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第十七話 盗賊団の砦


「――俺の考える作戦はこうだ。砦の正面で奴らを挑発して気を引き、その隙に両翼に回り込んだ奴らが乗り込んで三方向から同時に攻める。盗賊なんざ大半がチンピラやごろつきの寄せ集めだから、軍隊みてぇな統率が取れるはずもねえ。単純だが効果的だと思うぜ」


 木の枝で地面に簡単な見取り図を描きながらダンは自分の作戦を披露していた。本人が言うように単純な内容だが、先手を取って有利な状況に持ち込みたいのであれば、多方向から仕掛けて相手を混乱させるのが合理的ではある。


「そうですね、こちらの手勢は七名。およそ三十名ほどの集団を相手に先手を打つなら有効な策でしょう。ただし寄せ集めとはいえ武装した集団である以上、決して相手の戦力を甘く見積もらないことです。我々はこのような場所で、一人でも欠けてはならないのですから」


 話を聞いていたヤクモもダンの作戦に賛同しながら、油断しないようにと釘を刺す。他の仲間たちがこくりと頷いている中、ダンは今の言葉に不思議な顔をしていた。


「ん? いま七名つったか? ここに居るのは俺を含めて六人だろ」


 その場にいる人数を指してダンは人数を確かめるが、何度数えてもその場には六人しかいない。


「ああ、そういえばダンはまだ知らないんだっけ。目立つとまずいから、ちょっとこっちに来てくれないか」


 ヒロシは砦から見て馬車の影になる位置へダンを連れてくると、荷車の中に向かって声をかけた。


「おーいゴーレム、出てこーい」


 荷物に混じっていタマゴ型のそれは、ヒロシの声に反応して表面に無数の青い線を走らせると、床板からわずかに浮いた状態でふわふわと移動し、荷台から飛び降りてきた。


「な、なんだこいつは……?」


 ひとりでに動く大きな置物のような物を見て驚くダンの前で、ヒロシはタマゴ型の物体に向かって言う。


「ゴーレム、新しい仲間のダンだよ。元の姿に戻って挨拶するんだ」


 その言葉を聞いた途端、大きなタマゴ状のそれはあっという間に装甲を持つ人型の姿に形を変え、両目を光らせてダンを見た。身長が三メートル近くあるゴーレムが立つと頭が馬車からはみ出してしまうが、遠目からは身体が馬車に隠れ、正体がバレる心配も少ない。


「むっ」


 相変わらずそれしか発せない音声を鳴らすと、ダンは驚きのあまりあんぐりと口を開けていた。


「お、おい、なんだこりゃあ!? でけえタマゴが人みたいなバケモンに……!?」

「これはゴーレムっていうんだ。古代のロボットで、俺たちの味方だよ」

「な、なんだと……お前、どこでこんなもんを見つけたんだ」

「あーっと、それを説明すると話が長くなるから……とりあえず、ゴーレムも人数に加えて七人ってことで。ゴーレムは俺の言うことなら聞いてくれるし、すごく頼りになるんだ」


 ダンは唖然としながらもゴーレムの身体を隅々まで眺め、ついには顔を手で押さえて笑いだしてしまった。


「くっくく……わははは、こいつぁすげえ! おいヒロシ、こんな隠し玉を持ってやがったとは人が悪いぜ。だが、こいつが味方だってんなら、こんな田舎盗賊くらいワケはなさそうだな!」


 ダンはゴーレムの脚装甲を拳でコンコンと叩き、その手ごたえを確かめていた。


「よし、そのままだと目立っちゃうからゴーレムは小さくなっててくれ。後でまた呼ぶから頼んだよ」

「むっ」


 ゴーレムはヒロシの言葉に従い、再びタマゴ型に縮んで小さくなった。


「よし、そんじゃ作戦会議の続きと行こうか!」


 ヒロシとダンは仲間たちの元へ戻り、盗賊の砦を攻めるための段取りを再開した。


「よし、それじゃあ俺が考えた配置を伝えるぜ。まず正面組はさっきのデケえ奴とヒロシ、魔法使いの嬢ちゃん、それと俺の四人だ。俺たちは門の前で騒ぎを起こして盗賊どもをおびき出す。ゴーレムってヤツの図体と嬢ちゃんの魔法があれば、盗賊どもの注意を引き付けるにゃあ十分だろう。で、騒ぎに乗じてヒナタとツキヨが砦の両翼から内部に乗り込み、奴らを挟み撃ちにして掻き回すって寸法だ。人数から見て、一人あたり四、五人くらい倒す必要があるが……二人とも大丈夫だな?」


