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8 犯人

「おい、離せよ!

離せって!」


ヤコブの叫び声が大広間に響き渡る。

逃走を図ったヤコブは大広間で数名の警官に取り押さえられていた。


「なに見てんだよ兄貴。

伯爵家の人間に無礼を働いてるこいつらをどうにかしてくれよ。」


助けを求めるヤコブを、アドラー伯爵は冷ややかな目で見つめた。

騒ぎを聞きつけ、伯爵家の全員が大広間に集まっていた。


「お前がスカーレットを殺したんだろう!」と激昂するハインリヒ。

「一族の恥よ。」と眉を顰めるアドラー伯爵夫人。

哀れんだ眼差しを向けるエラ。

そんな彼らにヤコブは「俺はやってない!」と叫ぶ。


「俺が殺したんじゃない。

本当だ。

俺は何も知らないんだよ。」


ハインリヒは「何を馬鹿なことを!」と叫ぶ。


「スカーレットの右手と凶器がお前の部屋からみつかったんだぞ。

どうして言い逃れができるものか。

お前が犯人なんだろう。」


「違う!

俺は殺してない!」


「ええ、そうでしょうね。」


ヤコブの犯行を否定する言葉にハインリヒが驚愕する。

カメリアだ。

カメリアはすました顔で伯爵家の人々の前に歩み出た。



「スカーレットを殺したのは、あなたではないのでしょう。」


「そうだ!

信じてくれるか!」


「でも、何も知らないというのは嘘ですわね。」


勝ち誇ったようにいうヤコブにカメリアは被せるように言った。



「あなたは昨夜1時ごろにスカーレットの部屋を訪れましたね。

そのとき、きっと部屋に鍵はかかっていなかったのでしょう。

あなたは鍵が開いているのをいいことに彼女の部屋に入った。

そして凶器を手にし、スカーレットの右手を切り落とした。


ハインリヒが目撃したのは、急いで階段を降り自室にスカーレットの右手を隠すあなたの姿だった。

もう一度自室から出たのは、凶器をどこかに捨てようとしたからでしょう。


けれどもハインリヒと鉢合わせてしまったために凶器を捨てることはできなかったのですわ。」


「じゃあやっぱりお前が殺したんじゃないか、ヤコブ!」


怒鳴り声をあげるハインリヒに、カメリアは「それは違いますわ。」と言い放つ。


「ヤコブはスカーレットの右手を切り落とし、凶器とともに隠し持っていただけですわ。

ヤコブがスカーレットの部屋に入ったとき、スカーレットはすでに亡くなっていたのです。

そして、彼女の首も既にもちさられていた。

首のないスカーレットの姿にあてられ、ヤコブは右手を盗んだのでしょう。」


「あぁ、そうだよ。

あんたのいう通り、俺は殺してない。

右手を盗んだだけだ。」


ヤコブはニタリと下品に笑う。


「スカーレットの部屋いったらよ、鍵どころか扉もきちんとしまっていなかった。

だから俺は中へ入ったんだ。

奴さんは死んでいた。

首のない姿で血まみれのベッドに倒れてたんだ。

そりゃぁ驚いた。

でも俺はどうしてもあの女を手に入れたかった。

せめて右手だけでも俺のものにしたかった。

いったい何が悪いってんだ。

かわいいもんだろ、命を奪うのに比べれば。」



「カメリア様、どういうことなのですか。

ヤコブはスカーレットを殺した犯人ではないのですか。」


 私の問いかけにカメリアは答える。


「この事件において、犯人の行動は矛盾していました。


遺体を池に隠し、犯行現場から争った形跡を消し証拠隠滅を図り犯行を隠蔽しようとした。

一方で温室に目立つ祭壇をつくり首を飾っている。

しかしその祭壇はありあわせのものでつくられていて、計画的につくられたものではない。

また遺体と証拠品を遺棄した場所に凶器はなかった。

そのうえ、殺害してから遺体を遺棄するまでに時間が空いている。


これらの不自然な点から、私は一つの可能性に気づきました。

犯人の行動に一貫性がなかったのは、同じ人物によって行われていなかったから。

この事件は、複数の人間によって行われたものなのです。

彼らは共犯ではなく、お互いに予想外の行動をとった。

だから事件は複雑になりましたの。」


確信を持って話すカメリアに、アドラー伯爵は眉を吊り上げた。


「ほう、それで。

あなたには事件の真相がわかるのかな、カメリア嬢。」


「ええ、もちろんですわ。

私の推理をお聞きくださる?」






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