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むかしむかし。あるところに、「氷」という名の美しく、心優しいお姫様が住んでいました。
お姫様は、皆から氷姫と呼ばれていました。
しかし、氷姫は普通の人とは違っていました。
それは、生まれつき強い霊力と、雪のような白い肌と、輝く銀色の髪を持っていたからでした。そしていつまでも年を取らず、ずっと若い娘の姿でいられたからでした。
人々は氷姫のことを“生き神様だ”と言って崇めていました。
ある日のことです。氷姫は夢を見ました。それは予知夢でした。
もうすぐ夏になろうという頃なのに、霜が降りてくる夢です。
寒さを呼ぶ災いの霜が降り、そのせいで村や町は凍りつき、目も開けられないほどの激しい吹雪が何日も何日も続くという、とても恐ろしい夢でした。
なぜそのようなことが起こるのかは、わかりません。しかし、氷姫には強い霊力があります。災いの霜が降りる時、氷姫は霊力を使ってそれを防ぎ、国の人々を救ったのでした。
ところが、この災いの霜は再びやってきました。
今度は遠くの国に霜が降りるという夢を見た氷姫は、その国の人々を助けに行こうとしました。でも、皇宮を出ることを許してはもらえませんでした。それどろか、閉じ込められてしまったのです。
そうしているうちに、遠くの国に災いの霜が降り、村や町に吹雪が襲いかかりました。
その国は雪と氷で閉ざされ、逃げ遅れたたくさんの人達が凍えて死んでしまったのでした。
吹雪が止むまでは、誰もその国に近づくことはできなかったそうです。
噂は、たちまち他の国にも広がりました。そして災いの霜は「白き闇」と呼ばれ、恐れられるようになりました。
氷姫は泣きくずれました。無理にでも皇宮を出ていれば、多くの命を救えたはずです。
深く後悔した氷姫は、皇女という地位を捨て、皇宮を出ることを決心しました。
追ってくるたくさんの兵士たちも霊力を使って追い返し、なんとか外に出ることに成功した氷姫は、そのあと、たった一人でいろいろな国を旅してまわりました。
そして、その後もたびだびやってくる白き闇に誰よりも早く気付き、すぐにその場に駆け付け、人々を守りました。
お陰で、もう二度と白き闇のせいで村や町が猛吹雪に襲われることは、なくなったのでした。
これは、遠い遠い昔のお話です。
風見ヶ丘に雪姫という名の女の子が生まれるより、ずっとずっと昔のお話……