 ダンがヒナタとツキヨに視線を送るが、彼女たちに臆する様子は見られない。


「任せとけニャ。盗賊なんぞに後れを取るようじゃ、戦士なんて名乗ってられんニャ」

「ああ、病み上がりの肩慣らしにちょうどいい」


 二人とも単独行動に対する恐れはなく、気合も十分のようだ。最後に残ったヤクモに顔を向けると、ダンは続けた。


「ここまでの作戦に文句はあるかい、戦略家の先生?」

「いえ、私が口を出す部分はありませんね」

「へへ、そいつは良かったぜ。それであんたの役目だが、作戦が始まったら俺たちが正面の門を突破するから、そのドサクサに紛れて砦に忍び込んで、盗賊どもの親玉が居そうな場所を見つけておいてくれ。ヤツを取り逃がすと後が面倒だからな」

「分かりました。居場所が分かったら合図をしましょう」

「ああ、頼んだぜ。だが一人で無茶はするんじゃねえぞ。アンタの身に何かあると、作戦を立てた俺が吊るし上げられちまうんでな」

「ええ、心得ています。己の力量はよく知っているつもりですから」


 それぞれの役割が決まり、後は作戦を実行に移すのみとなった。相手が三十人程度とはいえ、武装した人間の集団に戦いを挑むという事実に身震いが止まらなかった。ヒナタとツキヨは一足先に展開し、数少ない物陰に身を隠しながら砦の両翼へと移動していった。単独行動がかえって功を奏した形となり、二人の姿は目立つことなく、無事に砦の両翼にある馬除けの杭の陰に隠れることが出来た。二人が配置に付いた頃合いを見計らい、ダンを先頭にヒロシとメリア、そして目立たないよう布を被せたタマゴ型のゴーレムが砦正面の門の前にやってきた。


「おいコラァ! 出てきやがれロクデナシども! てめぇら誰に断ってここに住み着いてやがる!」


 思わず耳を塞ぎたくなるような大声を張り上げ、ダンは砦の門に向かって叫ぶ。これだけよく通る声なら、向こう側にいる盗賊たちにもしっかり聞こえているだろう。ほどなくして門の上部にある見張り櫓に、粗野な風貌の男が姿を現した。手には弓を持ち腰に剣を差しており、見た目からしても盗賊の一員に間違いなさそうである。


「誰だテメーは。ここがどんな場所だか知ってて言ってんのか?」

「知ってるから呼んでるんだよ。ゲスな盗賊風情が空き家を借りてデカい顔してんじゃねえ」

「言うじゃねーかこの野郎。俺らにそんな口の利き方をして、どうなるか覚悟は出来てるんだろうな!」


 盗賊は持っていた弓を構えて引き絞り、矢を放ってきた。ダンが身を反らして避けると、矢はヒロシの足元に音を立てて突き刺さった。


「ひえっ……!」


 引きつった表情と共に後ずさるヒロシとは対照的に、ダンは不敵な笑みを浮かべたまま盗賊に向かって叫ぶ。


「こんなもんで相手がビビると思ってんのか三下。脅しってのはこうやるんだよ! 頼むぜ嬢ちゃん!」


 ダンがそう言うと同時に、メリアが杖を構え火球の魔法を放つ。火球は同時に三発出現し、盗賊の立つ櫓めがけて一直線に飛ぶと、爆音と共に櫓の半分ほどを粉々に吹き飛ばしてしまった。盗賊は運よく直撃を免れ、残った櫓の柱にしがみついて目を丸くしていた。


