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月神の都、アキウトゥミクの物語 8
かの宝刀エディアナは乙女の白い手に握られていた。無数の白い花びらに覆われた遺骸は美しくも不吉で神官の制止がなくとも触れるのをためらわれる類のものであったが、若き将軍の頭の中にあったのは月神の富を携えて意気揚々と都に凱旋する己の姿だけであった。
将軍はためらわず乙女の手から宝刀をとりあげようとした。しかし死がもたらす硬直のため、将軍は宝刀を取り上げるために乙女の指を一本一本引きはがさなければならなかった。
ようやく宝刀を手にした将軍はその戦利品を子細に眺めた。不思議と暖かみのある白い石で、美しい銀の粒子が表面に浮いている。柄には月を表す文様が深く刻まれているが、年月を経てひどく磨耗していた。
「これぞ月神の宝刀エディアナ」
将軍はそう呟き、磨かれた刃にそって指を軽く滑らせた。エディアナの刃は将軍の考えよりはるかに鋭く、その指を噛んだ。将軍は軽く眉根をよせて自らの血の滴を眺めた。
月神の祭壇に赤い血が一滴滴り落る。