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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第二章 魔王軍
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第十三話 王都襲撃(2)



「どこかで見たことがあると思ったら、あれはポータルだ。といっても映画とかゲームでしか見たことないけど……」


 聞き慣れない言葉に全員が不思議そうな顔をしたが、ヒロシの隣にいたメリアが尋ねた。


「ヒロシ様、ポータルとはなんでしょうか?」

「ああ、えっと……ポータルってのはメリアが言う転移術に似てて、人を一瞬で別の場所に移動させられるんだ。ただ、それは魔法じゃなくて機械が発生させてるものなんだけど」

「機械……ですか?」

「ああ。機械ってのはこう、複雑な仕組みと電気で動くもので……そう、ちょうどゴーレムみたいな感じの物だよ」


 珍しく正しい例えが出来たとヒロシは思ったが、すぐに嫌な事実に気付いて表情が引きつってしまう。


「ということは、魔王軍はポータル発生装置を手に入れたってことだよな……それも軍隊を送り込めるくらい規模の大きな奴を。だとしたら大変だぞ……!」


 推測が正しければ、ポータルを発生させている機械が健在である限り、魔王軍はどこでも自在に兵を送り込めるという事になる。今回のような事態が常態化してしまえば、魔王軍の攻勢に王都はとても耐えられないだろう。当然、ヒロシたちのマイホームも戦渦に巻き込まれ、住む場所を失ってしまう事になる。


「あああ、まずいまずい。どうしようヤクモ先生、なにかいい知恵はないですか!?」


 ヤクモはヒロシの言葉を本に書き込み、しばし考えてから口を開く。


「ヒロシどのの言葉が事実だったとした場合、考えられる対策はひとつ。そのポータル発生装置とやらを破壊するしかありません」

「えっ……破壊するったって、一体どうやって?」

「もちろん、奴らのポータルを利用するのです。魔王軍の本拠地からオーク兵がこちらへ出て来られるなら、こっちから向こうへ乗り込むことも可能なはず。そして膨大なエネルギーを消費するものである以上、ポータルの入口側は発生装置の近くに固定されていると考えるのが自然です。ならば、奇襲を仕掛けてポータル発生装置を破壊できる可能性は十分にあるでしょう」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。奇襲を仕掛けるって言ったって、敵の本拠地ですよ!?」

「だからこそ、です。彼らの性質から考えても、襲撃に怯えて警備を強化しているとは考えにくい。それに連中も我々が本拠地に奇襲を仕掛けてくるなど、本気で想定などしていないでしょう。つまり、付け入る隙はあるということです」

「いや、しかし……向こうにどんな相手が待ち構えているか分からないのに。それこそ四魔将の誰かが居たりしたら……」

「ええ、ですので奇襲攻撃は速さが命となります。敵地へ乗り込んだら速やかに装置を破壊し脱出する。無駄な戦いをせず、目的の遂行だけを第一に考えるのです。敵軍の中心で、まともに戦おうなどと考えてはいけません」

「ええと……それって、やっぱり俺たちがやらなきゃダメかなあ……?」


 すっかり青ざめて引きつった表情でヒロシは言うが、ヤクモは真剣な表情を崩さない。


「この人数、そして今だからこそ敵の裏を掻くことが出来るのです。魔王軍に我々の狙いを感付かれてしまったら、ポータル発生装置を破壊するのは二度と不可能となるでしょう」

「うう、やっぱり……」


 がっくりと草むらに突っ伏すヒロシだったが、しばらくして観念したように顔を上げる。


「でも、仮にポータル発生装置の破壊に成功したとして、帰りはどうするつもりなんです?」

「それは我々もポータルを利用させてもらえばいいでしょう。装置を破壊し、ポータルが消滅する前にくぐり抜けて脱出する。シンプルですがそれが一番の方法かと。当然、無事に帰れるかどうかは賭けになりますが」