「す、すごい……! メリア、前よりずっと魔法が上達してるんじゃないか?」

「はい、師匠に教わった通りに毎日訓練はしていましたから」

「くうっ、いいなあカッコいいなあ。俺も魔法のひとつも使えれば……うごごご」


 嬉しそうに照れるメリアと、彼女を褒めつつ悔しそうなヒロシの前で、ダンは両腕を組んで大声を張り上げる。


「これで分かっただろうが! とっととお仲間でも搔き集めて出てきやがれ!」

「ぐぐぐ……舐めやがって……!」


 櫓の上にいた盗賊が首からぶら下げていた笛を吹き鳴らすと、周囲に甲高い音が響き渡る。すると砦の内側が騒がしくなり、物々しい雰囲気が漂い始めた。やがて重々しい音と共に砦の門が開くと、その向こう側には武器を手にした盗賊団が十人ほど並び、敵意を隠そうともしない顔つきでこちらを睨んでいた。


「楽に死ねると思うなよお前ら! たかが三人でこの数に喧嘩売ったこと、あの世でも後悔し続けな!」


 櫓上の盗賊がそう叫ぶと同時に、盗賊たちは雪崩を打って襲い掛かってきた。敵意を剝き出しにする盗賊たちに気圧されつつも、ヒロシはなるべくギリギリまで引き付けてから叫ぶ。


「今だゴーレム! あいつらをやっつけろ!」


 その瞬間、布を被っていたタマゴ型のゴーレムは一瞬にして三メートルほどの巨体へと姿を変え、盗賊たちの前に立ちはだかった。


「なっ、なんだあっ!?」


 突然の出来事に意表を突かれた盗賊たちは、ゴーレムを見上げて立ち止まってしまう。ゴーレムは目の前にいた盗賊を片手で捕まえると、ひょいと遠くへ投げ飛ばしてしまった。投げられた盗賊は地面に落下すると「ぐえっ」と踏まれたカエルのような声を出して動かなくなった。ゴーレムは続けざまに二人目、三人目と掴んでは投げ飛ばし、残る盗賊に向かって両目を光らせる。


「なんなんだコイツは!? これでも食らいやがれ!」


 焦った盗賊たちはゴーレムめがけて一斉に弓矢や投げナイフなどを飛ばしたり、手持ちの刃物で斬り付けたりしたが、ゴーレムの強固な装甲には全て弾かれてしまうだけだった。


「バ、バケモノだ……! いったん退却しようぜ!」


 怖じ気づいた盗賊たちは踵を返して砦へと逃げ込んだが、そのうちの一人は砦の中がにわかに騒がしくなっていることに気付いて足を止めた。あちこちから叫び声や悲鳴が聞こえ、無数の盗賊たちが訳も分からず砦の中を走り回っており、すっかり混乱した状況に陥っていた。


「ど、どうなってんだ……!?」


 騒がしくなった砦の様子を見て、ダンは口の端を持ち上げて笑みを浮かべた。


「よし、両翼の二人も上手くやってくれてるみたいだな。俺たちもこのまま押し通るぞ!」


 ダンは腰の剣を抜き、背を向けたままの盗賊を一刀のもとに斬り捨てると、そのまま門の向こう側へと突っ込んでいった。


「わわっ、待ってくれダン! 俺たちも行こう!」

「はいっ」


 ヒロシはゴーレムを先頭に、その後を付いていくようにして砦の門をくぐり、砦の中へと飛び込んだ。地面には数人の盗賊が血を流して倒れており、武器を手にした盗賊たちが慌てふためいている。ゴーレムの姿を見た三人の盗賊がすぐさま襲い掛かってきたが、そのうちの一人はダンが素早く斬り捨て、残りの二人はゴーレムの装甲に武器を砕かれ、巨大な拳でまとめて殴りつけられて吹き飛び、積んであった木箱を突き破るように突っ込んだまま二度と立ち上がらなかった。


「ううっ、どうにも見た目にエグいなあ」


 ヒロシは剣を構えながら周囲を警戒するが、幸いなことに奇襲を仕掛けてくるような相手はいなかった。その時ふと、視界の上の方に動く影を見つけて顔を上げると、砦の屋根から屋根へ素早く移動するヒナタの姿を見つけた。


「ヒナタ! 大丈夫なのか!?」

「おっ、やっほーヒロシ! こっちは余裕だニャ! アタシはもうちょい雑魚と遊んでくるから、オメーはちゃんとメリアを守ってやるニャよ!」


 ヒナタは屋根の上から手を振ると、再び向こう側へと姿を消してしまった。話しぶりからして特に手傷を負った様子もなく、盗賊相手に上手く立ち回れている様子である。その時ヒロシたちの後ろから、ひょっこりとヤクモが顔を出す。


