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氷雪記  作者: ゐく
第三部
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第二十二章 新たな決意

 暗くなった霜白の町に、明かりがぽつぽつと灯りはじめる。石畳の通りには、握った手を楽しげに揺らす三人の影が落ちている。


 雪姫は幼夢と早智乃の二人に手を繋がれながら、人気(ひとけ)の少なくなりだした通り進んでいた。

 その表情は明るく、晴れやかであった。もう大きく息を吸い込んでも、すすり上げることはない。


 心の中で、先ほどのことを振り返る。

 道のど真ん中で、雪姫は人目も(はばか)らずにわんわん泣いた。いい歳して、鼻水まで垂らして、盛大に泣いたのである。羞恥を通り越して、むしろ清々しい。

 あまりにも派手にやらかしたので、見ていた側も気持ちよかったのであろう。雪姫が泣き止んだあとは皆で笑い、じゃれ合って()みくちゃになりながらまた一緒に笑った。


 それから皆は屋敷までの道を、わざわざ遠回りしてくれた。お陰で、泣き腫らした目は落ち着きを取り戻しつつある。



「僕達だけ仲間外れなんですかー? そろそろ仲間に入れてくださいよ~!」


 後方を歩いていた粋が、悪戯(いたずら)ぽく抗議する。早智乃が肩越しに、つんと鼻を高く上げてそれに応じた。


「五人で横一列に並んで歩いたりしたら、通行の邪魔です。我慢なさい」


 ()め出しである。

 ここでまた笑いが起こった。雪姫も笑った。


 さっきからずっとこんな調子が続いている。


 不思議であった。散々泣いて、溜め込んだ感情を出しきったからだろうか。さらに、たくさん笑ったからだろうか。絶望的な状況であることに何ら変わりはないというのに、思考の方はすっかり前向きに変わっていた。


 氷姫はいない。けれど、あきらめない。


 きっと、何か別の手立てを考えてみせよう。最期まで白き闇に抗うと誓おう。今なら。今の雪姫ならば、自身を奮い起こし、もう一度立ち上がることができる。


(大丈夫、私は──)



 まだやれる。まだ、頑張れる。



 疾風が涙をくれたのだから。

 こうして涙を受け止めてくれる、仲間がいてくれるのだから。

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