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氷雪記  作者: ゐく
第三部
57/101

第二十一章 知らせ 壱

 霜白の町では、御所の前に出された触れ書きに人集りができていた。しかし、今の雪姫にとっては、どうでもよいことであった。


 横目で見て、流して終わる。


 それどころではなかった。氷姫が亡くなっていたのである。それも、白き闇を防いだ際に、この土地で。百年も前に……


 人は、絶望すると茫然としてしまうものらしい。考えなくてはならないことは山ほどあるはずであるのに、頭が上手く回らない。あの時、粋が屋敷に戻ろうと言ってくれなければ、雪姫はまだ石碑の前に立ち尽くしていたのかもしれなかった。

 帰り道の記憶もない。誰も何もしゃべらず、それぞれが心の内に()もっているらしかった。


「若草の皇子が、亡くなったんだとさ」


(──えっ?)


 どきりと雪姫の心臓が跳ね上がる。思わず振り返ってしまった。

 傍を通り過ぎてゆく人達から聞こえてきた言葉で、思考が一気に覚醒する。


「なんでも病死らしいぞ」


「でも、何の病で亡くなったんだ?」


「さあな。あれには、病で亡くなったとしか……」


 “亡くなった”、“病死”。次々と聞こえてくる不吉な言葉に、少女の胸が早鐘を打ちはじめる。いてもたってもいられなくなり、人集りの方へと駆け出した。


「えっ! ちょっと、雪姫っ?」


 焦りのせいで、仲間の呼びかけも耳には入らなかった。雪姫は押されながらも、なんとか群がる人々の合間をかき分け、最前列に出る。

 記事はいくつかあったが、見出しのお陰ですぐにわかった。



『若草では皇子である疾風様が病によってご逝去(せいきょ)されたと報じられた。朝廷では皇位継承権についての法律が改正済みだったことから、帝の第一子である皇女の沙鳥(さとり)様が次の世継ぎになると発表している。』



 雪姫は息を呑んだ。

 信じられない。信じられるわけがない。


(うそ……)


 しかし、何度読み返してみても、触れ書きの内容が変わることはなかった。


 疾風が死んだ。

 愕然とした。ただその場に立ち尽くすだけの雪姫から、周囲のざわめきが遠ざかってゆく。


(ううん、違う……これはきっと、病死なんかじゃない)


 それは、確信といってもよかった。一年前の、疾風との会話が思い出される。



 ──叔父上は僕が怖いんだ。次に皇位を継げるのは、僕だけだから──



 離宮へ追いやられ、常に命の危険に(さら)されていた疾風。


(これは、暗殺だわ……!)


 雪姫は奥歯をきつく噛みしめ、弾かれたように人集りから抜け出した。

 おそらく帝は、病で亡くなったということにしておいた方が都合がよかったのであろう。何者かによって疾風が殺されたとすれば、真っ先に疑いがかかるのは目に見えている。


(疾風のバカ! 約束したじゃない。生きて、いつか風見ヶ丘に来てって。私に逢いに来てって。絶対に、約束よって……)


 あの時、お守りとしてわたした護身刀も、結局は役に立たなかった。

 結局、疾風は殺されてしまった。


 熱くなった目から、ぽたりと涙がこぼれ落ちる。一度筋ができ上がってしまったら、あとはそれを伝って、さらさらと流れてゆく。

 鼻の奥がつんとして痛い。走りながら、雪姫は声を押し殺して泣いた。

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