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氷雪記  作者: ゐく
第二部
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第十一章 模索 壱

 雪姫達は予想していたとおり、日の高いうちに水澄(みすみ)に到着することができた。

 道中、雪姫が暑さのため倒れてしまうという事件が起きたが、それを除けば旅は順調に進んでいた。


 宿を押さえ、三人はさっそく学舎へ足を向ける。


(大きいわ……)


 若草の御所以外で大きな建物を初めて目にした雪姫は、思わず目を見開き、口をぽかんと開けたまま門の前で立ち止まった。


 水澄の学舎は都の西側に位置している。その敷地は西側のほとんどを占めるほど広大で、学問に力を入れている国というだけあって、建物自体も重厚かつ堅牢(けんろう)な造りをしていた。


「どうかした?」


「ううん、なんでもないの」


 さすがは皇家の人間というべきか。見馴れているのであろう。これだけ大きなものを見ても、幼夢は気にも留めていない様子である。

 なんとなく田舎者丸出しでいることに恥ずかしさを覚えた雪姫は、慌てて返事をし、二人の後に続いた。


 門をくぐれば、学生達が敷地内を行き交っていた。

 ここは各地から様々な人が募り、日々教育や研究が行われている場所である。

 霜白の使いから聞いた話によると、清晏(せいあん)という名の歴史学者がここで他の研究者から話を聞いたり、所蔵の資料を調べるなどして氷姫についての調査を独自に進めている、とのことであった。


 門のすぐ傍にある受付で清晏のことについて尋ねてみると、今は出払っていると言われてしまった。てっきり舎内にこもっているものとばかり思っていたが、不在であった。いつ戻ってくるのかも不明だという。


 どうやら最近、水澄でも白き闇が近づいているとの予言があったらしい。そのため、水澄の帝が彼に皇宮への出入りと書庫にある資料の閲覧を特別に許可したのだそうだ。


「困ったわね。先生が帰ってくるまで、ここで待つしかないかしら……」


 雪姫が途方に暮れていると、幼夢が緋色の袖と紺の袴の裾をふわりと舞わせ、自信に満ちた顔でこちらに振り返る。


「あら、それよりいい方法があるわ」


「そうだな。そっちの方が手っ取り早いし」


 佳月も納得するが、またもや雪姫だけが置いてけぼりをくらってしまった。目を(しばたた)かせていると、佳月は得意気に笑い、親指を立ててみせる。


「俺達が皇宮に行って、直接清晏先生に会えばいいんだよ」


 そしていとも簡単に、その言葉を言ってのけたのであった。




 水澄の御所も、若草と同様に目抜き通りをまっすぐ進んだ先にあった。

 立ち並ぶ店といい、人混みといい、やはり都会である。水澄の町の様子は一年前の若草の姿を彷彿(ほうふつ)させ、込み上がる懐かしさに雪姫の胸は高鳴った。


 御所は山を背景に、仁王立ちするかのごとく三人を待ち構えていた。

 建物の基本的な構造は先ほどの学舎と似ているが、屋根の裏側や柱の上部には龍や波の彫刻が施されており、見る者を圧倒させる造りとなっていた。施された技が確かな腕を持った職人の手によるものであるということ、そしてこの建物が特別なものであるということは、誰の目にも明らかであった。


(やっぱり、大きいわ……)


 薄々気が付いてはいたのだが、やはり若草の御所の門よりも豪華で大きかった。雪姫は門前で先ほどよりも大きく目を見開き、立ち止まる。

 その隣で、幼夢が懐からちょうど手のひらに収まるぐらいの何かを取り出した。


「こちらに清晏先生がいらしていると聞いたのだけれど、会わせていただけないかしら」


 そう言って門番に漆塗(うるしぬ)りの札を見せる。

 門番は、ぎょっとした。


 札の中央には、円の中に鳳凰(ほうおう)意匠(いしょう)を配した緋那皇家の紋章が記されていた。(こま)やかな螺鈿(らでん)と金の蒔絵(まきえ)が、本物意外の何物でもないことを示していた。


「しょ、少々お待ちくださいっ!」


 顔からすっかり血の気を引かせた門番は、声を裏返しながら転がるようにして中の者を呼びに走った。

 間もなくして出てきた役人よって、三人は丁重な扱いと共に皇宮の中へと招かれる。


 役人は、雪姫一人ならば確実に迷うであろう長く複雑な廊下を、右に曲がり左に曲がり……馴れた様子で奥に向かって進んでいった。

 その際、擦れ違い様に明らかに位の高そうな役人達が歩みを止め、一行に対して(こうべ)を垂らした。

 幼夢と佳月の二人は皇家の人間ということもあり、この対応は当たり前といえば当たり前なのだが。雪姫の方は、すっかり怖じ気づいてしまった。

 改めて自分が途轍(とてつ)もない人達と氷姫捜しをするのだと認識させられるのと共に、皇宮に仕えている役人が成り行きとはいえ、単なる庶民にも頭を下げているというこの構図に違和感を覚えずにはいられなかった。

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