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4 三人の男

次に話を聞いたのはアドラー伯爵夫妻の娘、エラだった。

しかし彼女の話からはほとんど何の手がかりも得られなかった。


エラは申し訳なさそうに言った。


「私は夜会の後、すぐに自分の部屋にいって眠っていましたので何も見ていないのです。

夜会の場でもスカーレットさんは父様や兄様など男性がたと話していらしたので、私とは会話もしませんでした。

ですから、私がお話しできることはほんとうに何もないんです。」


「あなたの寝室はスカーレットに貸された客室と同じ2階でしたね。

夜の間に争う声が聞こえたり、スカーレットの部屋に誰かが尋ねてきたということはありませんでしたか。」


レストレード警部の質問にエラはふるふると首を振った。


「昨日は疲れていてぐっすり眠っていましたので、気づきませんでした。

そういったことがあったかどうかわかりません。」


エラの事情聴取を終えたあと、私はカメリアに尋ねた。


「カメリア様、どう思われますか。

エラは事件とは無関係なのでしょうか。」


「彼女は知らなすぎますわ。

昨夜の伯爵夫妻とヤコブとの話し合いが行われたことも、ハインリヒとヤコブが口論になったことも知らなかったようです。

やや不自然な気がしましたわ。」


レストレード警部も頷く。


「本当は何か知っているけれど、隠しているのかもしれませんな。

たとえば、誰かを庇っているとか。」




エラと入れ違いに、彼女の兄ハインリヒが部屋にきた。

髪を後ろに固めているため真面目そうなペールグレイの瞳がよく見える。

その目元がやや赤く腫れているのが、ハインリヒがスカーレットの死に心を痛めていることを示していた。


「スカーレットとあなたが会ったのは昨夜が初めてだったんですよね。

しかしあなたは昨夜の間に彼女と親密になった。

あなたとスカーレットが共にいたところ、夜会の後も話し込んでいたところが目撃されています。」


ハインリヒは「間違いありません。」と肯定する。


「近づいてきたのはスカーレットのほうでした。

彼女は僕を揶揄っていただけかもしれません。

でも僕の方は彼女に惹かれていた。

それが、たった一晩でこんなことになるなんて。」


「昨夜あなたが何をしていたか詳しくお話しいただけますか。」


「10時に夜会が終わった後、ご存じのとおり僕はスカーレットと一緒にいました。

しばらくして母がスカーレットに泊まるようにいい、彼女を部屋に案内するというので、僕はスカーレットにあとで温室で会おうといったのです。

それから僕は温室で彼女を待っていました。

ちょうどその時うちの庭師が温室に花瓶を置きにきて僕と鉢合わせています。 

11時半になってもスカーレットは現れなかったので、彼女の気が変わったんだと思い諦めて自分の部屋に行きました。」


「スカーレットを呼びにいくことはしなかったのですか。」


「しませんでした。」


「11時半以降はあなたはずっと自室にいたのですか。」


「寝付けなかったので、一度飲み物を取りに部屋を出ています。

1時ごろでしょうか。

そのとき、廊下から叔父のヤコブが2階から降りてくるのを見かけました。

叔父は急いだ様子で、階段のすぐ近くの叔父の部屋に駆け込んで行った。

2階はスカーレットが泊まった部屋がある。

だから僕はそのとき不審に思い、叔父に問い詰めようと彼の部屋の前へいったんです。

そしたら叔父が部屋から出てきた。

そして口論になったんです。」

 

「どのようなことを言い争ったのですか。」


「叔父はずいぶんと酔ったようすでしたから、まともな会話になりませんでしたよ。

僕は叔父に2階で何をしていたんだ、と聞いたのですが彼は僕を罵倒しはじめた。

ひとしきり僕を罵って廊下の壁に突き飛ばすと、叔父は部屋に帰って行きました。」


1時にヤコブとハインリヒが口論をしたという証言はアドラー伯爵夫人の話と一致している。


ハインリヒは髪を撫で付けながら、「こんなことは言いたくないのですが、僕は叔父を疑っている。」とこぼす。


「叔父はスカーレットに執着していたけれど、相手にされていませんでしたから。」



ヤコブはあまり好感の持てる人物ではなかった。

部屋に入るなり、カメリアに「あんたが噂の悪趣味な令嬢か。殺人事件が見れてよかったな。」と下品に笑いかけた。

レストレード警部に対しても不躾な態度をとり、捜査に協力的ではなかった。


しかしヤコブは11時から12時半までアドラー伯爵夫妻と話し合いをしていたこと、1時ごろハインリヒと口論になったことを認めた。

2階に行ったことについて、ヤコブは「あの踊り子の部屋にいったんだよ。」と述べた。


「奴さん、散々俺から金を巻き上げておいて、兄貴に気に入られたら俺のことは用済みだと言わんばかりに邪険にしやがった。

直接文句を言ってやろうと思ったんだよ。

けどよ、扉を叩いても返事もしねぇんだ。

だから俺は怒って部屋に戻ったんだよ。」


「あなたは急いだ様子で2階から部屋に戻り、再び部屋を出たところでハインリヒ氏と鉢合わせたのですよね。

何をしに部屋を出たのですか。」


「覚えてねぇよ。

昨日は結構飲んでたからな。」




最後に話を聞いたのはアドラー伯爵だ。


「スカーレットの舞う姿は本当に美しかった。

あの芸術が永遠に失われてしまったのはとても惜しい。」


伯爵夫人の話のとおり、彼のスカーレットを芸術品を愛でるように気に入っていたようだ。

アドラー伯爵は事件の夜についてこう語る。


「11時から12時半まで、私は妻と共に弟ヤコブと話し合いをしていた。

その後私は妻に先に寝るようにいって、1時半を過ぎるまで一人で酒をのんでいた。

一階の正面の居室からは庭園が見えるだろう。

私はそこでゆっくりと酒を飲むのが好きなのだ。」


「あなたがいたという居室からは門へと続く庭園が見えますね。

屋敷外へ出て行く人物や、屋敷へ侵入する人物は見ませんでしたか。」


「見ていない。

夜の間は誰も出入りしていないはずだ。」


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