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9 緋色の推理

「スカーレットを殺害した人物。

スカーレットの首を温室に飾った人物。

右手と凶器を盗んだ人物。

そして遺体を遺棄した人物。

この事件は四人の人物によって行われたのですわ。」


大広間の中央、関係者の見つめる中でカメリアはそう語る。

正面で聞いていたハインリヒは「いったいどうしてそんなことがいえる。」とカメリアに噛み付く。


「ヤコブが凶器を持っていたんだ。

この男が一人ですべてやったんじゃないのか。」


「いいえ、違いますわ。

あなたもわかっているでしょう。

スカーレットのために祭壇をつくったのはハインリヒ、あなたなのですから。」


ハインリヒは目を見開いた。


「昨夜10時50分、アドラー伯爵夫人がスカーレットを客室へ案内しました。

ハインリヒ、あなたはスカーレットにあとで温室で合うことを約束しましたね。

あなたが11時に温室で彼女を待っていたことは庭師が証言しています。

11時半になっても彼女が現れなかったので、あなたはスカーレットの部屋を訪れたのでしょう。

そして彼女が殺されたことに気づいた。

あなたはスカーレットの首を持ち去り、庭園から薔薇の花を取り、温室に祭壇をつくった。」


「なんでそう思う。」


「右手と凶器を隠し持っていたのがヤコブだったから、ですわ。


ヤコブがスカーレットの部屋を訪れたのは1時ごろ。

このとき既に遺体の首は持ち去られていた。


アドラー伯爵夫妻とヤコブは12時半まで話し合いをしていたといいますから、1時までに祭壇をつくるのに十分な時間を持っていたのはハインリヒ、あなたですわ。


それに何より、彼女への愛を捧ぐ祭壇をつくろうなどと考える人物はあなただけでしょう。」



ハインリヒは否定しようと口を開きかけ、そして観念したように被りをふった。


「スカーレットを心から愛していたのは、僕だ。

彼女が殺されているのを見て、目の前が真っ暗になった。

僕は絶望して冷たくなった彼女の首を抱いた。

そのとき思ったんだよ。

彼女の死によって、僕らの愛は完成したんだって。

スカーレットは踊り子、僕は貴族だ。

きっと僕らがともにいるためには、彼女の死が必要だったんだ。

あの祭壇は、僕らの愛の象徴だ。」


ハインリヒのペールグレーの瞳は濁っていた。

スカーレットの遺体をみた悲しみで彼の愛情は歪んでしまったのだろうか。


「あなたが祭壇をつくって首を飾ったことは、池に遺体を遺棄したアドラー伯爵にとっては予想外のことだったのでしょう。」


死体遺棄の犯人とされたアドラー伯爵は「何をいうんだね、カメリア嬢。」とカメリアに詰め寄る。



「ヤコブとの話し合いが終わった後、アドラー伯爵は正面側の庭園が見える居室にいました。

そしてスカーレットを殺した人物が屋敷から逃走しようとするのを目撃した。

犯人を問い詰めて事件を知ったアドラー伯爵は伯爵家の名に傷がつくことを恐れ、殺人を隠蔽しようとしたのです。」


「何を根拠に私が死体を池に沈めた人物だと言っているんだ。」


「足跡を残さずに遺体を池に運ぶことができた時間は、使用人たちが宿舎に戻り池周辺に人通りがなくなった12時半ごろから雨が止む2時までの間。


1時にヤコブがスカーレットの遺体を発見し右手と凶器をとり、鉢合わせたハインリヒとヤコブが口論になった。

アドラー伯爵夫人はこれを見ている。

あなたにはこの時間のアリバイがない。


夫妻の寝室にかかっていたレインコートをよくご覧になって?

裾に泥の跳ね返りと赤黒いシミがついていましてよ。

乗馬にするのでもなしに、伯爵ともあろう方がレインコートに泥や血をつけるかしら。」



アドラー伯爵は力無く項垂れた。


「温室に首を飾ったのはハインリヒ、右手と凶器を盗んだのがヤコブ、遺体と証拠品を池に沈めたのはアドラー伯爵。

では、スカーレットを殺害した人物は誰なのですか。」


私の問いかけに、カメリアは「それが可能だったのは、ひとりだけですわ。」と言う。


「殺害現場の置き時計が止まった11時12分、アドラー伯爵夫妻とヤコブは応接室に、ハインリヒは温室にいた。

ですからアリバイがないのは、エラ、あなただけですわ。」


名指しされたエラは膝をついた。


「エラは旅行鞄に荷造りをしていましたわね。

あの鞄には雨の中を走ったような泥はねがあった。

ですから、エラはあの鞄を持って外に出たはずなのですわ。

逃走しようとしてアドラー伯爵に呼び止められたときのものでしょう。」


「そんな…。

あなたの話は憶測ですよね。

私がやったという証拠はないじゃありませんか。」


「そうですわね。

でも、あなたの話には矛盾がありましたのよ。


私とヒルダがあなたの部屋を調べたとき、あなたは荷造りをしたのは祖父母に会いにいくためと言った。

連絡もなしに祖父母を訪ねようとしたことについてあなたはこう言った。


『ただ少し、この家から出たかったのです。

ヤコブ叔父様がお父様と相続のことで険悪な雰囲気になっていて、なんだか私まで息が詰まってしまって。』


けれどもあなたは夜会が終わってすぐに眠りについたのでしょう。

でしたら昨晩の時点では相続についてアドラー伯爵とヤコブが揉めたことを知らなかったはずなのでは。


いま、王国警察の方々は犯行現場の調査をしていますわ。

ドアノブにあなたの指紋が発見されるだけでも、あなたが嘘をついていることが証明されますわ。

だってあなたはスカーレットの部屋にはいってないはずなんですもの。」



「諦めよう、エラ。

私たちは負けたんだ。」


アドラー伯爵に肩を抱かれ、エラは涙を流した。


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