「さて、いい具合に砦も混乱しているようですし、私も自分の仕事をするとしましょう」


 ヤクモは普段の白い服ではなく、ゴーレムに投げ飛ばされた盗賊から衣装を剥ぎ取り、それに着替えていて地味な見た目の服装になっている。これなら目立たずに砦の中を探れると言い、静かに砦の奥へと向かって行った。


「おらおら、次はどいつだ! 達者なのは口先だけかよテメェら!」


 ダンはあえて大声を張り上げ、盗賊たちの注意を引き付けている。それに逆上した盗賊が二人がかりで彼に襲い掛かるが、ダンは素早く右の一人を逆袈裟の剣で斬り、返す刀で左の相手も斬り倒してしまう。それはまさに、あっという間の出来事だった。


「つ、強い……凄いんだな、ダンも」


 ダンの太刀筋は洗練されているとは言い難いが、実戦の中で鍛えられた力強さと躊躇いの無さがあった。ヒロシはそんなダンの姿に感心していたが、それに気を取られて周囲の警戒が疎かになってしまっていた。そして、その隙を伺っていたかのように、死角の物陰から盗賊の一人がメリアめがけてナイフを振りかざし突っ込んできた。


「きゃあっ!?」


 普段は気配に敏感なメリアも周囲の喧騒に気を取られて気付くのが遅れ、魔法も間に合わない。


(しまった!)


 ヒロシは反応が遅れてしまったことを即座に後悔したが、すでに凶器はメリアの眼前に迫っている。もはや考える余裕もなく、ただ夢中で身体ごと突っ込む事しか出来なかった。


「ぐっ……!」


 腕の振りは不十分、無理やり盗賊とメリアの間に割り込むような形でぶつかる形となったが、ヒロシの構えていた剣が盗賊の腕に当たり、盗賊はナイフを持たない方の腕をだらりとぶら下げていた。


「あ、あっちに行けっ! メリアに近付くなっ!」


 ヒロシは剣を構えたまま声を絞り出すが、盗賊は痛みに顔を歪めながらもナイフを構え、引く様子が無い。ぶら下げた腕からはボタボタと血を流し、それでも近付こうと踏み出してくる。


「こっちに来るなって言ってるんだ、聞こえないのか!?」

「ぐっ……クソが……っ」


 盗賊はヒロシの言葉に従う様子がなく、敵意にまみれた顔で迫ってくる。もはやこれ以上の余裕はお互いに残ってはいなかった。


「う、うわあああああっ!」


 ヒロシは叫びながら剣を振り上げ、そして夢中で振り下ろした。刃から柄へと伝わる鈍く重い感触。やがてそれがスッと抜け、剣を振り下ろしきったヒロシは我に返る。盗賊は鎖骨から袈裟斬りの形になり、そのままよろめいて顔面から地面へ倒れ込み、二度と動かなかった。物言わぬ塊となった盗賊の身体から流れ広がり、剣の切っ先からも滴り落ちる鮮血。それを目の当たりにした瞬間、ヒロシは視界がぐらぐらと揺らぎ、眩暈を起こしてその場に膝を付いてしまった。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……!」


 メリアを助けるためだったとはいえ、自分の手で人を殺してしまった。ヒロシはその事実に激しく動揺し、口の中はカラカラに乾き、全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出し、心臓は狂ったように鳴り響いてうるさいほどだった。剣を握る両手の指は硬直し、手足は痙攣したようにガタガタと震えて止まらない。目を見開いたまま息を荒げるヒロシに、メリアは何度も呼びかけ続けていた。


「ヒロシ様、大丈夫ですか! ヒロシ様!」

「ううっ……はあっ、はあっ……!」


 ヒロシは彼女の呼びかけにも返事が出来ずにいたが、その様子に気付いたダンが近付いて来ると、ヒロシの胸ぐらを掴んで頬を平手で殴った。派手な音と痛みでヒロシはふと我に返るが、ダンの張り手は強烈で視界がチカチカしていた。


