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第四話 新しい仲間


「んじゃ、また儲け話が転がってきたら顔を出してやるぜ。あばよ、お二人さん」


 廃村の調査から三日後。ガンバは約束通り報酬の四割を受け取り、振り返りもせずに去って行ってしまった。ネズミ人の小さな背中を見送ってから、ヒロシとメリアは自宅のテーブルに向かって顔を突き合わせていた。


「うーん……王様の話しぶりからすると、今後も色々と仕事を振られそうなんだよなあ」

「はい、人手不足なのは事実みたいですから」

「それで思ったんだけど、これからも魔物やらと戦うことがあるとなると、二人だけじゃ厳しいなって」

「そうですね……私もまだ魔法は未熟で、経験も全然足りてないですし」

「となると、頼りになる仲間が欲しいよなあ。特に前衛になってくれる戦士とか」

「確かに前で戦ってくれる方がいれば、私も魔法が使いやすくなると思います」

「よーし、それじゃ戦士を探しに行ってみよう」


 仲間に支払う契約金は、王様からもらった報酬でどうにか工面すればいい。ひとまず前衛職の顔ぶれを知るために、二人は冒険者ギルドの酒場へと向かった。前回のように酒場のマスターに話しかけて戦士の登録者一覧を見せてもらったが、魔法使いに比べて登録数は格段に多いものの、別の問題が浮上してきた。


「――こいつは酔って暴れて牢屋にぶち込まれること三回、こっちは過去に盗賊の一味とつるんでた噂あり、そんでこいつは器物損壊に放火に痴漢と露出、全部合わせて前科六犯てえところだな」


 淡々とそう読み上げるマスターに、ヒロシとメリアは引きつった笑いを浮かべるしかなかった。


「あのー、なんか犯罪者の見本市みたいになってません? ていうか、なんでそんな連中がギルドに登録できるんですか」

「ああ、兄ちゃんはそこら辺の事情をまだ知らないんだったな。考えてもみなよ、前衛の戦士なんてのはよ、それなりの腕っぷしと度胸があれば誰でも名乗れはするんだよ、一応な。で、パーティの先頭に立って敵と戦うってことは、それだけ死人も多く出るってわけだ」

「……つまり消耗品みたいな職業ってことですか?」

「ま、ありていに言えばそんなもんだ。だから戦士なんてのは、前に立って壁になりゃあ、犯罪者だろうが荒くれだろうが大した問題じゃないのさ」

(社会の闇を垣間見てしまった気がする)

「んで、どうするんだ? 誰か適当に選んでくかい?」


 しばし逡巡したが、ヒロシは首を横に振る。


「いや、今回はやめときます。さすがに信用できる相手じゃないと」


 粗暴な仲間を自分一人で御するのは無理があるし、大人しいメリアの近くにそうした人物を置くのも絶対に避けたかった。


「せめて女性で頼れる人でもいればなあ」


 なんとなく呟いた言葉だったが、酒場のマスターはふと思い出したように言った。


「女の戦士ねぇ……ああ、そういえば変わった連中なら少し前にここへ顔を出したことがあったな」

「変わった連中って、どんな人たちなんですか?」

「二人とも亜人の女でね、辺境から流れてきたって言ってたな。仕事が欲しいってんで適当に見繕ってやったんだが、同行者にロクなのがいねえって怒らせちまってな」

「その二人は今どこに?」

「生活費を稼ぐために、二人だけで西の街道に出る鳥のバケモノ退治に向かったって聞いたな。確か昨日の話さ」

「それじゃ追いかければ会えますかね?」

「ああ、たぶんな。鳥の魔物ってのは厄介でよ、長丁場になりやすいんだ。連中も手を焼いてるかもしれないぜ」

「分かりました。教えてくれてありがとうございます」


 ヒロシはマスターに礼を言い、酒場を後にする。


(鳥の魔物……空を飛ぶ相手か。手強そうだし、ちゃんと準備しといた方が良さそうだな)