「うう、不安だなあ……想定通りに行かなかったらと思うと……」


 思わず身震いしてしまうヒロシだったが、ふとあることを思い出す。


「あ、そうだ。ポータル発生装置とか、どう考えてもゴーレムと同じ古代の機械だよな。もしかしてゴーレムも、ポータル発生装置の事を知ってるんじゃないか?」


 ヒロシは後方でうつ伏せになっているゴーレムに顔を向ける。相変わらず目が光っている以外は感情らしいものは読み取れないが。


「なあゴーレム、ポータル発生装置って知ってるか?」

「むっ」


 ゴーレムは返事をするように音声を発する。返事のタイミングや音声の調子からして、どうやら肯定している様子である。


「確かこの前、女神様が古代装置へのアクセス権を与えたとか言ってたし、もしかして操作出来そう?」

「むっ」


 やはりゴーレムの返事は肯定していると思われ、目をチカチカと小刻みに点滅させている。データをロードしているパソコンのランプみたいだなとヒロシは思った。


「よし、じゃあポータル発生装置に辿り着いたら、ゴーレムは自爆とか暴走とか、とにかく指令を出して装置を二度と使えないようにしちゃってくれ。頼めるかい?」

「むっ!」


 やはりゴーレムの音声は変わらないが、どこか「任されよ」と言っているような雰囲気である。


「やっぱり機械には機械が一番だよな。じゃあポータルに飛び込んだらゴーレムが装置を見つけて壊すから、俺たちは邪魔されないように守る。みんな、作戦はこれでいいかな?」


 ヒロシが全員に尋ねると、否定の声は上がらなかった。死地に飛び込む覚悟は、決まったようである。


「よ、よし……まったく気は進まないけど、この作戦で行こう。みんな、くれぐれも気を付けてくれよ」


 ヒロシの言葉に、わずかだが緊張した空気が和らいだ。その状況をじっと見ていたガンバは、口の端を持ち上げて言った。


「へっ、あのヒロシがずいぶん偉くなったもんだ。じゃあ俺も、ちょっとばかし手伝いをしてやるぜ。あのポータルとやらを利用するにしても、連中の気を引いて遠ざけねえとな」


 ガンバが指を鳴らすと、今までどこに隠れていたのか、彼と同じラット人の仲間らしき連中が茂みから姿を現した。ガンバが手先でサインを送ると、仲間のラット人たちは魔王軍の方向へと静かに近付いていく。


「仲間がちょっとした騒ぎを起こすからよ、俺たちゃその隙にポータルってヤツに突っ込むぞ。準備はいいな!」


 ガンバがくいっと手を曲げて合図をすると、オークたちの近くにある茂みから白い煙が立ち上り始める。それも一ヶ所ではなく複数の場所から煙が立ち上り、オークたちを煙に包んでいく。急に視界を奪われたオークたちは騒ぎ始め、辺りはにわかに騒然となった。


「こっちは風下、しかも高い位置だ、連中の位置もよく見えるし、今なら気付かれずにポータルへ近付けるぜ」


 あらかじめそこまで計算していたガンバの抜け目のなさに驚いたものの、ヒロシは覚悟を決めて立ち上がり、身を屈めながらオークたちの集団がいる方角へ進んでいく。狙い通りオークたちは煙に巻かれて周囲に気が回らず、ヒロシたちの接近に気付いていない。その隙に彼らの脇を通り抜け、ヒロシたちは宙に浮かぶ巨大な雲のような円――ポータルの前へと辿り着く。


「うう、嫌すぎるけどみんな行くぞ! ゴーレムを守って装置を壊したら、すぐに脱出するんだ。みんな怪我したりやられないでくれよ!」


 ヒロシはそう言いながら、祈るような気持ちでポータルへ顔を向ける。やはり敵の本拠地であろう場所へ乗り込むのは、どうしても尻込みしてしまう。その横をするりと通り抜けざま、ヒロシの肩にポンと手を置いてヒナタが前に出た。