「痛ててっ……ダン……?」

「おい、敵地のど真ん中でボケっと立ち止まる奴があるか。死にたいのか?」

「い、いや……」

「だったらシャンとしな。その様子だと人を斬るのは初めてらしいが、今はそんなもん気にしてる場合じゃねえんだ」

「あ、ああ、わかってるよ。わかってる……」


 真っ青な顔をしつつも、ヒロシは襟首を掴むダンの手に自分の手を添え、ゆっくりと外して立ち上がる。目の前で倒れた盗賊の死体が視界に入るとすぐに気分が悪くなったが、それを必死に飲み込んでなんとか耐えた。


「よし。俺たちの分と合わせて、盗賊団の半分はもう始末出来てるはずだ。このまま仲間と合流して一気に畳みかけちまおう」


 そう言って先へ進むダンに続き、ヒロシとメリア、ゴーレムも歩き出す。ヒロシは今にも逆流しそうな吐き気に耐えながら、なんとか足を動かし続けていた。


 一方、ヒナタとツキヨは砦の両翼――つまり左右の位置から馬除けの杭と塀を乗り越えて砦に侵入し、門の方で起きた騒ぎに気を取られた盗賊たちの脇腹を突く形で急襲していた。物陰に潜んで静かに倒す方が安全かつ確実だが、今回の目的は砦に混乱を引き起こすことにある。だから彼女たちはあえて姿を晒し、派手な物音を立てながら盗賊たちを倒していった。ヒナタは建物の陰から蔭へ、屋根から屋根へ縦横に飛び回り、攪乱しながら六人を始末し、ツキヨは弓矢を使い遠距離から正確に盗賊たちを射抜いていき、五人をあっという間に倒していた。この時点で盗賊団の数は見立ての三分の一ほどまで減った計算となり、もはや大勢は決したと言って良い状況だった。目につく相手が居なくなり、ヒナタとツキヨが砦の中央部に顔を出すと、ちょうど入口の門から前進してきたヒロシやダンたちと合流した。


「よっ、あんたらも無事だったか。おかげで盗賊団の連中はほぼ壊滅状態だ。後は親玉と生き残りの手下どもを見つけるだけだな」


 ダンが言うと、ヒナタは両手を組んで軽く伸びをしてから口を開く。


「やっぱりこいつら、寄せ集めのゴロツキだったニャ。弱っちくて準備運動にもならんかったニャ」


 魔物の群れを相手に出来る彼女の言葉は、一般人のヒロシには想像が難しい。だが彼女がどれだけの場数を踏んで来たのか、鍛えてきた強さが自分と比べてどれほど遠くにいるのか、ヒロシはようやく実感を持って感じることが出来たのだった。


「ところで、ヤクモどのの方はどうなっている?」


 ツキヨは長い耳を立てて周囲を見回していたが、砦の奥にある大きな建物の方から一筋の煙が立ち上るのを見つけた。狼煙を見上げる彼女の隣にヒナタがひょいと顔を出し、狼煙が上がった場所の方へ大きな瞳と耳を向けていた。


「あれは……ヤクモどのの狼煙か。残りの連中はあの場所にいるようだな」

「とっとと片付けて先を急ぐニャ。この砦、小汚くて臭いし気に入らんニャ」


 いつもと変わらぬ調子で先へ進む二人の背中を見て、ダンは感心した様子である。


「なるほどな、女だてらに大したもんだぜあの二人は。腕も立つし度胸も据わってやがる。あんたらが魔王軍の基地に突っ込むなんて無茶を選んだのも、少しは理解できる気がしてきたぜ」


 そう言いながら歩き出すダンに続き、ヒロシたちも大きな建物の方へ向かった。それは切り出した石材を積み上げて作られた堅牢な建物ではあるが、周囲の傷み具合は激しく、所々補修してある木材すらも一部が腐って崩れ落ちていたりという有様である。出入口の扉は粗末な木製で、建物の中で人が動いているような気配はない。様子を伺っていると、建物の裏手から盗賊の格好をした男がひょいと顔を出す。ダンは咄嗟に剣の切っ先をその方向に向けるが、それは盗賊の格好に扮していたヤクモだった。


