月神の都、アキウトゥミクの物語 10
瓦礫の山を通り抜けてルシウスは月神の神殿のあった場所へと向かった。エルミアス軍の生き残りの兵士が将軍は神殿に向かったと証言した為である。
行ってみると巨大な神殿の屋根は落ち、立って残っている柱は殆ど無かった。その光景を見てルシウスは肩を落とした。エルミアスが生き残っているとは思えない。それにこの瓦礫の山では、死体を探すことも覚束ない。ルシウス将軍はしばらくその場に立ち尽くした。
どれくらいの時間がたっだろうか。ルシウスは微かに聞こえるシュルシュルという音に身を強ばらせた。気がつくと白い鱗に銀色の目をした蛇が瓦礫の間を縫ってこちらにやってくる。
ルシウスは剣の柄に手をかけたが、剣を抜くのを危うく思い止まった。月神に仕える動物は残らず白い体に銀の目を持つと聞いた事があったからである。更なる月神の怒りを買う事は得策では無いとルシウスは判断した。
ルシウスがしばし蛇を睨んでいると、声をかけるものがあった。
「こちらに何のご用ですかな」
ルシウスが振り向くと、一人の老人が立っていた。
「私の名はルシウス。月神の怒りを買うのを承知で親友の消息を訪ねにきました。友の名はエルミアス」
ルシウスは老人に石を投げられても不思議は無いと思っていたが、案に相違して老人は穏やかに応じた。
「こちらに来なさい」
ルシウスは老人の後を付いて歩き始めた。