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氷雪記  作者: ゐく
第二部
46/101

第十七章 霜白にて 伍

「氷姫捜しを?」


「はい」


 雪姫が聞き返すと、粋は元気よく(うなず)いた。


「僕、こう見えても学者なんです。ついこの前まで清晏先生と協力して、氷姫について調べていたんですよ。幼夢さんと佳月さんが氷姫捜しをしていると聞きつけて、何かお手伝いできることはないかと思いまして。それを先生に相談してみたところ、雪姫さんの力になってあげてほしいと頼まれたんです」


「そうだったのですか……! わざわさありがとうございます」


 おそらく粋は雪姫よりも年下であろう。しかし、相手は学者である。つい格式ばった話し方になってしまった。横で成り行きを見守っていた幼夢が、手をひらひらと振って笑いだした。


「あはは。雪姫ってば、堅い堅い」


 ところが、途中で何かに気付いたらしく、「あれっ?」と首を傾げた。


「でも、何だかおかしくない? 粋は付き人として早智乃について来たはずでしょう?」


「それなんですが、実は早智乃様が僕と先生の話を立ち聞き……」


 答えようとする粋を、早智乃が間髪入れずに()め付けた。少年が(ひる)んだ隙を突き、話を遮る。


「あーら、幼夢。おかしいところなんて、ないではありませんか」


 そう言って、早智乃は芝居ががった大きな身振りで演説した。


「わたくしも、ちょうど霜白へ行こうと思っていたところでしたし? 粋が霜白へ行くというのなら、ついでですもの。乳姉弟(きょうだい)のよしみで、付き人にして連れてきて差し上げたんです」


 そして、感謝しなさいとばかりにふんぞり返った。


「本当にびっくりしたんですから。出発の朝、突然現れ……」

「お黙りなさい」


 何事もなかったかのように話を戻そうとした粋を、再び早智乃が睨みつける。

 粋はすごすごと口を(つぐ)んだ。が、しかし、今の情報だけで大体の察しはついた。


「……素直についてきたって言えばいいのに」


「だ、だから違うと言っていますでしょう!」


 幼夢がぼそりと呟けば、それに早智乃が噛みついてきた。


「まあまあ、抑えて抑えて」


「そうそう、抑えて抑えて~」


「あ、あなたのせいですっ!」


 佳月も(なだ)めに入るが、横から幼夢が火に油を注いでしまったがために三者は入り乱れた。道を往来する者達の、好奇の目にますます晒されることとなる。


 やかましく喚いている(かたわ)らで、粋が苦笑した。


「とにかく、僕達にもお手伝いさせてください。よろしくお願いします」


「いえ、助かります。こちらこそ、よろしくお願いします」


 こうして、新たに早智乃と粋が氷姫捜しの仲間に加わったのであった。





 一行は氷室の屋敷に到着した。

 なんと、早智乃と粋は水澄から遠路はるばる幼夢達のことを追いかけてきただけでなく、氷室のもとで世話になる手筈(てはず)まで整えていた。

 雪姫は屋敷までの道すがら、話を聞く中で粋の母親が早智乃の乳母(めのと)であり、二人は二歳差の乳姉弟(きょうだい)であるのだと知った。さらに皇家同士の繋がりで、幼夢や早智乃ら四人は昔から馴染みが深いのだという。


「で、どうなんです? そちらのご様子は」


 雪姫達は、佳月ら男性陣のために宛てがわれた部屋に集まり、夕食を取りながら今後の打ち合わせをはじめた。


「お手上げ状態。あとはもう、村に行ってみるしかないわねぇ」


 幼夢が深い溜め息をつき、肩を(すく)めてみせる。


 現在、雪姫の隣に幼夢、その隣に佳月、早智乃、粋と続いて輪になって座っている。まだ会ったばかりで慣れていないというせいもあるが、人当たりのよい粋に対し、早智乃は取っ付きにくいところがあった。ゆえに真正面という訳ではないが、それに近い位置に座る早智乃が雪姫にとってはちょっとした恐怖となっていた。


「なぁ粋、清晏先生が言ってた氷姫が役職だって話、調べは進んでいるのか?」


「いいえ、それがまったく。一番有力な説ではありますが、あくまで仮説ですし……証拠となる資料も証言もないのが現実です」


「思えば、手掛かりがほとんどない中で人捜しって、無謀すぎるよなぁ」


 佳月のぼやきを受けて、早智乃も白い眉間に皺を寄せた。


「これだけ捜しても見つからないでいるなんて……もし隠れているのだとしたら、(たち)が悪すぎますね」


「何かあったのかもよ? 事故に巻き込まれているとか、身動きが取れないでいるだとか。あとは出てこられない理由があるのかもしれないし……ほら、記憶喪失とか!」


「それ、物語の読み過ぎだろ」


「えーっ!」


 すかさず入った佳月のツッコミに、幼夢が不服そうに唇を(とが)らせる。


 幼夢の言う記憶喪失というのは少々現実味が薄い気もする。が、一理あった。たくさんの人がこれだけ捜しても見つけられないというのは、やはりおかしい。これはもう意図的に隠れているか、出て来られない理由があるか。そのどちらかしかないように思われた。


 雪姫の思考が途切れ、ふと値踏みするような視線を向けられていたことに気が付いた。早智乃と目が合い、どきりとする。


「雪姫。あなた、氷姫と同じ血を引いているのでしょう? 本当に霊力はまったく持っていらっしゃらないの?」


「は、はい。母もまったく持っていませんでした。それに、風見ヶ丘でも大巫女のお婆様から声をかけられることも、(つい)ぞありませんでした」


 霊力は親から子へ遺伝する可能性が高い。しかし、咲雪だけでなく白峰にも霊力は備わっていなかった。あとは本人自身が持って生まれるか、途中で開花するかである。しかし開花の場合はその時点で本人なり村の大巫女なり、霊力のある者が気付くはずなのだ。そして十七歳になった時点で開花する可能性がほとんどないに等しくなるため、すでに十七歳を迎えてしまっている雪姫にはその線も(つい)えてしまっていた。

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