 歩きながらそう考えたヒロシは工業区にあるギリウスの工房へ向かうと、いくつかの道具を頼んで受け取っておいた。準備を整え、ヒロシは西の街道を行く馬車にを借り、メリアと一緒に乗り込んだ。馬車は草原の中を縦断する街道を進み、いくつかの小さな森を超え、再び草原の中を進んでいた。そうして半日近くを進んだ所で、馬車が急に止まった。


「なにかあったんです?」


 ヒロシが御者に尋ねると、御者は街道の先の方を指して言う。


「狼煙が上がってるんだよ。あそこに空を飛ぶ魔物がいるって合図だ。悪いが避難させてもらうよ」


 馬車はくるりと向きを変え、街道脇にある雑木林の中に入り込んだ。頭上を見上げれば生い茂った木の葉で空が見えず、これなら上空からも見つかりにくいだろう。ヒロシはここで十分だと礼を言い、メリアと一緒に馬車を降りて狼煙が上がる方角へと急いだ。狼煙が近付くとともに、上空を旋回する巨大な黒い鳥の姿が見えた。それも一匹ではなく、五匹ほどの集団がギャアギャアと声を立て、時折地面に向かって急降下するといった行動を繰り返していた。


「あれだ。行こうメリア」

「はいっ」


 さらに近付いてみると、街道の傍らにテントが張ってあり、すぐ横で火が焚かれている。そこから立ち上る煙が狼煙となって、上空まで伸びているのが見えた。そしてテントの近くでは、空を見上げて弓を構えている人物たちの姿が見えた。


(あれが例の二人組か。ここからじゃ遠くて顔もよく見えない。もっと近づかないと)


 さらに前進して距離を縮めると、ようやく鳥の魔物と戦っている二人の姿がはっきり見えるようになってきた。二人とも全体的なシルエットは人間とほとんど変わらないが、一人はネコのような耳が、もう一人はウサギのような耳がそれぞれ頭に生えた女性だった。ネコに似ている方は程よい肉付きの健康的な体格で、赤っぽい髪のショートヘアで、布の服の上に革製の肩当てと胸当て、ズボンは太ももが見える短いもので動きやすさを重視した軽装である。もう一人のウサギ耳の女性はスラッとした長身で、髪は腰まで届くロングヘア―、青っぽい金属製の肩当てと胴鎧を身に纏い、長い足にロングタイツとヒールのあるブーツを履いている。年齢は二人とも二十代くらいといった感じで見た目は若く、そしてどちらも胸回りは豊満であった。


(いや待て待て、そんなこと気にしてる場合じゃない。目の前の魔物に集中だ集中!)


 雑念を振り払うようにヒロシは自分の胸元をドンドンと叩き、ぷはっと息を吐いてから空の魔物を見る。近くで見るとかなり大きく、遠くからでもざっと見て体長二メートル、翼長は四メートル近くもあり、それが群れで飛び回っているのだ。地上では亜人の二人が弓をつがえて何度も矢を放つが、鳥の魔物は素早く飛び回って的を絞らせていない様子だった。


「あーもー! チョロチョロ飛び回って腹立つニャ! オメーら降りてきてステゴロで勝負せんかい!」


 ネコ耳の女はイライラした様子で叫び、やたらと矢を連射している。それとは対照的に落ち着いた様子の、ウサギ耳の女は抑揚の少ない口調で言う。


「ヒナタ、矢を無駄遣いするな。それが無くなったら、どうやって戦うつもりだ」

「数撃ちゃ当たるって言葉があるニャ。ツキヨは小さい事にこだわりすぎニャ」

「重要な問題だ。これを小さい事とは言わない」


 対照的な口調で喋る二人は、それぞれヒナタとツキヨと言うらしい。二人は上空を旋回する鳥の魔物の群れを忌々しげに見上げ、弓を引き絞っていた。宙を舞う鳥の魔物は巨大でありながら小回りの利く動きも得意なようで、ただ飛ぶだけでなく急旋回やフェイントなども使い、矢を当てられるものなら当ててみろと言わんばかりにギャアギャアと騒ぎ立てていた。そして攻撃に転じる時は一匹が気を引くように急降下、それに警戒していると死角から別の一匹が、くちばしや爪で襲いかかるといった連携を次々に繰り出し、二人だけで相手をするのは分が悪いとすぐに分かった。


