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氷雪記  作者: ゐく
第二部
43/101

第十七章 霜白にて 弐

 山を越え、平野を進み、ようやく雪姫達三人は霜白の地を踏んだ。

 一週間の旅の末にたどり着いた北国の主都は、若草や水澄と大きく異なり、山の斜面から裾野(すその)にかけて国が設けられていた。独特の形で繁栄する国の様子を、坂の(いただき)に建てられた皇宮が見下ろしている。


 (ふもと)の食事処で足を休めた雪姫達は、次に清晏の助言に従って氷室の屋敷を目指すことになった。その、道中。


「雪姫様……?」


 名を呼ばれたような気がして振り向けば、なんとそこにいたのは風見ヶ丘までやってきた使いの者であった。


「雪姫様ではありませんか! どうしてここに!」


 使いが慌てて馬から下りる。まさか雪姫が霜白にいるとは思ってもみなかったらしく、ひどく驚いていた。


「──って、駄目です! まずすぎます!」


 たっぷり三拍置き、今度は慌てて雪姫達を道端に連れ出すと、周りを気にしながらできるだけ声を小にして訴える。


「あなたが霜矢様の子孫であると過激派の人間にばれたりしたら、命を取られたとしても文句は言えませんよ……!」


「あ……あの、落ち着いてください。私達、それを承知でここまできたんです」


「え?」


 半ば取り乱し気味の使いを(なだ)めれば、彼は先ほどよりもさらに大きく目を見開いた。雪姫は、霜白まで来るに至った経緯を話して聞かせた。




「それにしても、よくぞご決断なされましたね」


 氷室の屋敷まで案内してくれるという彼の後ろに続き、歩き出した直後。ここまで来たことに対して感嘆(かんたん)の言葉をかけられ、雪姫はどきりとした。


「いえ、他に手立ても思い浮かびませんでしたし……」


 雪姫は咄嗟(とっさ)に曖昧な返事をしてごまかすが、なんとも気まずかった。命懸けで氷姫を捜しにきたと言えば聞こえはよいが、実際は何もできないでいることに耐えきれず、こちらの道を選んだだけにすぎない。危険だということも、おそらく本当の意味では理解などできていないのだ。良くも悪くも、無知で無鉄砲であるがゆえに選べてしまった、ただそれだけ。だから、違う気がした。結局は皆のためでなく自分のためで、褒められるような要素など一切ない。感心される分には動機が不純すぎて、照れといった感情よりも後ろめたさが(つの)る。


 次は何と言われるのだろうと雪姫が身構えていると、予想に反して彼は話題を移した。


「ご存知のとおり、霜白は次期皇位継承権を巡って荒れています。民衆も、過激派でも国をよく知る一葉様か、堅実でも突然外部より戻ってこられた得体の知れない氷室様か、どちらを支持すべきか迷っているようです」


「宮中はどうなんだ?」

「宮中はどうなの?」


 ぼーっと話を聞くだけであった雪姫に代わり、横から幼夢と佳月が重要な部分に切り込んだ。


「……って、内部のことをそんなに軽々しく喋れるわけないか」


 口にしてから気付いたようで、佳月が苦笑する。隣の幼夢も失念していたらしく、「あ、そっか。そうよね」と声を漏らした。


 馬を引きながら前を歩いていた使いの肩が、微かに揺れる。どうやら笑っているらしい。


「民も皆知っていることですし、よいでしょう。この際ですからお話します。勢力としては、だいたい半々です。そのせいで、勝敗がつき辛くなっていたりします」


「へぇ。急に戻ってきたっていうから劣勢なのかと思ってたけど、意外と支持者は多いんだな、氷室様って」


 腕を組み、関心した様子で佳月が誰にともなく呟いた。


「氷室様と関わった者ならば、彼がどれほど優れたお方か、よくわかりますから」


 先導する使いは時々しか振り返らないため、表情はよく見えない。が、その声色から氷室への信頼が十分に感じ取れた。

 清晏も推すほどの人物である。いったい、どのような人なのだろうか。


 しばらくすると長い板塀が現れ、前方に門が見えきた。屋敷の入り口で、使いがくるりと向き直る。


「さぁ、着きましたよ。こちらが氷室様のお屋敷です」

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