この学校、私が造ったんですけど!?
新しくファンタジー長編を書こうと思い、世界観を固めるための習作です。
続けば三十話、短ければ十五話くらいで終わらそうと思ってます。
神殺しの少女、トート。
それは七柱の最後の神、水神を殺し、水の理を盗んだ大罪人。
この惑星、タ・ネチェル史上最悪の魔女と呼ばれ、それと同時に最強の魔術師の一人にも数えられる。
しかし意外なことに、タ・ネチェルの人々に、彼女に対する憎悪はあまりない。
それは彼女が、水の理を盗んだ際、それと同時にそれを放棄したからである。
それにより、この惑星の水は自由となり、世界に初めての雨が降った。
一部の人々は、彼女のことを解放者と呼び、崇めるものもいる。
だがそれも、はるか昔の話。
世界に初めての雨が降ってからおよそ500年。
人々にとって雨とは当たり前のものとなり、かつて水が神のものだったことを知るものは少ない。
すると当然、かつて神を殺した少女のことを知る人は少なくなってくる。
そう、500年とは人がかつての歴史を忘れるのに、十分な時間なのだ――
◆◆◆
「――はぁ!?お前、今なんて言った?」
中央大陸最大の魔法都市国家、ヘカニコス。
その中心に、世界最高峰の魔法学校、ペル・アンク魔法学院はある。
今からおよそ300年前。
当時の最高の魔術師たちが集まり、ヘカニコスは造られた。
そして彼らは、次世代の魔術師たちを育成するため、ペル・アンク魔法学院を設立した。
荘厳な”銀雪の宮殿”と呼ばれる美しいその校舎からは、数多くの優秀な魔術師が卒業してきた。
各国の宮廷魔術師の大半が、この魔法学院の出身だと言えば、そのすごさが分かるだろう。
歴史、品位、そしてその高いレベルを兼ね備えたペル・アンク魔法学院は、創立から300年、世界最高の魔法学校の地位を揺るがないものとしている。
そんな歴史ある魔法学院の校長室。
その中から、とても似つかわしくない怒号が聞こえてきた。
部屋の中には白いワンピースを着た青髪の少女と、魔法使いのローブを着た髪の薄い老人。
老人の座る立派な執務机を挟み、少女は今にも掴みかからんと言った様子で、老人に詰め寄っていた。
「お前、正気か!?誰に向かってその口を聞いてるんだと言ってんだ!!」
とても品の無い口調である。
見た目が可憐な少女なだけに、とても残念だ。
「まあ落ちつてくださいよ、師匠。別になんの考えもなしに言ってるわけじゃないんですから」
激怒している少女に対し、老人は落ち着いた様子でそう返す。
掛けている眼鏡の奥では、優しな目が細められている。
「考えてこれを言ってるのなら、お前の頭はついにお終いだな。私はお前の介護なんて絶対にしないからな!」
なお怒り冷めやらぬ様子で、少女はそう吐き捨てる。
「大丈夫です。私には子供も孫も居ますし、それにまだ頭の方は平気ですよ」
「じゃあ、なおさらだ。お前は正気で、こんな戯言を口にしたわけだ。お前はもう少し賢いと思っていたが、師匠に対してこんな馬鹿なを言う程度には、残念なオツムだったってことだな」
トゲのような言葉が老人を襲う。
しかし老人はと言うと、特に気にする様子もなくニコニコとしている。
「別におかしなことでは無いじゃないですか。師匠はいつもゴロゴロと暇そうにしてるので、暇つぶしにちょうどいいと思ったのですがね」
机に置かれたお茶を手に取り、別になんとでも無いとでも言うようにすする。
その様子を見て、少女はダンッと両手を机に突いた。
「……だからと言って、なんで私がこの学院に入学しないといけないんだ!!この魔法学院は私が造ったのだと、忘れたのか!?」
彼女がそう言うと同時に、室内に風が吹き荒れる。
それは嵐のように部屋の中の書類やらなんやらを吹き飛ばし、その一つが老人の顔に張り付く。
彼はそれを引っ剥がしながら、落ち着いた様子で言った。
「もちろん覚えてますよ、トート師匠」
◆◆◆
散らかった部屋の中で向かい合う二人。