「あの人たちを援護しないと。メリア、火を頼む」

「はいっ」


 ヒロシはギリウスから受け取ってきた道具のうち、細い棒の先に導火線付きの筒を括り付けた物を取り出す。それは大ぶりなロケット花火で、普段は祭りや催事などに使われる物である。メリアが魔法で指先から小さな火を出すと、それを導火線に点火させ、ヒロシは火の点いたロケット花火を鳥の魔物が集まっている方向へ放り投げた。


「うまく行ってくれよ、それっ!」


 導火線の火が筒に到達した直後、火花を噴出しながらロケット花火は空を飛び、一直線に鳥の魔物めがけて飛んでいく。そしてちょうど連中が旋回している中心あたりまで飛来すると、派手な光と音を立てながら炸裂した。


「グエーーーーーーッ!?」


 激しい光と破裂音を至近距離で浴び、鳥の魔物たちは悲鳴のような声を上げる。花火で感覚が狂ったのか、二匹の鳥の魔物は上手く風に乗れなくなり、上空から落下してきた。


「なんか知らんけどチャンス! おんどりゃあぁぁぁっ!!」


 ネコ耳の亜人ヒナタは地面を蹴り、一瞬で高く跳躍すると落下する鳥の魔物に飛びつき、その喉笛を手甲から伸ばしたカギ爪状の武器で切り裂く。それとほぼ同時に放たれた矢が、もう一匹の落下する魔物の頭部を見事に貫いていた。地面に落ちた鳥の魔物たちはピクリとも動かず、すでに絶命しているのが見て取れる。仲間がやられたことに激高したのか、三匹めの魔物が鋭いくちばしを突き出し、串刺しにしようとウサギ耳の亜人ツキヨの方へ急降下した。


「はあッ――!」


 ツキヨはギリギリまで引き付けてからくちばしを躱すと、腰に下げていた剣を一瞬のうちに鞘から引き抜くと同時に斬り上げた。剣術で言う居合斬りに近い動作で、ヒロシにはその太刀筋が全く見えなかった。直後、頭と胴体が離れ離れになった鳥の魔物は地面を滑るように墜落、そのまま二度と動かなかった。


「す、すごいなあの二人。よーし、こっちももう一発!」


 ヒロシはさらに援護しようともう一本のロケット花火に火を点けてもらったが、それを放り投げようとした瞬間、足元の小石につまづいて転んでまう。


「どわっ!?」


 倒れた衝撃で手放したロケット花火は地面に転がり、あろうことか亜人の二人組の方へと飛んで行ってしまった。


「あわわわ、まずい……!」


 ヒロシは慌てたが後の祭り、二人の足を引っ張ってしまうかと思ったが、それに気づいたヒナタは素早く身構え、自分の足元へ飛んできたロケット花火を真上に蹴飛ばした。


「うりゃっ!」


 直角に向きを変えた花火はそのまま上昇し、最初よりは低い位置の空中で炸裂した。二度にわたって閃光と破裂音に晒された魔物たちは前後不覚に陥り、四匹目が糸が切れた凧のようにヒロシたちのいる方へ向かってきた。