「おっと、私です皆さん。騒ぎが起きてすぐ、この建物に駆け込んでいく連中の姿を見かけました。大きさからしても、ここが盗賊の首領の隠れ家でしょうか」


 ダンが剣を下げると、ヤクモは建物の陰から身体を出して合流する。騒ぎのおかげで彼を気にする者は居なかったようで、ヤクモも無傷の様子である。


「あれから表に出てこない所を見ると、盗賊たちが待ち伏せしている可能性が高いですね」

「ふん、見え透いた手だぜ。だが中の様子が分からない以上、ただ突っ込むのも上策とは言えねえな。さて、どうしたもんか」


 いくら実力差があるとはいえ、狭い屋内ではどんな罠が潜んでいるか分からない。ダンとヤクモがどう攻めるべきか考えていると、メリアが前に出て建物の壁に手を触れて言う。


「中にいる人の数と位置なら『索敵の魔法』で分かるかもしれません」

「ほう、そんな便利な魔法があるのか?」

「あまり広い範囲は分かりませんけど、この建物くらいならなんとか……」

「そりゃ願ってもねえ、さっそくやってくれ」

「は、はいっ」


 ダンに頼まれたメリアは壁に手を当てたまま目を閉じ、静かに呪文を唱え始める。しばらくすると彼女の脳裏に建物の輪郭が浮かび、その中に無数の緑色に光るものが点々と配置されているのが見えてきた。それは生命エネルギーの輝きであり、その場所に何者かが居るということを示していた。


「……見えてきました。建物の中に八人くらい隠れています。それから……地面より低い場所にも誰かが居るみたいです。でも、これは……」


 そこでメリアは言葉を濁し、自分の脳裏に見えるビジョンに意識を集中する。地下らしき場所に大きな光がひとつ見えるのだが、その周囲にも三つほど小さな光が見えるのである。メリアはそこで目を開き、


「地面の下……たぶん地下だと思いますけど、そこに一人と、他に小さなものが三つくらい見えます。でも、これがなんなのか私には分からなくて……」


 メリアの言葉を聞き、ダンはすぐに納得がいったように厳しい顔つきになる。


「いや、そこまで分かるなら十分だ。地下のことは大体見当がつく。続きは隠れてる奴らを片付けてからだ。俺たちが先行するから嬢ちゃん、敵が隠れてる場所を教えてくれ」


 メリアは杖で地面に建物の簡単な図を描き、敵が隠れているであろう位置を大まかに記して見せた。それはあくまで大雑把なものに過ぎないが、戦い慣れた連中には敵の大体の位置が分かれば、あとは隠れ場所や待ち伏せのポイントは容易に想像できるとのことだった。


「よし、俺たち三人が先行するから、お前らは地下の入口を探しておいてくれ。行くぞ!」


 ダンとヒナタ、そしてツキヨの三人は武器を手に建物の中へと飛び込んでいく。ほどなくして建物の中から激しい物音と盗賊たちの悲鳴が聞こえていたが、やがて静かになった。ヒロシとメリア、ヤクモはそっと建物の中に足を踏み入れ、身体が大きくて中に入れないゴーレムは入口で周囲を見張ることになった。建物の中は静まり返っており、奥の方を見ると通路に倒れている盗賊の姿も見える。それらをなるべく視界に入れないようにしつつ、ヒロシは床を注意深く調べ始めた。すると部屋の隅の一部だけ汚れが不自然に消えている部分があり、その壁沿いには大きな棚が置かれていた。


「露骨に怪しい……棚を動かしてみよう」


 ヒロシが力いっぱい棚を横に引っ張ってみると、ズルズルと動いた棚の後ろには隠された小部屋があり、地下へ通じる階段があった。恐る恐る階段を下りてみると、思ったより広い空間があり、その奥でこちらに背を向け、壁に向かってガリガリと棒らしきものを突き立てている男がいた。


「そ、そこでなにしてるんだ!」

 