向かい合うという行為は様々な意味がある。
これが二人の若い男女だったらロマンチックなのだろうが、残念ながら部屋の中にいるのは老人とブチギレている少女だけだった。
「……このバカ弟子、私をそんなに怒らすなよ。お前は私の嫌いなものを忘れたわけじゃないよな?」
「えぇ、もちろん覚えてますよ。師匠が人混みを大嫌いなことぐらい」
「じゃあこれは嫌がらせか?私が魔法を教えてやったから、今の地位があることを忘れたのか?」
「別にそういう訳でも無いのですが……」
老人の名前はラザフォード・ノクティルカ・フェンバード。
ペル・アンク魔法学院の78代目の校長であり、この魔法国家ヘカニコスの中でも有数の権力者の一人である。
若い頃は魔術師の最高峰、七聖の一人に数えられ、老いた今でも、世界で十本の指に収まる実力者だ。
「まあ、いいじゃないですか。師匠、いつも暇そうですし」
「うっ……別に暇じゃないし……」
飄々とそう言うラザフォードに、トートは痛いところ突かれたようだ。
「はて、おかしいですね。私が貴方様の弟子になってから五十年、私はあなたが働いているところを見たことがありませんが?」
確かに、トートは普段働いていない。
何なら、ここ三百年前働いたことがない。
学院の、魔境と呼ばれる部屋に引きこもり、ダラダラとするのが日課だ。
ちなみに食事は、夜に学食をつまみ食いしに行っている。
「……すごいぞ、ラザフォード。ペル・アンクの三百年の歴史の中で、それを私に面と向かって言った校長はお前が初めてだ」
「それは、光栄なことで」
「褒めてない」
トートは諦めたように額に手を当てると、ふらふらと歩いて、ソファにどかっと座った。
「まあいい。確かに私は毎日をダラダラとしているように見えるかもしれない。だが私は部屋にこもりつつも魔術の研究をしているんだよ。別に無駄な時間を過ごしているわけじゃぁ無い」
トートはそう言うと、無詠唱で右手に炎を生み出してみせる。
しかし、ラザフォードはそれを気にもとめず、トートに聞く。
「ふむ、魔術の研究ですか。ところで師匠は結界術や、念魔術は使えますか?」
「けっかいじゅつ?ねんまほう?ナニソレ」
魔術の研究をしていると言った割には、中々無知なことである。
「ここ十数年で生まれた魔法ですよ。単純に言えば、攻撃を防いだり物を操ったりする魔術です」
「壁みたいなものを作る魔術か。そんな物、水で地面ごとえぐり取ってしまえばいい。それか、地獄の業火で焼いてやるのも手だな」
「……そうして生まれたのがガラスの荒れ地ですか。荘厳だったと聞く水の神殿が見るも無惨な姿に……。やはり師匠は脳筋が目立ちますね」
「のうきん?それは何だ、また新しい魔術か?」
「別に、気にしないでください」
ラザフォードは口に紅茶を運びながら、そう答える。
その姿を、トートはつまらなさそうに見ていた。
「とにかく、師匠の魔術がすごいのは認めてますが、何分時代遅れが目立つのです。地と炎の2属性の時代なんて、それは古代魔法ですよ、もう。今は魔術の時代なんです」
「……それで、お前は何が言いたい」
「時代に追いつきましょうと言う話です」
ラザフォードはそう言うと、立ち上がって窓の外を眺める。
一方のトートはというと、ソファにぐでーっと座ってつまらなさそうにしている。
「魔術の世界は日進月歩。師匠はエルフなので感覚が薄いかもしれませんが、十年経てば魔術の体系は大きく代わります。そんな中、三百年前の古代魔法を使っているなんて、魔女としてどうなんですか?」
ここ百年ほどで、「魔素」に関する技術は飛躍的に向上した。
その結果、自然現象がメインの魔法から、結界や念魔術といった自然に存在しない現象を起こす魔術へと進化を遂げたのだ。
だがしかし、ここ三百年ほど引きこもっていたトートに、その知識はない。
結果、時代遅れの魔法を自慢気に使うぐーたらエルフ魔女が誕生したのである。
「……お前は私に時代遅れと言いたいのか?」
「はい」