「この距離なら……えいっ!」


 メリアが杖を構え火球の魔法を放つと、避けることも出来ず直撃を受けた鳥の魔物は爆発炎上、オレンジ色に燃える塊となって落下した。


「おーっ、あんた派手にやるニャ! 締めはアタシらが頂くニャ!」


 残る最後の一匹が低空まで降りてきた瞬間を見逃さず、跳躍したヒナタのかぎ爪が魔物の翼を切り裂く。飛行能力を失った魔物が地面に落下すると、待ち構えていたツキヨが手にした剣で魔物の心臓を貫き、とどめを刺した。五匹の魔物は全滅し、他の新手がやってくる様子もなかった。ヒロシとメリアが亜人の二人に近付くと、彼女たちも武器を収めて向き直る。


「どなたかは存じませんが、助太刀感謝します。私はラビト族のツキヨ。こっちはミャオ族のヒナタといいます。ヒナタは言葉に少し訛りがありますが、お気になさらず」


 ウサギ耳のツキヨは表情の変化に乏しいながらも、丁寧な口調で自己紹介をしてくれた。


「やっほー、ヒナタだニャ―。あんたらも冒険者ニャんか?」


 一方、ネコ耳のヒナタは砕けた口調で、ずっとニコニコと笑顔を浮かべている。


「俺はヒロシ。酒場で二人の噂を聞いて会いに来たんだ」

「メリアと申します。よろしくお願いします」


 メリアとヒロシが挨拶をすると、ヒナタはニヤニヤと笑みを浮かべヒロシの肩をばんばんと叩き、顔をぐいっと近付けてきた。


「助けてくれたのは感謝するニャ。でもさー、相手間違えるのはよくねーニャよ。ドジっ子なのかニャ?」


 さっきの誤爆した花火のことで、ヒロシは釘を刺されてしまった。ヒナタの顔は笑っていたが、大きな瞳はあんまり笑っていなかった。


「うう、あれはうっかり転んでしまって、わざとやったわけではなく……申し訳ない」

「あはは、冗談だニャ! あんた素直だニャー、おもろ!」


 肩に置いた手を引っ込め、ヒナタはカラカラと笑う。じっとその様子を見ていたツキヨが、続いて口を開いた。


「ヒロシどの。あなたは私たちの噂を聞いて来たと言ったが、なにか用事でも?」

「ええ、実は……」


 ヒロシが前衛を探している事情を説明すると、ツキヨは少し考えてから答えた。


「なるほど、そういう事情でしたか。ともあれ一度街へ戻りましょう。詳しい話はその時にでも」


 確かにこれ以上は立ち話でするものでもなく、四人は王都へ帰還することにした。雑木林に避難していた馬車に乗り込み、来た道を引き返すと、王都へ戻る頃には夕方になっていた。四人は酒場へと足を運び、魔物討伐の報酬で豪華な料理を注文すると、それを口にしながら話し始めた。


「ええと、どこから話したもんかな……」


 ヒロシは少し考えてから、ヒナタとツキヨに尋ねた。


「二人とも、転生者って聞いたことは?」


 ツキヨは食事の手を止めてヒロシを見るが、ヒナタはラム酒をラッパ飲みし、味付きの焼いた鶏肉をむしゃむしゃと食べ続けている。


「もちろん知っています。転生者は遠い世界より降臨し、天から授かりし『能力』を持ち、そして世界の命運のために戦う者のことであると、村の婆様から聞きました。私はまだ出会ったことはありませんが」