「おっと、最初はアタシが行くニャ。みんなすぐに来るんニャよ!」


 ヒナタは躊躇せずに白いポータルへと飛び込み、姿が見えなくなってしまう続いてツキヨも槍を手に飛び込み、さらに続いてヤクモも飛び込んでいく。次々に仲間が先行して焦るヒロシの背中を押すように、メリアがポータルの前に立って言う。


「行きましょうヒロシ様。私たちのお家を守るためです」


 さすがにこれ以上モタモタしても居られないと、ヒロシも仕方なくだが覚悟を決める。


「よし、こうなったらヤケクソだ! 頼むぞみんな!」


 ヒロシが一気にポータルへ飛び込むと、それに続いてメリア、ゴーレム、最後に周囲を見張っていたガンバもポータルへと飛び込んだ。騒然とする現場で、ヒロシたちがこっそりポータルへ入り込んだことに気付いたオーク兵は誰も居なかった。 

 

 ポータルを通り抜けた先は、巨大な工廠のような施設の中だった。薄暗い建物の中は無数の照明と、物々しい配管や太いケーブルが蜘蛛の巣のように走り、ヒロシたちの目の前には高さ五メートルほどもある、角が無く滑らかな楕円形の巨石がそびえ立っていた。周囲の配管やケーブルは全てがこの巨石の基部と繋がっており、巨石の表面には青く光る奇妙な文字が浮かんでは消えていく。


「こ、これが……ポータル発生装置……?」


 巨石を見上げて思わず呟いてしまったが、ヒロシはすぐ我に返って周囲を見回す。幸いにもオークの兵士は見当たらず、丁度入れ違いに全て出て行ったタイミングだったようだ。


「と、ともかく今のうちに装置をやっちゃおう。ゴーレム頼むぞ!」


 と、ヒロシが指示を出したその時だった。


「おいおい、なんだテメーらは。どこから入ってきやがった、あ?」


 周囲に響く、ガラの悪い口調の言葉が背後から聞こえてヒロシたちは素早く振り向いて身構えた。声の主は薄暗い工廠の奥から重い足音を響かせながら、ゆっくりと姿を現わす。それは重厚な鉄の鎧を身に付け、襟に毛皮をあしらった赤いマントを羽織った、身長二メートルをゆうに超える背丈の大男であった。大男の肉体は常人の倍以上に分厚く、自分の身体よりも巨大なハンマーを軽々と肩に担ぎ上げている。鎧に覆われていない腕や足の一部から見える筋肉は、異様なほど発達して岩のように盛り上がっている。頭には角飾りの付いた兜を着け、金色にギラつく恐ろしげな目つきでヒロシたちを見下ろしていた。


「奴隷どもじゃねえなお前ら、見覚えがねえ。てことはポータルを逆に通ってこっちに来やがったのか。あのオークども、力がちょっとばかし強いだけでアタマは悪いからなぁ。こんな奴らをのうのうと素通りさせるなんざ、ったく使えねえ」


 ズシン、ズシンと床を揺らしながら、大男は忌々しそうに吐き捨てる。


「人ん家に勝手に上がり込む害虫はよー、ブチッと潰すのが普通だろ。テメーらだってそうするだろ、なあ?」


 大男は巨大なハンマーを片手で突き出し、冷徹な視線を向けてくる。


「だ、誰だお前は!?」


 苦し紛れにヒロシが言うと、大男は瞬時に悪鬼のような表情となり叫んだ。


「図に乗ってんじゃねえぞゴミクズどもが! 俺の許可なく喋ってんじゃねえッ!」


 鼓膜が破れそうなほどの怒声に、ヒロシたちは思わず耳を塞いでしまう程であった。


「質問してんのはこっちなんだよコソ泥。なにしに来たのか痛めつけて吐かせようかと思ったけどよぉ、ムカついたわ。テメーら全員この場で潰し殺す。この力の魔将ギリュウ様がな!」


 予想はしていたが、しかし最悪の展開となってしまった。力の魔将と名乗った大男から発せられる重圧は口先だけのそれではない。猛烈に嫌な予感に襲われながら、ヒロシは止まらない足の震えを必死にこらえていた。




第十三話 王都襲撃 おわり

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