そう即答するラザフォードに、トートは絶句する。
まさか自らが育てた弟子に、このようなことを言われるとは。
大体、ラザフォードが校長になれたのだって、トートの教えた魔法のおかげ――
「――待て。お前の二つ名って何だ?」
トートは、ふと嫌な予感がして、そう聞いた。
「私の二つ名?〈古代の魔導王〉ですが」
「古代……」
ラザフォードの答えを聞き、トートは更に絶句する。
まさか弟子の二つ名にそんな名前がついていようとは。
もはや世間から、自分が時代遅れだと言われているようなものである。
「……分かったよ。たまには魔術とやらの研究もしてみよう。だが、なぜそれが学院に通うことに繋がるんだ?」
トートは自分が時代遅れであることを認めたが、同時になぜ自分が造った学校に入学しなければ行けないのか疑問に思った。
しかし、ラザフォードは再び席につくと、優雅に紅茶をすすりながら、なんとでも無いことのように言った。
「まあ、別にいいじゃないですか。うちは四年制ですし、エルフの師匠にとっては短い期間でしょう。それに、師匠はもう少し人と関わったほうがいいですよ」
「答えになってない」
この弟子は昔からこうだ。
物事の核心を突こうとすると、こうやってのらりくらりと逃げるのだ。
昔、試験で赤点を取ったときも、こんな風に逃げられて叱ることができなかった。
「それに」
ラザフォードはそう言うと、机のしたから何やら鏡のようなものを取り出す。
「師匠がこんな引きこもりになってるなんて、亡きノクティルカ様が見たらどう思うのでしょうね」
「――っ!お前、まさか水神の鏡を……!」
思わずソファから飛び起きる。
ラザフォードの手に乗る鏡を見て、トートは言葉を失った。
「別に使ってはいませんよ。ですが、今の師匠を見たら、あの方は確実に心配するはずです」
ラザフォードはそう言うと、静かに鏡を机の上においた。
トートはその動作を、綺麗な蒼の眼で眺める。
「……分かったよ。確かに、300百年もふて寝同然で引きこもっていては、ノクティルカ様に顔向けできないな」
トートはゆっくりとラザフォードの机の前へと歩くと、そこに置かれた鏡に、そっと手を触れた。
「――っ」
トートはそれを慎重に手に取ると、その鏡面に写った自分を見る。
静かで、それでいて水面のような揺らぎをもつその鏡面は、まるでトートのすべてを見透かしてしまいそうで、思わず目をそむけたくなる。
「いいよ、四年だろ。高等科の四年間だ。それぐらいはお前の頼みを聞いてやる。
……お前の後生の頼みかもしれないからな」
「ありがとうございます、師匠」
トートは鏡をそっと胸に抱える。
なにか、とても大事なものを抱いているかのように、その手つきはとても優しかった。
そんなトートに、ラザフォードが茶化すように言う。
「ところで、本当に高等科でいいのですか?師匠がお望みなら中等科や初等科にも入学できますが。ほら、師匠は小さい――」
「てめえ、ぶっ飛ばすぞ」
帰ってきたのは、怒気をはらんだ声だった。
一応設定を書いておきます↓
【世界観】
タ・ネチェル:この物語の世界
水神:七柱の神の内、最後の一柱。五百年前にトートによって殺されている。
ヘカニコス:水上に浮かぶ魔法都市国家。三百年前、その時代の最高の魔法使いたちによって造られた。
ペル・アンク魔法学院:ヘカにコスにある世界最高の魔法学校。
【人物】
トート:五百年前、水神を殺したエルフの少女。三百年前、ヘカニコス建造に携わった一人。グータラが大好きなだらしない人物。
ラザフォード・ノクティルカ・フェンバード:トートの弟子。ペル・アンク魔法学院の校長。古代の魔導王という異名をもつ。
【魔法関連の設定】
魔法:魔素を利用して地・炎・水の三元素の自然現象を起こす。水元素の魔法は、五百年前トートが水神を殺した際、解禁された。
魔術:魔素をそのまま物質に鑑賞させる術。念魔術や結界術など、自然に存在しない現象を起こす。