「ああ、うん。それで……俺、その転生者らしいんだ」


 転生者と聞いてしばしの間、ツキヨとヒナタは目を丸くしてヒロシを見ていたが、ツキヨは小首を傾げて言った。


「あの……転生者『らしい』とは?」

「あーっと、実はその……とても言いにくいんだけど。俺には特別な『能力』ってのがないんだ」


 沈黙の後、ツキヨは珍しく身を乗り出してヒロシに聞き返した。


「そんなことがあり得るのですか? 転生者は皆、いずれも奇跡のような力を持っていたと記録されているはず。能力のない『無能』の転生者など、聞いたことがありません」

「そりゃあ俺だって特別な『能力』とやらがあって欲しかったよ。でも、城で鑑定士がそう言ってたし、今まで特別な力なんて使えた試しもないんだ」


 悔しそうに言うヒロシの姿に嘘は無いと感じたのか、ツキヨは静かに椅子へ腰かけ直す。


「信じがたい話ですが……でも、事実なのでしょう。あなたからは人を欺くような匂いは感じません」

「はは、信用してもらえるなら助かるよ」


 ヒロシが苦笑したところで、焼いた鶏肉を一皿平らげたヒナタがやっと口を開いた。


「んで、ヒロシはニャんでアタシらを仲間にしてーのニャ?」

「ああ、転生者はいずれ魔王と戦わなくちゃいけなくて、俺も例外じゃないって王様に言われちゃってさ。俺なんか『能力』も無ければ取り柄もないのに、まいっちゃうよな」


 ヒロシの言葉を聞いた途端、ヒナタとツキヨは一瞬にして険しい顔つきに変わった。その迫力に気圧され、ヒロシは思わず息を吞む。


「き、急にどうしたんだ二人とも?」


 ヒナタがツキヨに目配せし、ツキヨがこくりと頷くと、ヒナタは今までの上機嫌な表情がウソのように真剣な顔つきで語り始めた。


「アタシの故郷は魔王軍に滅ぼされたニャ。全部燃やされて、なんにも無くなっちまったニャ。それで一人で彷徨ってる時に、アタシと同じように故郷を襲われたツキヨに出会って、それからコンビを組んでるのニャ。いつか魔王をぶっ倒すために」


 思いもしなかった壮絶な話に、ヒロシは言葉が出なかった。彼女たちの内側には、堪え難い怒りが渦巻いているのを感じる。しかしヒナタもツキヨもそれ以上の感情を噴出させることは無く、すぐに落ち着きを取り戻した。


「それでこの前、やっとのことで王都に来たニャ。そんで後はヒロシも知ってる通りニャよ」

「お恥ずかしい話ですが、旅の資金を使い果たしてしまいまして。特にそこの、食ってばかりいる駄猫のせいですが」

「あーっ、ひどい言いようニャ! 腹が減っては戦は出来ぬっていうだろニャ!」

「酒とギャンブルに興じて身ぐるみ剝がされるのを戦とは言わない。私が立て替えなければ、今頃ヒナタは奴隷商人に売り飛ばされていたんだぞ、分かっているのか」

「うぐぐ……わーん、ツキヨが怖いニャ!」


 あまり表情が変わらないツキヨだが、こればかりはかなり頭にきている様子だった。ほどなくしてツキヨはコホンと咳ばらいをし、あらためてヒロシの方に顔を向けた。


「お互いの話をまとめると、我々の目的は一致しているようです。ヒロシどのは転生者としての運命ゆえに、私たちは個人的な目的のために。理由は違えど、向かう先は魔王……そうであるなら、前衛の依頼をお受けしようと思います」


 ツキヨは思った以上に理性的で、話の通じる女性であった。ヒナタも明るく振舞っているが、魔王討伐に賭ける情念は相当なものだろう。ここまで話した限り、二人とも犯罪者崩れのような戦士とは比較にならないほどまともな人物である。そんな出会いにヒロシは小躍りしそうな気分だった。


