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6 消えた足跡

スカーレットの首以外の遺体が発見されたのは、その日の夕暮れ時のことであった。


アドラー伯爵邸の門をくぐるとすぐ、小川の流れる庭園が広がっている。

温室や居室から眺めることのできるこちらの庭園は、青々とした芝生が広がり、森の美しさを再現するように木々が植えられている。

庭園の中央に本宅があり、正面側の庭園を見渡せる場所に温室と大きな窓のある居室がつくられている。

本宅の裏側は、薔薇の花が植えられていた華やかな正面側とは違い、木々に囲まれた池が素朴な美しさをみせる。


その池に、スカーレットの遺体は沈んでいた。



「遺体は血濡れたシーツと布団で石と共に包まれておりました。

寝具は犯行現場の客室から犯人が持ち去ったもので間違いありません。

浮き上がってこないように石も包んだのでしょう。

スカーレットは背中に薔薇のタトゥーがあったそうです。

遺体を確認したところ、同じタトゥーがありました。」


若い警官の報告にレストレード警部は頷く。


「凶器は池からは見つかっていないのかね。」


「私を含め5人の警官が池に入って捜索しましたが見つかりませんでした。

また、スカーレットの遺体は右手を切り取られています。

そちらも見つかっていません。」


「すると、犯人はスカーレットを殺害した後、首を切って温室の祭壇に飾り、右手を切り落とし残りの胴体をこの池に沈めたことになるのか。

凶器と右手は別の場所に隠したか、あるいはいまだに隠し持っているということだな。」


真剣な顔で聞いていたカメリアが口を開く。


「ひとつお聞きしてもよろしいかしら。」


「なんですか、カメリア嬢。」


「屋敷からこの池まで、犯人の足跡は残っていなかったのですか。」


「はい。

我々が遺体を発見した時足跡はひとつもありませんでした。」


「足跡が消えたのは雨のためでしょうね。

そうすると犯人がこの池に遺体を沈めたのは雨が降っていた時間、つまり午前2時までになりますわね。」


レストレード警部は頷く。


「そのうえ、この池は本宅から使用人の宿舎へ行く際の通り道になっている。

犯人が使用人たちに目撃されることなくここに遺体を遺棄した。

11時半ごろから12時すぎまで仕事を終えた使用人たちが宿舎に帰るためここを通っている。

短く見積もっても12時半までは人通りがあったと思われます。

犯人が遺体を池に沈めることのできる時間は12時半から2時までとなりますな。」


「犯人が遺体と証拠品を隠したのは、スカーレットを殺害した直後ではありませんのね。

なぜ時間をあけたのでしょうか。」


カメリアは首をかしげた。

レストレード警部は状況の整理をするため手帳を開いた。


「殺害現場はスカーレットの使った客室。 


アドラー伯爵夫人がスカーレットを部屋に案内したのは10時50分。

部屋の置き時計が止まった時刻は11時12分。

この22分の間に犯人はスカーレットの部屋へ侵入し、彼女を殺害したと思われる。


犯人はスカーレットを殺害したあと、温室に祭壇をつくり首を置き、12時半から2時までにこの池に右手と首を除いた遺体と殺害現場の証拠を沈めた。


しかし置き時計が止まったのとほぼ同時刻、ハインリヒは温室にいるところを庭師に目撃され、アドラー伯爵夫妻とヤコブは12時半まで話し合いをしていた。


1時ごろ、ヤコブはスカーレットの部屋に向かっており自室に戻るところをハインリヒに目撃される。

再び自室を出たヤコブとハインリヒが口論をし、その様子をアドラー伯爵夫人が夫婦の寝室の窓から中庭越しにから見た。


同じ時間、アドラー伯爵は正面の庭園に面した居室に一人でいた。」


「アドラー伯爵には12時半から翌朝までのアリバイはないことになりますね。」


私の言葉にレストレード警部は頷くも、「しかしスカーレットが殺害された11時12分には容疑者全員にアリバイがある。」と続ける。


「唯一アリバイがないのはエラですが、彼女にはスカーレットを殺害する動機がない。」


「置き時計が止まった時間と犯行時刻は違ったという可能性はありませんか。

ヤコブは1時にスカーレットの部屋に行ったのを目撃されている。

その時にスカーレットを殺害したのでは。」


 レストレード警部は首を振る。


「彼が犯人なら、口論の後すぐまたスカーレットの部屋に行けばハインリヒに犯行がばれると考えるはず。

ハインリヒに気づかれないよう彼が眠るまで待ってから行動に出たのだとすると、温室に祭壇をつくり雨が止むまでに遺体を沈めることはできないでしょう。」


「では、遺体を沈めたあとに祭壇をつくったのだとしたらどうでしょう。

雨が止む前に遺体を沈め、2時以降に祭壇をつくったとすれば。」


この意見はカメリアによって否定された。


「祭壇に置かれた赤い薔薇は正面側の庭園に咲いていた花ですわ。

そちらにも足跡は残っていなかった。

するとやはり雨の降っている2時までの間に祭壇はつくられたのでしょう。

それに話し合いが終わってからアドラー伯爵は正面側の庭園が見える居室にいたのですから、もしヤコブが犯人だとすれば薔薇をとりにいくところをアドラー伯爵に目撃されるはずです。」


 スカーレットを殺害する動機を持つ人物として怪しいのはヤコブだが、最も確かなアリバイを持つのもまたヤコブなのだ。

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