5.帰国便に乗れず、深夜の空港に妹と二人きりで放置された話
インド滞在最後になる予定の夜。私はひどい下痢に苦しんでいた。他のツアー参加メンバーは既に順番に下痢の洗礼を受けていたので、これで全員インドの食べ物にあたった事になる。
だが、私の場合は下痢だけでなく、嘔吐も伴っていたので便器に腰掛けながらゴミ箱として部屋に備え付けてあったブリキ缶を抱え込む……という悲惨な有様だった。
翌日――
飛行機の出発が夜だった為、妹達がニューデリー観光に出かけている間もホテルの部屋で苦しみに耐え、上からも下からも出す物がなくなって、なんとか出歩けるだろう程度に回復し、観光から帰ってきた妹と一緒に荷造りをして、ガイドが迎えに来るのを待った。
が、迎えがこない。
飛行機に乗り遅れるー! とイライラしながら待っていると、ようやく登場したガイドに、まるで遅刻したのが自分ではなく我々であるかのように急き立てられた。
なんとか間に合いそうな時刻に空港到着。が、車を降りたのは参加メンバーだけ。
ガイド氏いわく「私はアルバイトで正式な旅行社の身分証明書を持っていないから空港内に入れない」
そんなん、あり? と思いながらも気が急いていたので挨拶もそこそこに、人影もまばらなエアインディアの搭乗カウンターへ向かった。
同じツアーに参加していた二人が搭乗手続きを済ませ、次は私の番、と係員にパスポートとチケットを差しだそうとすると……
「オーバーブッキング?!」
何それっ!
オーバーブッキングというのは航空会社がキャンセルの為に空席が出来るのを嫌って、座席数より多くの予約を受け付けたのだが、予想よりキャンセル数が少なく、結果、予約があるのに飛行機に乗れない客がでる事を言う……って、その乗れない客って私達の事っ!
初めての海外旅行。国内便の飛行機にだって、ごく小さい頃に一度乗った事があるだけ。恥ずかしながら、この時にはオーバーブッキングの意味すらよくわかっていなかった。
私と妹がまだ事態を飲み込めないうちに離陸時刻が迫り、搭乗手続きを終えていた旅仲間二人は搭乗ゲートへ。
私のつたない英語でいくら食い下がってもカウンターのお姉さんは「ノー・シート」を繰り返すだけ。しかも搭乗予定便が最終だった為、私と妹を無視してさっさと引き上げてしまった。
時刻は既に22時近く、ガランとして人気のなくなった空港。言葉もわからず、ガイドもいない。
空港内の照明も次々と消されてしまい、僅かな常夜灯が灯るのみ。
下痢と嘔吐の後遺症でフラフラして脳細胞の働きもいつもに増して悪いというのに、妹と二人きり、異国の地に取り残されてしまった。
数年後、サンフランシスコ空港で離陸を待っていたユナイテッドエアラインの機内で「オーバーブッキングが発生してしまいました。お急ぎでないお客様は当社で○○ホテルでの宿泊・食事・○○ドル(金額は忘れてしまいました)をご用意いたしますので、お席をお譲りいただけませんでしょうか? 代わりに乗っていただく便は……」という感じのアナウンスが流れた。
そうだよね、オーバーブッキングは航空会社の不手際なんだから、普通はこれくらいするよね。ひどいぞエアインディア。
そして私達があってしまったような事態が起こった時に、エアインディアに文句を言って参加者に便宜を図るのが旅行社の仕事だろう。空港まで送ってポイはあんまりだ。こっちはそういう目にあいたくないから大手が主催するパックツアーを選んだんだぞ。
1989年2月17・18日の出来事。