「やった! こちらこそよろしく頼むよ。それじゃこれが依頼料ってことで、受け取ってくれ」


 ヒロシは死霊使い退治で得た報酬袋を、そのまま彼女たちに手渡した。金額を確認し、ツキヨもヒナタも不服は無い様子だった。


「いやあ、しかしここまで話がスムーズに進むとは思わなかったよ。ありがとう二人とも」


 ヒロシがテーブルに額が付くぐらい頭を下げると、それを見てヒナタは機嫌が良さそうに笑う。


「確かに目的は一緒だけど、アタシらが仲間になるのはそれだけが理由じゃ無いニャ」


 ヒロシとメリアが不思議そうな顔をしていると、ヒナタはにっと笑顔を見せて言った。


「アタシらみたいな亜人の流れ者は、見下されるのが当たり前ニャ。二言目にはケモノのくせにって、これまでもさんざん言われてきたニャ」

「な、なんて世知辛い……そんなことを言う連中がいるのか」

「でもヒロシたちは一度もそんなこと言わなかったのニャ。今日の戦いで加勢した恩を売ることも出来たのに、それすらも言ってこなかったニャ。こんなお人よしの人間、ハッキリ言って初めて見たニャ」

「いやまあ、俺は二人の勧誘が目的だったし、そんな詐欺とか押し売りみたいなやり方はさすがに……」


 ヒロシの言葉に、ヒナタもツキヨも満足そうな笑みを浮かべていた。


「つーわけで、ちゃーんと仲間になってやるから安心しろニャー。あとはお姉さんにまかせニャさーい、だーっはっはっは!」


 ヒナタは席を立ってヒロシの隣に立つと、その頭を脇に抱きかかえて、髪をわしゃわしゃと荒っぽく撫でる。それ自体は別にいいのだが、ヒロシは別のことが大変な状態になっていた。


「おわっぷ……! ちょっと待っ、おっぱいが当たっ……でっか……! いや待って、メリアが見てるッ! ここじゃイヤーッ!」


 ヒロシの顔面には、ヒナタの豊満な胸がぐいぐい押し当てられている。正直ずっとこのままでいたいと思うほどだったが、腕と乳圧の中で垣間見たメリアの表情はこれ以上ないくらいに引きつっていた。


「あわわわ……ヒ、ヒナタさん、離れてくださいっ。あ、当たってますっ、胸が……だ、だめ、離れて……!」


 メリアは顔を赤くしながらヒナタの腕を解こうとするが、彼女の腕力は強く簡単には外れない。メリアの取り乱した様子を見るやいなや、ヒナタはニヤッと笑みを浮かべた。


「あれれー? どうしたのかにゃー? もしかしてメリアは、ヒロシのことが好きなのかニャ?」

「……!?」


 その言葉に顔を真っ赤にしたメリアは、頬を膨らませて怒りの表情を浮かべる。


「もうっ、とにかく離れてくださいっ!」


 メリアが力いっぱいヒナタの腕を引っ張ろうとした瞬間、ヒナタは腕の力をふっと抜き、捕らえていたヒロシの頭を解放する。勢いあまって前につんのめったヒロシは、そのままメリアに抱き着く形になってしまった。しかも彼女の胸にヒロシの顔が埋まる形で。


「あっ……!」


 しばらく状況が呑み込めず、メリアは自分の胸に顔をうずめるヒロシを呆然と眺めていた。だが、やがて我に返ると、彼女の顔はトマトのように真っ赤に染まっていった。


「きゃあああっ!?」


 悲鳴と共にその場から飛び退いたメリアは、胸元を押さえて今にも泣き出しそうである。ヒロシもようやく自分のしでかした事に気付き、慌てふためきながらペコペコと謝った。


「ご、ごめんメリアっ! わざとじゃないんだコレは……!」


 メリアは真っ赤な顔のまま押し黙ってしまい、ヒロシはコメツキムシのように何度も頭を下げる。その様子を見てゲラゲラ笑うヒナタの頭に、席を立ちあがったツキヨが歩み寄りげんこつを落とした。


