感極まり、舞い上がった。疾風が一緒にいてくれるというのなら、心強いし安心もできる。

 雪姫は胸の前で手を握りあ合わせると、勢いよく答えた。


「私、ここにいるわ! ここでみんなを待っていてもいい?」


「もちろん!」


 身を乗り出して頬を上気させる少女に向かって、疾風は快く頷いてみせた。







 襲いくる刺客から道を拓き、雪姫を逃がしたあと。森では、佳月達が彼女を追おうとする者達をこの場に留めるべく、必死の抵抗を続けていた。


 佳月の予想していたとおり、こちらが他国皇家の人間とあっては敵も手を出しづらいらしく、ひどく(いら)ついているようであった。

 刺客達は手加減を強いられ、上手いこと動けない。佳月達はそこを突き、人数では圧倒的に不利だった状況を(しの)いでいた。今のところ健闘の甲斐もあり、何とか一人の刺客も森への侵入を許さずにいる。


 しばらく攻防が続いたが、突如、佳月と打ち合っていた刺客が悔しげに舌を鳴らして下がった。仲間に顎をしゃくって合図すると、それを機に覆面の男達は雪姫を逃がしたのとは反対側の森に撤退してゆく。

 気絶している者や肩が外れて動けなくなった者まで回収しているところを見るに、今回はあきらめてくれたようであった。佳月は、ほっと胸を撫で下ろし、肩で息をしながら皆の様子を確認すべく振り返った。


「大丈夫だったか!」


「うーん、私は平気ぃ」


 疲労と安堵の入り混じった、絞まりのない口調であった。近くにいた幼夢が、脱力した様子で膝に手をつき、ひらひらと手を振って合図を送ってきた。


「早智乃と粋も無事みたいだな」


「え、ええ。何とか……」


「はい。僕達もどうにか無傷、です」


 佳月が幼夢の奥にいた早智乃と粋に目を向けると、二人は敵が退いたことで緊張が解けたのか、互いに背中を預け、寄りかかりながら地面に座り込んでいた。


「敵も退いたし、これで一安心…………じゃなかったっ!」


 幼夢が突如身体を起こし、焦りの声をあげる。


「そ、そうよ! こうしちゃいられない! 早く雪姫を追いかけないと!」


 敵の足止めには成功したが、肝心の雪姫が無事でなければ意味がないのである。

 佳月もすぐさま頷いた。


「そうだな。俺達も急いで山を下るぞ!」

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