 ヒロシが言うと男は手にしていた棒を落とし、ゆっくりと振り向いた。その顔は白髪交じりの頭髪とヒゲを伸び放題にした、五十代半ばくらいといった風貌の男である。汚れているが他の盗賊とは違うコートを身に纏い、両手の指にはやたらと大きくて目立つ指輪をたくさん嵌めている。顔は痩せていて眼窩は窪み、その奥に光る目玉は薄暗い地下でも白目がギラギラと目立っている。この男が盗賊団の頭領だろうということは一目瞭然であり、その男はヒロシが構える剣を見ると、ゆっくり両手を上げ引きつった笑みを浮かべた。


「へへへ、見つかっちまったかぁ。手下もみーんなやられちまったみたいだし……降参、降参だ」


 盗賊の頭領はいかにも悪党といった風貌に反し、素直に敗北を認め降伏の意を示した。無用な戦いが起こらなかった事に安堵したヒロシは、あらためて部屋の中を見渡してみる。地下室は殺風景で家具や置物などもなく、頭領の背後にある崩れた壁と、ヒロシから見て右手側の壁沿いに汚れた布が何かに被さっているだけだった。だが、その布の膨らみに妙な違和感を感じたヒロシは頭領に剣を向けたままゆっくりと移動し、その布をめくってみた。


「……!?」


 そこには縄で縛られ、声を出せないように猿ぐつわを嚙まされた三人の子供たちだった。大きな怪我こそしていない様子だが身なりは汚れ、ひどく震えて怯えている。その光景に驚いたヒロシは子供たちの縄を解いてやろうと思い、盗賊の頭領から完全に視線を外してしまっていた。その瞬間、党則の頭領は素早く右手の親指で人差し指に嵌めた指輪を撫でるようにすると、指輪の一部がずれて鋭い刃物が飛び出した。刃物の先端には腐ったような色の液体が塗られており、頭領は隙を突いてそれをヒロシに突き立てようとした。


「バカ野郎!! そいつから目を離すなッ!!」


 その瞬間、部屋に響く声と共に地下室へ駆け込んできたダンは剣の先端を向けて投げつけていた。剣はまさに襲いかかろうとしていた頭領の左胸に突き刺さり、切っ先が背中まで貫通するほどだった。


「が……ッ……!」


 盗賊の頭領は腕を振り上げたまま喉から不快な音を吐き出し、そのまま倒れ込んで動かなくなった。ダンは盗賊の頭領に近付いて突き刺さった剣を引き抜くと、驚いて目を丸くしたままのヒロシを睨みつけた。


「おいヒロシ、さすがに今のは呆れたぜ。こいつの指をよく見てみな」


 ダンに言われヒロシが息絶えた頭領の手を見ると、刃の飛び出た指輪が目に止まる。


「そいつはただの刃物じゃねえ。たっぷり毒を塗った暗器ってヤツだ。いくら相手が丸腰に見えても、息の根を止めるまで命の獲り合いは続いてるんだよ。俺が来るのが遅れてたら、一緒にいた嬢ちゃんや薬屋の先生だってやられてたかもしれないんだぞ。お前やっぱり、危機感が足りねえんじゃねえか?」

「ううっ……」


 返す言葉もないヒロシだったが、ダンはそれ以上は言わず、ため息をついてから剣を鞘に納めた。


「まあいい、こんな場所で話すコトじゃねえな。とりあえずこのちびっ子どもを連れて表へ出ようぜ」


 ヒロシたちは子供の縄を解いてやり、急いで砦を離れ馬車の元へと戻って来た。泣きじゃくる子供たちをメリアやヒナタがあやしている間に、ヒロシはダンに尋ねた。


「ダン、あの子供たちは?」

「俺の村じゃ見ない顔だし、おおかた近くの村から誘拐されてきたんだろう。ガキってのは、商品としてそれなりのカネにはなるからな。これだから盗賊だのは気に入らねえんだよ」

「ひどいことを……ともかく、あの子たちを家に帰してあげなきゃ」

「……ま、お前ならそう言うだろうと思ったぜ、大将」


 ダンはヒロシの肩をポンと叩いて笑みを浮かべる。二人も子供たちの元へ近付いて汚れた身体や顔を拭いてやると、どこから連れて来られたのかを尋ねた。子供たちが口にしたのは、砦から見て目的の街道の方角にある、険しい山地に位置する村の名前だった。余計な回り道をせずに済んだことに安堵しつつ、次の目的地が決まった。



第17話 おわり

次の更新は金曜19時予定です

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