7 発見
「スカーレット殺害に使われた凶器と遺体の右手はまだ見つかっておらず、犯人が隠し持っている可能性があります。
したがって関係者の部屋を調べさせてもらおうと思います。
カメリア嬢とヒルダくんにはご婦人方の部屋をお願いしたい。」
レストレード警部の指示を受け、私とカメリアはまずエラの部屋を調べることにした。
私たちが部屋を訪れ部屋を調べさせてくれと言うと、エラは特に拒否することもなく大人しい声で「どうぞ。」と私たちを招き入れた。
「1階から階段を登ってすぐの部屋がスカーレットの泊まった部屋なんですね。」
「ええ。
ですから、昨夜は深く眠っていて客室に誰かがきていても気づかなかったのです。」
エラは私たちに「お力になれずすみません。」と頭をさげる。
私とカメリアは彼女の部屋の戸棚や引き出しを見たが、事件に関連のありそうなものは出てこなかった。
エラの部屋には旅行鞄があった。
その旅行鞄には、2日分の洋服や下着が用意されていた。
カメリアはエラに尋ねる。
「ご旅行の予定があったのですか。」
「ええ。
母方の祖父母が田舎に住んでおりまして、会いに行こうと思っていたのです。」
「いつ出発する予定ですの?」
「本当なら、今日の朝にでも経つつもりでした。
けれど、こんなことになってしまったので…。」
「ずいぶん急いで荷造りされたのですね。
戸棚や衣装ダンスの引き出しの中は整理されていますから、あなたは几帳面な方なのでしょう。
けれども旅行鞄の中の衣類はやや乱雑にたたまれています。」
カメリアの指摘にエラは「そんなこともお分かりになるのですね。」と目を伏せた。
「前々から決まっていた予定ではないのです。
近頃あまり顔を出していないことを思い出して、昨日会いに行こうと思い立ったのです。」
「そんなふうに思い立ってすぐ会いに行けるほどお祖父様、お祖母様と仲がよいのですね。」
私は別段不審に思ってそう言ったわけではなかったのだが、エラは顔を曇らせた。
「いえ、そんなに親しい仲ではないのですが…。
ただ少し、この家から出たかったのです。
ヤコブ叔父様がお父様と相続のことで険悪な雰囲気になっていて、なんだか私まで息が詰まってしまって。
それに、相続するのは兄さんですもの。
私のことは、別に誰も気にかけていませんの。」
悲しげに語るエラを、カメリアはまっすぐに見つめていた。
次にカメリアと私はアドラー伯爵夫妻の寝室を調べた。
エラの時と同様に、アドラー伯爵夫人の持ち物からも事件の証拠となりそうなものは見つからなかった。
カメリアが注目したのは、寝室のコートハンガーにかかっていた長いレインコートだ。
「こちらはアドラー伯爵のものですか。」
同じ部屋で男性警官に持ち物を調べさせていた伯爵は「そうとも。」と頷く。
「アドラー伯爵は乗馬がお好きなのですか。」
唐突なカメリアの問いにアドラー伯爵は戸惑いつつも、「乗馬は貴族の嗜みなのだから、当然だ。」と答える。
「しかし乗馬のときには前見頃の短いテールコートを着るのだよ。
そのレインコートは着ない。
カメリア嬢は紳士のファッションにはあまり興味がないようだな。」
アドラー伯爵の嫌味にカメリアは「あら、私としたことが。」と微笑んだ。
アドラー伯爵夫妻の寝室を後にすると、警察官たちが慌ただしく屋敷を駆け回っていた。
カメリアは警官たちの中心に立つレストレード警部に声をかける。
「何かありましたの。」
「遺体の右手と凶器が見つかりました。」
「どこにあったのですか。」
「ヤコブの部屋です。
ヤコブが隠し持っていたのです。」