「ぎゃん、いってーのニャ!」

「いいかげんにしないか、まったく。二人が困ってるだろう」


 襟首を掴まれ、ヒナタは自分の席に戻された。ヒロシとメリアも顔を赤くしながらも落ち着きを取り戻し、席に座ってふうっと息を吐いた。


「すみません、ヒナタはすぐ調子に乗るので……」

「いや大丈夫。本当にもうすごかったけど全然平気。すごかったけどまったく気にしてないから、うん。すごかったけど」


 それどころか柔らかくて天国みたいだったという感想は、死ぬまで黙っておこうと思うヒロシであった。そんな折、ツキヨはヒロシに尋ねた。


「ところでヒロシどの、鳥の魔物との戦いでは音と光の出る妙な道具を使っていたようですが……あれはなんだったのでしょう」

「ああ、あれは花火だよ。鳥は大きな音や強い光が苦手だから、魔物でも効き目があるかなと思って持ってきたんだ。上手くいって良かったよ」


 転生する前、物件の近くに集まってくるハトやムクドリ対策で音を出したりライトを光らせたりとやってみたことがあるが、その経験がまさかこんな所で生きるとは、さすがにヒロシも予想だにしなかった。


「なるほど……言われてみれば単純な話なのに、相手が魔物という事もあって、実際にやってみようという発想には至りませんでした。これは盲点だったな……」

「ははは、特別な『能力』でパパッとやっつけられたら良かったんだけど」


 バツが悪そうに笑うヒロシだが、そんな彼を見るツキヨの瞳は穏やかだった。一方、残りわずかとなったラム酒を瓶ごとゴクゴクと飲み干し、ドンっとテーブルに置いてヒナタが据わった眼をしていた。


「ところでさーヒロシ―、アタシらもういっこ、のっぴきならねー問題があるのニャ」

「のっぴき……ええと、問題って?」

「実はさー、これから寝泊まりする所、どうしようかなって考えてるのニャ」

「渡した報酬があれば、しばらく宿も借りれるだろ?」

「それはそうなんだけどニャ―。ぶっちゃけ、ここら辺ってガラの悪い男が多いよニャ」

「ま、まあ確かに……」

「自分で言うのもなんだけどー、アタシらみたいな亜人の若い女って貴重なんニャ。奴隷にして客を取らせたりとか、とっ捕まえてペットにしようとする金持ちのエロジジイとかがいっぱいいるんニャ」

「う……またえぐい話が……」

「だからこーんな、誰が出入りしてるかわかんねーお店とか宿にいたら、いつ一服盛られるか知れたもんじゃねーのニャ。そこでぇ……ヒロシん家とか、部屋あまってないかニャ―って」


 ヒロシのマイホームは新築の二階建てで、ヒロシとメリアにはそれぞれ個別の部屋が二階にあり、その他にも来客用の部屋がひとつ空いている状態である。


「あー、えっと、ちょっと相談するから待っててくれないか」


 ヒロシはヒナタとの会話を中断し、メリアに顔を向けた。


「話は聞いてたと思うけど、どうする? 来客用の部屋が開いてはいるけど、俺一人で決めるわけにもいかないし」


 メリアは少し驚いたような顔をしたが、すぐに微笑を浮かべて答えた。


「もちろん、私は構いません。同じ女同士ですし、お二人が困っているなら助けてあげたいです」

「そっか、そうだな……よし!」


 話が決まり、ヒロシはヒナタの方に向き直す。


「ちょうど一部屋空いてるから、家に来てくれるのは構わないよ。ただヒナタとツキヨは相部屋になっちゃうけどいいかな?」

「オッケーオッケー、そこまで文句は言わねーニャ! これでおっさんの夜這いとか気にせず眠れるニャ―」


 詳しい事情は分からないが、彼女たちにとっては深刻な問題だったのだろうとヒロシは思った。


「ではヒロシどの、しばらくお世話になります。今後ともよろしく」


 ツキヨも礼儀正しくお辞儀をし、こうして前衛職のヒナタとツキヨが仲間に加わった。

 急に賑やかになった新しい暮らしに期待しつつ、ヒロシも目の前の料理に手を付けるのだった。




 第四話 新しい仲間 おわり

次の投稿は一週間後の金曜夕方以降の予定です

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